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48 首の痛み Neck Pain

Kelley's 48章、Neck Pain。頚部痛を一からまとめたのは初めてで、とても勉強になりました。脳外科の部長からneck painについていろいろ教えていただき、楽しい時間を過ごすことできました。

キーポイント

  • 首の痛みはよくある主訴で、莫大な医療費と訴訟費用を伴う。

  • 保存的に管理できる首の痛みと、積極的な治療をすべき首の痛みを区別すべし。

  • 解剖学の知識は、筋骨格系・神経原性・血管性からくる症状の診断と鑑別に役立つ。

  • 病歴と身体診察により、解剖学と生理学に基づいて頸部痛の原因を特定できる。

  • 画像検査、神経生理学的検査、臨床検査は、診断と治療方針の決定に役立つ。

  • 脊椎の不安定性、神経障害、感染症、腫瘍性疾患がなければ、保存的治療でよく時間の経過とともに回復が期待できる。


はじめに

・頚部痛といっても、患者によっては肩だったり頭痛だったりします。
・まずはどこで(部位)何が起きているか(病態)を、病歴と身体診察(見て、触って、動かす)からはっきりさせていきましょう。
・頚部痛の実践的アプローチと、解剖学的な分類を説明したあとに、Pearl and Mythに移ります。

頚部痛のアプローチ- 危ないもの、treatableな疾患に焦点をあてる 
step1. 本当に頚部の痛みかどうかを確認する
(聞いて、見て、触って、動かして) 
step2. 危ない病気・治療できる病気を探しに行く
・危ない病気:血管系(クモ膜下出血、椎骨動脈解離)、外傷(頸椎骨折・脱臼、頚椎損傷・圧迫骨折)、感染症(髄膜炎、椎間板炎)
・治療できる病気:神経根症、脊髄症、頸椎偽痛風(Crowned dens syndrome)、環軸椎亜脱臼
step3: 保存的でよい病態
(主にaxial neck pain: 椎間板・椎間関節・筋筋膜系)に対してアドバイス

筆者が作成

解剖学的な分類
・Kelleyでは頚部痛を解剖学的に、Axial Neck Pain(軸性疼痛)と、Radiculopathy and Myelopathy(神経根症状、脊髄症状)の2つに分けています。
Axial Neck Pain軸性疼痛
・神経根や脊髄に由来しない脊柱軸に沿った疼痛であり、頸椎椎間板、椎間関節(facet joints)、椎間周囲骨膜、後頚部筋、後部硬膜、椎骨動脈などからの痛みがある。
・首を動かすと増悪するのが特徴で、原因は、変性、外傷、悪性腫瘍、感染症、全身性の炎症、喫煙などがある。

Radiculopathy and Myelopathy (神経根症・脊髄症)
・神経根症:頚椎の間で脊髄から分岐した神経根が圧迫されたり炎症を起こしたりすることで、頚椎の特定の領域から腕や手に痛みやしびれが生じる。
・手に痺れがあったら神経根症を疑い、Spurling's Testを行う。通常は陽性。
・脊髄症は脊髄圧迫による中枢神経の障害で、首や四肢の痛み・しびれ、筋力低下、膀胱直腸障害などが生じる。

Pearl:アボリジニーは痛みをあまり訴えない。

Comment: Honeyman and Jacobs noted that Australian Aborigines significantly underreport pain and are rarely disabled by pain. Social circum- stances also play an important role in an individual’s ability to cope with and overcome neck pain.
- Spine 1996; 21: pp. 841-843.

・最初は疫学の話です。
・オーストラリアのアボリジニーは痛みをかなり過小評価する傾向にあり、痛みによる障害は稀である。
・頸部痛の障害有害率は67-71%であり、スウェーデンでは頸部痛・腰痛の年間総費用が国民総生産の1%になる。
・アメリカでは頚部痛に関する医療費や訴訟費用は年間290億ドル(約4兆円)に及ぶ。凄い金額です。日本の国家予算は114兆円ぐらいです。
・椎間板術後の予後は、労災請求や訴訟を抱えている患者が悪いというデータもあり、頚部痛が利益のためであり器質的でない因子が関連していることを示唆している。
・頚部痛の疫学は所変われば品変わる、ということ。

Pearl:頚部痛の「Red Flag Sign」は、悪性腫瘍、免疫不全、発熱、悪寒、原因不明の体重減少、倦怠感、夜間の覚醒、最近の菌血症、重度の頚部痛

Comment: Red flags for axial neck pain that require further workup at the initial presentation include elderly patients or patients with a history of malignancy, immunocompromised patients, fevers, chills, unexplained weight loss, fatigue, nighttime awakening, recent antecedent bacteremia, and severe non mechanical neck pain.
Phys Med Rehabil Clin N Am 14:589–604, 2003.
・腰痛のred flag signとにていますね。悪性腫瘍、感染症、内臓疾患(特にVascular)。VINDICATEの「VIN+ T」です(vascular, infection, neoplasma+ trauma)
・まずTrauma: 頸椎骨折・脱臼、頚椎損傷・圧迫骨折、大事なことは怒涛の反復。
・Vascular:クモ膜下出血、椎骨動脈解離、脳底動脈血栓症。
・Neoplasma:骨転移、肺がん、骨腫瘍(稀)。脊椎は骨転移のもっとも多い部位であり、がん患者の5-10%は脊椎転移あり。
・Infection:化膿性椎間板炎、硬膜外膿瘍、髄膜炎。頻度が多い菌は、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、大腸菌、緑膿菌(IV drug user)。
・その他:膠原病科的に多いのは、頚椎偽痛風「Crowned dens syndrome」、見つけると盛り上がるのが石灰化性頚長筋腱炎。関節リウマチの環軸椎亜脱臼にも注目。

Pearl:無症状のボランディアに椎間関節(facet joints)に刺激注射をする再現性の後頚部痛が出現する

Comment: Provocative injections into the facet joint in asymptomatic volunteers invoke a reproducible pattern of occipital or axial neck pain
- Spine (Phila Pa 1976) . 1990 Jun;15(6):453-7.


青:椎間板、赤:椎間関節(facet joints)

・頚部痛の軸性疼痛のなかで、解剖学的部として多いとされるのが、椎間関節と頸椎椎間板とされている。
・椎間関節からくる痛みは、その部位にブロック注射により痛みが和らぐことで正確に診断ができる。
・保存的な対応になるので臨床的な重症度は低い。
・プチパール:facet jointsの痛みは首よりも腰の方が多いです。

Pearl: 頸椎椎間板から痛みが生じるかどうかはcontroversialである

comment: The cervical disk is a more controversial source of axial neck pain, with pain occurring as a result of insult of the highly innervated annulus fibrosis.
・椎間板の痛みはcontroversialである。えー!。Facet jointsに痛みが生じるのはコンセンサスが得られているが、椎間板に痛みが生じるかは実は分かっていない。kelleyはどちらかというと、痛みの原因になる派のニュアンスで書かれています。原因にはならない、派の先生も多いようです。
- Interventions directed at treating the disk for isolated axial neck pain have been found to be unpredictable, despite the fact that the cervical disk likely contributes to axial neck pain.
・Pro: facet joint同様、椎間板に透視下で注射すると痛みが誘発される。神経支配の強い頸椎椎間板の損傷によって痛みが生じると考えられている。
・Cons: 疼痛誘発テストは慎重にやっても偽陽性所見が多いし、椎間板が正常な部位も疼痛がでたりもする。
Pain . 1993 Aug;54(2):213-217. 

Axial Neck Painは他にもいろいろ書いてあります

上部頚椎の変性関節炎は大後頭神経の刺激から生じる頭痛として現れることがあり、頚原性頭痛、と呼ばれる。

Degenerative arthritis within the upper cervical spine can manifest as suboccipital headaches, termed cervicogenic head- aches, which are thought to result from irritation of the greater occipital nerve.

黄色が大後頭神経


大後頭神経由来と思われる後頭部痛が頚椎の変性や損傷により起こることがある。

Myth: 乾癬性関節炎で頚部痛は稀である

Reality:  PsA is more often associated with the presence of asymmetric sacroiliitis, non-marginal syndesmophytes, asymmetric syndesmophytes, more frequent involvement of the cervical spine, and less frequent involvement of the lumbar spine.
・稀な脊椎関節炎のなかでも比較的日本で見られる乾癬性関節炎の病変は、腰椎よりも頸椎に病変が多い。
・欧米に多い強直性脊椎炎は腰椎に症状が出て、その後に頸椎が侵される
・頸椎病変が稀なのは反応性関節炎である-  reactive arthritis rarely involves the cervical spine.

Pearl: 筋筋膜性の疼痛は頚部の屈曲で、椎間板による頚部痛は頚部の伸展や回旋で増悪する

commment: Localized pain of myofascial origin may worsen with neck flexion, whereas diskogenic neck pain will worsen with neck extension or rotation.
軸性疼痛は、頭を動かすことや特定の姿勢で痛みが強まることが特徴であり、筋筋膜性では屈曲、椎間板で伸展や回旋で増悪する。
・椎間板の痛みが生じる、という前提で書かれています。controversialではなかったのかっ!
・病歴でOPQRSTを聞いていって、病変が筋肉、骨、椎間板、神経根なのかを探っていく。
・期間が短いものは筋緊張などの良性疾患が多いが、症状が長く続く場合は、重大な疾患や進行背の疾患を意味する。
・局所的な痛みが強い場合は、神経根症状のことが多いが、筋肉・関節、骨、椎間板などのこともある。
・屈曲、伸展、回旋どこでもっとも痛いかも重要な情報である。

首の運動は、屈曲・伸展、回旋、側屈の3つあります。
・変性疾患は側屈が障害されやすい。


年齢ごとの首のRang of motion

・屈曲・伸展、回旋、側屈、すべてに激痛で炎症反応が高い場合は、頸椎偽痛風を疑います。
年齢があがると側屈制限と屈曲制限がきていることが分かる。

ここでaxial painは終了。

神経根症状のまとめ

局在する片側の痛みで神経根症を疑う。手先のしびれがあれば神経根症状を考える
・Spurling テストで痛みが再現あるいは増減されれば、より神経根症らしいと言える。
※頚椎を患側へ側屈させ頭部に圧迫を加える
Pearl: ただし手のしびれがない、例えば肩の背部痛だけの神経根症もあるので注意。

Myth: 神経根症の痛みはきっちりデルマトームに一致する

Reality: Pain may be somatic or autonomic and is not always felt in precise anatomic zones. Overlapping sensory supplies may be present, as well as radiation in spinal segments by recruitment within the spinal column, causing difficulty in localization. Neurologic deficits correspond with the offending disk level in 80% of patients.
- Neuro- surgery 13:504–512, 1983.
・痛みは体性または自律神経性の場合があり、 必ずしも正確な解剖学的領域で感じられるとは限らない。
・神経学的障害は患者の80%において、原因となる椎間板レベルに対応している。
・つまり、デルマトームは参考にするが、必ずしも正確な解剖学的な領域では感じるとは限らない、ということです。
・頻度が多いのはC6、C7です。


デルマトーム

C3: 耳の後ろまで広がる後頭下部の痛み
C4: 頚部から肩にかけての痛み
C5: 肩から腕の外側、中間部にかけてのしびれ、三角筋の筋力低下、上腕二頭筋反射の障害。
C6: 腕と前腕の外側から親指と人差し指にかけての放散痛としびれ("six shooter");手首の伸展、肘の屈曲、上腕の伸展の脱力;上腕二頭筋反射の低下。
C7: 腕と前腕の後面から長指にかけてのしびれと痛み、上腕三頭筋、手首の屈曲、指の伸展筋の脱力。
C8: 腕と前腕の内側から第4指、第5指にかけての痛みとしびれ。


C6, C7が多いので、手先のしびれをチェックする。C6は橈側。

 Pearl: 神経根症が狭心症や女性の乳房痛と混同されることがある

comment: Pseudoangina pectoris has been reported as a result of cervical spinal disease and can be confused with angina pectoris or breast pain in women
・いわゆるcervical anginaと呼ばれるもの。C6-7に病変があると、前胸部や肩甲骨部位の痛みがでることがある。これは覚えておきたい!
・筋力低下、筋攣縮、感覚低下、腱反射異常で、神経疾患を疑う。両疾患についての知識がある程度あればOPQRSTで鑑別はできると思います


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