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【お仕事回顧】鬼に堕ちた男の末路を描いた物語

【お仕事回顧】この記事はなにか?
・ポートフォリオ的に見せるものです
・自分がスランプに陥ったときに振り返るお話の作り方の備忘録
です

公開許可を取っていないものもあるのでタイトルはボカしてあります
お話の作り方などを記載してあるのでネタバレがあります
(タイトル非公開なのでネタバレも何もないですが)


概要

ファンタジー世界が舞台の王道ファンタジーの世界観で、和風の国を舞台に主人公の去就を描いた異種交流譚。


期間

2019年3月~2019年4月

依頼元、依頼経緯

ゲーム制作会社、リピート依頼

関係者

企画窓口担当の方、打ち合わせ無し

仕事内容

ストーリーシナリオ、キャラクター設定、ストーリープロット制作、ストーリーシナリオ制作、その他テキスト各種制作

資料

特になし

納品物

企画大枠、キャラ設定、ストーリープロット、シナリオ、キャラボイス台本

ボリューム

60分尺のアニメくらいのボリュームをイメージ

時系列

各ストーリー依頼→作業→納品

概要

 ひとことプロットは
「国の後継ぎに選ばれなかった主人公が、鬼との出会い・交流によって自分なりの挟持を見つけ、妹に後を託す物語」でした。

 ストーリーの軸は「回顧録型」です。
 現在の主人公の独白などから、過去から現在に至るまでの経緯を時系列で追っていき、主人公の今にたどり着くまで、「そして私は◯◯になった」までを描くストーリー型です。

 今回の主人公となる男性は「鬼(世の中に害を成す凶悪な存在)となって国を滅ぼそうとしている」という状況だけがこれまでのストーリーの中で描かれていました。主人公がどうして、どういう思いで鬼になったのか、という経緯が描かれていなかったため、今回のストーリーでそのエピソードを形にすることができました。
 いつかこの経緯をひとつの物語としてまとめたいと考えていたため、依頼が来た時に「ついにやれる!」とテンションが上がったのを覚えています。

 設定したキャッチワードは「鬼」「後継者」「神器」「刀魔」「鬼哭」です。「刀魔」はタイトルにも使用したワードです。タイトルは山田風太郎の小説「魔界転生」をもじってつけました。歴史上の偉人が魔界の力で転生する物語ですが、内容は一切関係ありませんが、今回のストーリーの仄暗い雰囲気の参考にさせていただきました。

 キャラクターのモチーフについて。
 メインキャラクターは主人公とヒロイン、その脇を固めるキャラクター達です。主人公については、モチーフは特にいません。ヒロインについては大江山の酒呑童子の伝説や、日本の昔話に出てくる「鬼」のエピソードを参考にしながら組み立てました。「鬼」といえば桃太郎をはじめいろんなお話で討伐される存在ですが、基本的に退治する側に沿って語られる物語を、退治される側に立つとどう見えるのか、というのを軸にお話を組み立てました。
 大好きな和風ファンタジーの世界観を舞台にしたストーリーということもあり、主人公とヒロインについては自分の好みをこれでもか、と集約させました。
 実直で言葉少なめ、からかわれがちで不器用な主人公と、そんな主人公をはんなり京都弁でからかってくるヒロイン、というキャラの関係性はもう最初からこれでいこう、と頭にありました。これについてはロジックとか一切無いです。それが好きなんです。

 主人公の名前……というか主人公の血縁者については、春の七草、秋の七草から名前をいただきました。どうして七草から採用しようとしたのかは思い出せません。

 描きたかった感情は「じゃない方哀愁」「異種間恋愛」「鬼の目にも涙」です。「じゃない方哀愁」はネーミングはふざけてますが、言うなれば選ばれなかった人間が感じる悲しみや悔しさ、苦しみといった感情のイメージです。
 「異種間恋愛」は同種(人間と人間)の恋愛ではなく民族の壁、種族の壁など、あらゆる障害ある中、それを乗り越えて結ばれようとする恋愛感情のイメージです。個人的な癖でもあります。
 「鬼の目にも涙」は、強く恐ろしく見える鬼も泣くことがあるということから転じたことわざですが、どうやって強く恐ろしい鬼を泣かせるか、シーンとしても鬼が泣くシーンをどう入れるか、という点に悩みました。 キャッチワードにもしている「鬼哭」は「鬼哭啾々(亡霊の泣き声が、しくしくと聞こえるようなさま)」から取っています。

あらすじ

 舞台となる国には妖怪を退治する力を持つ「神器」があり、国を率いる将軍は代々その神器を振るう力を受け継ぎ、国を守っていきます。将軍となる人間は神器に選ばれることで、国を継承する資格となります。
 将軍家の嫡男として生まれた主人公は、14歳の若さにして文武両道の努力家として周囲から非常に期待される人格者でした。そんな主人公のただ一つにして唯一の欠点が「神器から選ばれない」ことでした。
 才能もあり努力も惜しまない主人公ですが、将軍の跡取りとして選ばれず、しかもその理由がよくわからない(どういう理由で神器に選ばれるのかは謎)。しかも、自分よりも幼い妹がどうやら神器に選ばれている様子……とくれば、思春期の男子としては気持ちのやり場がありません。がむしゃらに努力を重ねますが、その努力が合っているのかすらわからない暗闇の中を主人公はもがきます。選ばれない悲哀、それに落ち込む弱い自分、それらを払拭できるような圧倒的な力があれば、と主人公は願います。
 
 そんなある日、主人公は強靭で敵なしの鬼と出会います。見た目は幼い童子のように見えて傍若無人の強さを持つ鬼。鬼は戦国の時代に人の世を荒らしたとされている伝説の鬼の首領でした。主人公はその圧倒的な強さに魅せられます。
 鬼は最強の力を持ちながら、人の世を避け、唯一の肉親である妹の看病をしながら国のあちこちを旅していて、主人公の国にしばらく滞在しようとしていました。鬼に対して同情した主人公は、悪さをしなければ滞在してもいい、という約束を交わします。
 強さを求めるために鍛錬する主人公と、それをからかう鬼の交流の日々が流れます。鬼の妹の病状は思わしくなく、時折怒りの感情に呑み込まれて人間を殺そうとしてしまいます。妹がそうなった時は自分が責任をもって妹を殺す、と鬼は主人公に答えていました。
 やがて鬼は国の人間に見つかり、鬼を退治するための討伐隊が組まれることになります。鬼にとって討伐隊を返り討ちにすることは赤子の手をひねるようなものでしたが、鬼は主人公との約束を守り、人間に一切の手出しをしませんでした。
 主人公は神器に選ばれず、鬼は人の世から弾かれる。鬼に同情した主人公は心を動かされ、鬼が鬼のまま生きられる世を望み、鬼を守ります。
 鬼は主人公に礼を言うとともに、主人公の苦しみを消す言葉を与えます。神器に選ばれなくても、あなたはあなたらしくあればいい。
 その言葉で主人公は救われた気持ちになります。そして、守られない、選ばれない者の気持ちがわかるからこそ、弱きを守るために刀を振るう。主人公はそんな矜持に気づき、自分の進むべき道を見つけます。やがて主人公は成人し、神器に選ばれなかった、という負の感情に負けずに、誰もが認める立派な武士になります。
 地位も名声も手に入れた主人公の元にある時、人々を苦しめる鬼の噂が届きます。
 それは、呪いに蝕まれた鬼の仕業でした。その正体は、かつてあの鬼が看病していた唯一の肉親である妹でした。鬼は呪いに侵された妹を殺せずに苦しんでいました。
 呪いにかかった鬼を殺せば、その呪いは殺した相手に受け継がれます。が、鬼が妹を手にかけられなかった理由はそれではありませんでした。唯一の肉親である妹を殺してしまえばひとりぼっちになってしまう。そんな弱い人間が抱く寂しさを、鬼は思い出してしまっていました。
 主人公との約束を守れなかった、と最強の鬼が涙を流します。
 鬼の涙に触れて、主人公は鬼を守り、鬼の妹を手にかけることを決意します。
 主人公を失うわけにはいかない、と鬼は、妹を殺し、呪いを自らが受ける覚悟を決めます。鬼によって妹が倒れ、呪いは次の宿主を求めて鬼に向かいます。
 鬼をかばい、呪いを身に受けたのは主人公でした。主人公はその身に呪いを受けて、鬼になってしまいます。
 守りたい者を守れた主人公に後悔はありませんでした。自分が人間に害を成す鬼になってしまったとしても、この国には妖怪を退治する神器があり、その神器に選ばれた妹がいます。妹に後を託して、主人公は闇へと消えます。

感想

 オチがすでに決まっていたため、主人公が闇に堕ちる、という結果に向けてどう展開を持っていくか、気持ちの変化をどう描くかを軸に構成しました。ネガティブな気持ちを抱えたまま闇堕ちさせるだけではストーリーを描く意味がないので、ちょっと言葉は矛盾しますが「充足感のある闇落ち」を目指そうと決めていました。

 書きたかったシーンは「不器用な男のストレートな告白シーン」です。恋愛モノと告白シーンは死ぬほど苦手ですが、印象に残るシーンと、印象に残る決めセリフにしようと悩みました。これを考えるのに一番時間をかけた記憶があります。結果的には非常にお気に入りのシーンになりました。が、そのシチュエーションを作るためにアレコレ設定が必要だったり組み立てが複雑だったりと、増築を重ねて苦労した記憶があります。

 サブキャラクターで朱槍を携えた豪傑のキャラクターが出てきますが、そちらは明確に前田利益(前田慶次郎)をイメージしています。歴史上の人物像よりは、『一夢庵風流記』や『花の慶次』で描かれる人物像の方ですが。このキャラの外連味のある芝居がかったセリフを考えるのは楽しかったです。
 主人公の苦悩や成長を陰ながら見守り、その結末に涙した母親の心情は、この頃親になりかけていた自分にとっては刺さった感情でした。

 終わってみればストーリーは僕の性癖の詰め合わせでした。
 和風の世界観とファンタジーが融合したストーリーが大好きです。人と人ならざるものの交流を描く異種交流の物語が大好きです。
 人格者で努力家なのに、自分の能力や努力ではどうしようもない「血」とか「才能」が壁となって「じゃない方」とされてしまい、苦悩する主人公なんて、いじめがいがありすぎます。
 見た目を変化させることのできる角の生えたヒロインなんて最高じゃないですか。はんなり京都弁で微笑みながらからかってくる年上キャラって……いいですよね?
 そんな2人の交流と恋愛を描くのはもはやボーナスステージでした。今回の物語は悲恋として書きましたが、2人がどういう結末を迎えるかはすでに決めてあったので、早く次が書きたくて仕方ありませんでした。

まとめ

 シリーズの結末に向けた繋ぎのストーリーという位置づけだったため、どうしても中途半端感が拭えない結末になってしまった点が反省点です。主人公の心情がブレないように書けた印象はありますが、今あらすじをまとめてみて、改めて「ここをこうすればよかった」とか「こうすればもっと……」というシーンが沢山あって反省中です。

 受験や恋愛、就職活動やオーディションなど。人間は生きている限り選別され続けます。選ばれなかった悔しさや怒り、時には絶望を味わうことも、生きていれば必ずあります。
 選ばれて輝くことは素晴らしいですが、確率的にも選ばれずに落ち込むことの方が多いのは当然です。そこで腐ることなく自らを省みて努力をして、自分なりの光を見つけ「自分はじゃない方だけど、それでもいいんだ」と考えられるようになることの難しさたるや……。
 その過程で生まれる苦しみや慟哭をしっかり描くことが目標でした。ネガティブな感情なのかもしれませんが、そういった感情こそ人間、と強く思いました。

印象に残っているシーン&セリフ

思春期の主人公が母に悩みを吐露するシーン


苦悩する主人公と母親の会話。主人公の悩みを凝縮させた会話。「自分じゃない」と薄々気づいている時の気持ちって複雑ですよね。


「どうしました、浮かぬ顔で。」

「桜花の節句で披露した貴方の剣舞を、上様は絶賛していました。うつむいていては、その誉れにも影が落ちようというもの。」

「……………………母上。父上は……上様は齢9の頃、神器の力に目覚めたと聞きます。」

「……そうですね。」

「先代の将軍は11の頃、先々代は生まれながらにして、神器の呼ぶ声が聞こえたと……。将軍家を継ぐ者は、トウドに代々伝わる四種の神器を受け継がなければならない。だというのに、母上。
私は、私には……。神器の声が聞こえないのです。」

「……年齢など参考にはなりませんよ。今、神器の声が聞こえないとしてもいずれ。それに、貴方ならば神器が無くとも……。」

「嘘だ。スズシロが迷子になり、誰もが見つけられず途方に暮れていた時……。私は見たのです。霊刀サヤキギリが淡い光を放って、スズシロが泣いている方向を指し示したのを。」

「なぜですか、母上。将軍の跡取りとして、努力を惜しんだことなどない。この身をトウドのために捧げることに、なんの迷いもない。それなのに、なぜ……。なぜ私ではなく、スズシロなのですか……。」


主人公とヒロインの別れのシーン


「あなたはあなたのままでいい」って人から言われたい言葉ベスト10に入るかもしれませんね。落ち込んでいる時は特に。

「……おおきにな、ゴギョウちゃん。ウチはウチやって言ってくれたん、嬉しかったよ。
ゴギョウちゃんも同じやで?」

「俺も……?」

「神器に選ばれへんかっても、ゴギョウちゃんはゴギョウちゃんらしく生きればええんやで。」

「っ…………!!」

「ほな行くね。ゴギョウちゃん……立派なお侍さんになってな。」

「……わかった。約束だ。お前が悪事を働いたら、俺が責任を持って退治しよう。」

「……ふふ、真似っ子やな。でも……ゴギョウちゃんに退治されるのは悪くないかもな。」

見送った後、想いに耽って

(どうして、あいつを悪く言われると怒りを覚えるのか、どうしてあいつを守ろうと思ったのか……理由がようやくわかった。)

(異端同士だからだ。将軍家に生まれながら神器に選ばれなかった俺。妖魔ゆえに人の世から弾かれる鬼。俺はあいつに、自分を重ねていたのだ……。)

(俺が成すべきはなんだ。将軍の子でありながら、神器に選ばれぬ俺にできること。俺が果たすべき使命とは……。)


ヒロインを守るために主人公が身を挺して呪いを受けるシーン


理屈と義理を通してからしっかりと足を踏み出すような実直なキャラが、理屈も義理も投げ捨てる瞬間こそエモさを感じます

「幽世の鬼を払えるのは……神器のみ。神器を扱う資格を持たない俺には、お前を救う方法は……これしかない。」

「あほ! 妖刀に体を奪われるんやで!鬼に……鬼になるんやで!?」

「ウチが呪いを受けるのに!!妖刀に堕ちたウチを、神器でやっつけたら終わるんよ……!』

「将軍家の剣術指南役、シノノメ家では鬼のみなし子を養っている。」

「……………………?」

「サカイでは、鬼の商人見習いがいるそうだ。人間の中でも……鬼は生きていける。」

「ゴギョウちゃん、なんで……?」

「なんでウチのために、鬼のために……。」

「異端……同じ境遇だから。…………………………いや……。」

「惚れた女を守るのに……理屈など邪魔だ。」

「あほ……。ゴギョウちゃんは、ほんまにあほや……。ウチはやっぱり鬼なんやな。ゴギョウちゃんの心を、惑わせた……。」


豪傑キャラの名乗りシーン


歌舞伎の見得を切るシーンや、ヤクザの挨拶なんかを参考にしました。実際に口に出してみながら作るこういうセリフ大好きです。

「問われて名乗るもおこがましいが、聞かれたならば応えよう!
天下無双を知る者は、誰もが耳する豪傑婆娑羅。鬼退治にて名を馳せた、戦神(いくさがみ)の転生者!この身にとうと流るるは、剛将フガクの戦の血!強靭な肌は鋼の如し、宿る剛力は山をも砕く。
流浪の武辺者、天下に咲く大輪の花、
朱槍のリンドウとはあたしのことだ!」

「さぁさぁさぁさぁ、快刀乱麻、天地無用!唯我独尊の槍さばき!我こそはと名乗りを上げよ!塵界無双の武辺者っ!剛槍朱槍の一撃でっ!!妖魔天魔に魑魅魍魎、砕いて散らせてしんぜよう!!」



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