60 急性期反応物質 Acute Phase Reactants
Firestein & Kelley's Textbook of Rheumatology, Eleventh Edition
60章はCRP、赤沈、SAA、プロカルシトニンなどの急性期反応物質
キーポイント
炎症は、感染や傷害による組織損傷に対する反応を示す、複雑で非常に多様な一連のプロセスからなる。
赤血球沈降速度(ESR)は、炎症の臨床的指標として一般的に用いられているが、血液の物理的・化学的性質に依存しており、その多くは炎症とは無関係である。
急性期蛋白の代表格であるCRPは、臨床においてバイオマーカーとして有用であるばかりでなく、オプソニン効果、補体経路の活性化、白血球との結合によって宿主防御の役割を担っている。
CRPとESRは関節リウマチの疾患活動性を反映し、疾患の予後と相関するが、鑑別診断には役に立たない。
多くの炎症性疾患ではCRPとESRは臨床的活動性と相関するが、活動性の全身性エリテマトーデス患者の一部ではCRPの反応がないか、あるいは軽度の上昇にとどまる。
軽度のCRP上昇は心筋梗塞などの心血管系疾患の危険因子である。
はじめに
・炎症反応は、感染や傷害による組織損傷に対する身体の防衛反応である。炎症反応の刺激がなくならない場合が慢性期に起こることがある。炎症が過剰であったり制御不能の場合、自己免疫疾患、アレルギー反応、敗血症性ショックが生じる。
・炎症という概念は、何千年もかけて発展してきた。ケルススは、赤み、腫れ、熱、痛みという主要な徴候を約1 世紀に初めて記述した。5番目の徴候である機能障害は、2世紀のガレンの研究によるとされる。
・白血球増加は、感染症、結晶性関節炎、成人スティル病のような炎症性疾患にみられる。貧血は、関節リウマチ(RA)のような慢性炎症を引き起こす疾患に関連する。反応性血小板増多症は、感染性または炎症性のイベントの後に二次的に起こる。
・炎症を知るために医師が最もよく用いる臨床検査は、赤血球沈降速度(ESR)や血清C反応性蛋白(CRP)などの急性期反応である。ESRは古典的な炎症マーカーだが、現在はCRPが重要な役割を果たしている。プロカルシトニンのような他の新しい炎症マーカーも認められているが、その臨床的有用性はまだ十分に検討されていない。
・CRPの軽度の上昇は、炎症性疾患だけでなく心臓血管系に関与する疾患で認められている。
Pearl: CRPやSAAは急性感染症のときには通常の1000倍以上に増加し2-3日でピークに達する。
Comment: CRP and serum amyloid A (SAA) levels increase more than 1000-fold during acute infection and peak at 2 to 3 days. Concentrations of other proteins peak at longer periods and can range from a 50% increase in complement and ceruloplasmin, to a several-fold amplification in haptoglobin, fibrinogen, α1-proteinase inhibitor, and α1-acid glycoprotein.
・補体は50%程度、ハプトグロブリンやフィブリノゲンは数倍程度しか上昇しない。
・炎症のときにあがる血漿蛋白は多くあるが、CRPは通常の1000倍程度と他のマーカーと比べても感度の高さが際立つ。普段が0.01ぐらいとして、その1000倍は10なので、たしかに1000倍は上がりそう。ESRが高いと言っても100<ぐらいなので、高くて10倍程度。
・プロカルシトニンはどの程度か。あまり使い慣れていないのでピンとこないが、一般的にはこんな感じなので、0.05→2とすると40倍ぐらい。1000-10000の桁のCRPはやはりすごい。
Pearl: 血清アミロイドA蛋白(SAA)は鋭敏に反応するよい炎症マーカーであるが、CRPと比較し優位性が乏しく測定技術も困難なことによりあまり使用されていない。
・Kelleyにはあまり記載がなかったため、いろいろ調べてみました。
・SAAはIL-6、IL-1Β、TNF-αなどのサイトカインの刺激で産生される急性期反応物質である。
・6時間で上昇し2-3日でピーク、7-10程度で正常化する。
・上のグラフのように数値の動きもCRPと似ており、さらに多くの疾患でCRPと強く相関する。CRPのように鋭敏で非常によい検査のように思うのですが、なぜ測定されていないのでしょうか?
・その理由は、①CRPと比較して優位性が乏しい、②SAA値の測定が技術的に難しい、ということのようです。
・ウイルス感染やステロイド内服時は、CRPよりSAAの方が感度が良いなどの報告は散見しますが、敢えて測定しようと思うほどのものではないように思います。
・SAAとリウマチ疾患についてのreviewを見つけたのでリンクを張っておきます。SAA押しの文献で、結論としては、とても良い、とのこと。IL-6をブロックするとSAAは下がるため、トシリズマブ使用時のCRPの代用としては使えません。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2020.631299/full
・CRPの影に隠れてしまった素晴らしい検査SAA 。
Pearl: 古代ギリシャ人は赤沈の増加を「悪い体液」を検出する方法として認識していたが、現代的理解と使用は1918年のドイツ人のファーレウスにより解明された。
Comment: The ancient Greeks recognized increased red blood cell (RBC) sedimentation as a way to detect “bad bodily humors,” but our modern understanding and use of RBC sedimentation as a test date back to the German scholar Fahraeus in 1918. - Am J Med 78(6 Pt 1):1001–1009, 1985.
・Fahraeusはある種の血漿蛋白、特にフィブリノーゲンが赤血球表面の静電荷を低下させ、赤血球が凝集することにより早く落下することを突き止めた。
まず赤沈のおさらい。赤沈とは赤血球が試験管内を沈んでいく速度を測定する検査
・赤血球表面は陰イオンのため、通常反発し合い連戦形成をきたすには時間がかかる
・赤沈亢進因子:陽イオンである「免疫グロブリン・フィブリノゲン」などがあると陰イオンが赤血球ははやく落ちる。
・赤沈抑制因子は陰イオンの「アルブミン」。アルブミンが少なかったりそもそも反発し合う赤血球が少ない貧血の場合は赤血球ははやく落ちる。
つまり、免疫グロブリンやフィブリノゲンが多かったり、低アルブミン・貧血の場合は赤沈は亢進する。
Myth: 赤沈の正常値は男性では年齢/2、女性では(10+ 年齢/2)である
Reality: Reference ranges are established locally, but the usual accepted upper limits of normal are 15 mm/hr for males and 20 mm/hr for females; however, the ESR increases with age and varies by race, which calls the reliability of the test into question. - Hematology 12(4):353–357, 2007.
・Mythというほどでもないのだが、あくまでもこれでも不正確、という意味。赤沈は年齢とともに上昇することは確かだが人種によっても異なり、正常値を定めるのが困難である。
・男性では年齢/2、女性では(10+ 年齢/2)、ぐらいと参考程度にしましょう。
・赤沈のデメリットは、赤血球形態の影響、貧血・多血の影響、すべての急性期タンパクのレベルを反映するわけではない、炎症刺激に対する反応が遅い、新鮮な検体が必要、薬剤の影響を受けることがある、である。
・実臨床では、なんとなく慢性炎症かもしれないということ、骨髄炎・椎体炎では高値のことが多い、ESR100<で膠原病だと血管炎の可能性があがる、ぐらいで使っています。私はRAやPMRのフォローではほとんど測定していません。CRP以上の上昇があまりないことに加えて、採血スピッツが1本増えて結果が出るのも遅いため。
Pearl: 人におけるCRP欠損症は報告されていない
Comment: In contrast to immunoglobulins and complement components, CRP deficiency in humans has not been described.
・CRPが同定されたのは1930年、肺炎球菌感染患者から得られた血清が、細菌細胞壁のC多糖に結合するタンパク質を含んでいることを発見したときである。
・CRPの正確な機能は不明であるが、オプソニン効果や活性化能力、多数のリガンドと結合することが知られている。CRPは古典的な補体経路を活性化させ細胞障害を増加させたり、Fcr受容体と結合することで自然免疫と液性免疫の橋渡しをしている。その他としてはアポトーシス細胞の非炎症性クリアランスの促進、好中球の内皮への接着を予防することによる抗炎症作用がある。
Myth: 通常のCRP測定法では0.3-1mg/dLの濃度範囲の正確性はかけるため、この場合は高感度CRPを測定する
Comment: Usual methods of CRP determination are less precise at concentrations in the range of 0.3 to 1 mg/dL, so high-sensitivity (hs) CRP methods are used to accurately measure these levels.
・というのはKelleyですが、日本ではラテックス法になってから通常のCRPも0.3-1.0ぐらいはかなり正確に測定できるようで、当院の検査室も0.02までは測定できるとのことです。高感度CRPはさらにもう一桁、少数第三位まで細かく測れるとのことです。
・CRPは急激に上昇し、ピークは数日、半減期は19時間程度とされる炎症があるともっと早く分解される。
・健康な成人のほとんどは0.3mg/dl未満である。
・1を超えると臨床的に重大な炎症を反映しえおり、1-10が中程度、10を超えると著名な上昇と判断する。
・15以上の極端な上昇の場合のほとんどは細菌感染である。CRP50以上の88%で細菌感染であったという報告がある Eur J Intern Med 17(6):430–433, 2006.。逆に言えばCRPが高くても1割以上は細菌感染ではない、ということになる。臨床的に多いCRP10以上の非感染症は結晶性関節炎です。血管炎や激しい外傷でも10は超えることがあります。
・CRPと疾患:痛風、血管炎、スティル病のCRPは高い。SLEは通常はCRPは上がらないが漿膜炎の場合は2前後は上がっている。
Pearl: CRPの軽度上昇(1未満)は、激しい運動、風邪、妊娠、歯周病、うつ病、糖尿病、肥満、で認める
Comment:図からのパールなのでkelleyの文章はなし
・中程度上昇(1-10): 心筋梗塞、悪性腫瘍、膵炎、粘膜疾患(気管支炎、膀胱炎)、ほとんどの自己免疫疾患、関節リウマチ
・著名な上昇(>10):急性細菌感染症(80-85%)、主な外傷、全身性血管炎
・粘膜疾患はCRPが上がりにくい。
Pearl: 現地点でプロカルシトニンの生産部位や病態生理学的役割は不明である
At this time, the exact site of PCT production, as well as its pathophysiologic role during infection and sepsis, remains uncertain
・急性細菌感染と他の炎症性疾患を区別する指標で注目されるのがプロカルシトニン(PCT)。
・健康な人のPCTは検出されないか非常に低い(<0.1ng/ml)。全身性の細菌感染の場合は100ng/mLより高くなることがある。
・0.2ng/mL以下で正常、0.5ng/mL以上で高値と判断をする。
・4時間ほどで上がり、半減期は22-35時間で、腎機能障害があると半減期は延長する可能性があるが蓄積は生じない。
・Kelleyには、プロカルシトニンは甲状腺のC細胞で産生されと書かれつつも、 現地点ではPCTの正確な産生部位や感染症の生理学的病態は不明である、と結論づけています。
Pearl: 非感染症や非細菌感染の大部分でプロカルシトニン(PCT)は上昇しないが、リウマチ疾患の例外として川崎病、Goodpasture症候群、成人スティル病がある。
PCT levels are not elevated in the majority of cases of noninfectious inflammation or nonbacterial infection. High PCT levels in patients with autoimmune disorder are more likely to denote a concomitant bacterial or fungal infection than inflammation from the autoimmune disease itself. However, exceptions to this rule include some vasculitis syndromes such as Kawasaki’s disease, Goodpasture’s syndrome, adult-onset Still’s disease.
・PCTを普段あまり測定はしないが見ている限りは、おおよそ細菌感染っぽい場合はPCTは高く、そうでない場合はPCTは低い傾向にあると思うが、たまに例外も見る。
・臨床的にプロカルシトニンが有用とされているのは、肺炎患者における抗菌薬開始および中止のタイミング、整形外科術後の発熱の原因を感染症、非感染症と区別する場合。
・肺炎は3-5日でよいかもという時代ですのでそこにPCTはお墨付きを与えるかも。後者は納得で、整形外科コンサルト症例は、個人的には薬剤性と偽痛風が多い印象です。
・抗菌薬を悩む場合にPCTを測定してもよいと思いますが、2018 NEJMのProACTではPCT測定しても抗菌薬の使用量は減らなかった、というネガティブスタディ。血流感染でも入院時のプロカルシトニンの感度は68%、陽性適中率は23%、であったとトホホの結果 Crit Care Med . 2023 Jul 3.
・Goodpastureやスティル病はあまり見ないので感覚的には分かりませんが、直近のスティル病とANCA関連血管炎(AAV)はPCTあがっていなかったような気がします。どうなんでしょう。
・調べると成人スティル病ではPCTが上がることがあるようです。なんと!
・GoodpastureもPCTが上がるという報告がいくつかあります。しっくり来ませんがそうなんですね。
・川崎病は上がることがあるというのは有名な話らしく、CRPやフェリチンと相関するようです。PCTも万能ではないですね。
・AAVとPCTのデータ調べましたが、やはりあまり上がっていませんでした。PMRやGCAではPCTは正常とのこと。血管炎でもとりわけ川崎病はPCTがあがりやすい、ということのようです。
Pearl: カルプロテクチンは炎症性腸疾患と機能的疾患(過敏性腸症候群など)の鑑別に有用である
Comment: Calprotectin is now well established in distinguishing between IBD and nonorganic disease (such as irritable bowel syndrome) with recent meta-analyses showing a sensitivity of 72% to 95% and a specificity of 74% to 96%
・炎症性腸疾患や腸管ベーチェットで便中カルプロテクチンをもちいることが多くなっている。
・カルプロテクチンとは、カルシウムと亜鉛の結合タンパクで、主に好中球に存在し細胞質タンパクの60%を占める。単球やマクロファージにも多くはないが存在する。
・炎症により白血球が腸粘膜に動員されるとカルプロテクチンが上皮腔に放出される。正確な役割は不明だが、殺菌・殺真菌作用がある可能性がある。
・カルプロテクチンは血液、唾液、尿、滑液、便に含まれる。便中が最も多い。
・カルプロテクチンは炎症性腸疾患と機能的疾患(過敏性腸症候群など)の鑑別では、感度72-95%、特異度74-96%である。
・NSAIDsやアスピリンの使用、大腸がん、消化管感染症、憩室炎や他の腸炎でもカルプロテクチンは上昇する。
Myth: 関節リウマチではCRPではなくESRを使用する
Reality: Although ESR traditionally has been more widely used for these purposes, many studies have suggested that CRP levels correlate better with disease activity. Some recent reports state that CRP levels may overestimate disease response compared with ESR; others claim that differences between the two are minimal.
・多くの研究からCRPのほうが疾患活動性とよく相関することが示唆されている。
・MMP-3、pro-MMP-3、および可溶性E-selectin(sE-selectin)もRAのマーカーとして提案されているが、CRP以上の検査は得られない。
・ESRやMMP-3はおいておいて、通常はCRPだけでよい、ってことです。
・RAではCRPがゼロの場合も珍しくないので注意です。これはPMRと違うところ。中程度の疾患活動性ではCRPは平均2-3程度です。
・トシリズマブ使用中はCRPもESRも下がってしまいあてにならないので注意です。
Pearl: 全身性エリテマトーデスでは腎炎などの多くの場合にCRPは軽度上昇または上昇しない。
Comment: Although marked CRP responses are seen in subsets of patients, such as those with serositis or chronic synovitis, many (e.g., patients with nephritis) show mild or no elevation during periods of activity.
・SLEでは漿膜炎や慢性関節炎などの一部を除いてCRPはあまり上がらない。SLEでCRPが高い場合は、漿膜炎や関節炎がなければ感染症を疑う。
Pearl: 高感度CRPで、CRP0.3mg/dL以上では、動脈硬化疾患ならびに心筋梗塞のリスクは上がる
Comment: The foundation of these investigations is the well-established notion that when a high-sensitivity CRP assay is used, serum CRP levels greater than 0.3 mg/dL indicate increased relative risk of atherogenesis and future myocardial infarction. N Engl J Med 350(14):1387–1397, 2004.
・ほとんどの健常人のCRPは0.3未満だが、1を超える人もいる。最近のデータでは0.3以上では心疾患、神経疾患、悪性腫瘍、肺疾患、さらには精神疾患との関連が示唆されており、これらの文献が爆発的に増加している。
・すでに書きましたが0.3mg/dlのレンジは通常のLA法のCRPでも測定できるので高感度CRPの必要はありません。
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