ひとり旅でおのれのポンコツさを知る
1日目。
息子は長野、母は大阪へ
酷暑の中、親子ともどもそれぞれの目的地へ元気に出発。
南海トラフ地震警戒域での「巨大地震注意」の情報が出る中ではあったが、旅は決行することにした。
出かけてみると東京駅も大阪も帰省客と観光客で大混雑。
海外からの旅行者も多く、世界中が夏の想い出づくりにいそしんでいるようだった。
かく言う私もそのひとり。
久しぶりに大阪の実家へと向かった。
思えば真夏のお盆時期に帰省するのは結婚以来初めてで、一人で尋ねるのも多分初めて。夫が天国にいても、こうやって変わりなく家族付き合いを続けることができていること、定期的に実家へ連れていってくれていた夫と、大阪の家族に感謝である。
新大阪から程近い距離の、工場地帯に夫の実家はある。ここ数年で畳んでしまった小さな工場も多く、今では住宅地になりつつあるエリアだ。
到着早々、お仏壇を前にみんなでご先祖様にご挨拶をし、近況を報告しあったりしながら、「なんや、めっちゃお盆っぽいなぁ」と笑いあった。
晩御飯は姪っ子が準備をしてくれた。
私が大のパン好きなことを知っていて、前から気になっていたパン屋さんのパンをお取り寄せしてくれていた。
STONES BAKERY(大阪・橋本市にあるハード系のパン屋さん)
パンとワインの晩餐(おかずはスチームサーモンとサラダ)。おしゃべりが止まらず、あっという間に夜もふけていった。
2日目。
最初のポンコツが出現。
西への旅を決めた時「淡路島に行こう」と、なぜか思った。
淡路島がどんなところなのかまったく知らず、知っているのは玉ねぎが有名なことくらい。それなのに、まるでお告げでも受けたかのように、ささーっと行き先を決めてしまった。
バタバタしていて下調べもろくにしていない。ガイドブックを買ったものの、どこに行きたいとか、ここいいなぁ…というひらめきもない。未踏の地へほぼノープランで向かうこととなった。
出だしは好調…………ではなかった。
実家の最寄駅から私鉄で二駅ほど移動して、レンタカーを借りに新大阪へ徒歩で向かう途中、お水やらおやつやら、ガイドブックやらを入れたエコバッグを下車した駅のトイレに忘れてきてしまったことに気づいた。
しかも、私の推しの「SEKAI NO OWARI」のエコバッグを!
すでにレンターカーのお店は目の前。ギラギラ太陽の下を歩いて15分が経過。スーツケースをゴロゴロ転がしながら炎天下の道を戻るのは過酷すぎる。一瞬このまま諦めるか?という気持ちも過ったが、セカオワエコバッグのない生活はありえないと思い直した。
暑さで鈍くなった頭の回転を深呼吸して整える。
単純に、「レンタカー借りてからさっきの駅にもどればいいんじゃん」と頭が働いた。
小さな駅なので、電話番号が公開されていなくて、駅に直接遺失物の連絡をすることができず、鉄道会社の本部に届出の電話をした。少し時間がかかったが、忘れ物は無事駅にあることがわかり、ほっと胸を撫でおろす。
駅に戻って手続きをして、愛しのエコバッグが手元に戻った。ああほんま、よかった(大阪帰省するとなんちゃって関西弁になる私)。
さあ、気を取り直して、
いざ淡路島へ!
完全に出鼻をくじかれた。
といっても100%自分のせいだけど。
忘れ物をしたせいで、予定より30分以上遅れての出発となったが、予想に反して高速道路は空いていた。関西の高速道路を運転するのも初体験。何度かタイガース戦を観に訪れた甲子園球場を横目に見ながらスイスイと進む。まさに今、高校球児たちが青春ぜんぶつぎ込んで試合をしている最中だ。
順調なら大阪から1時間ちょっとで明石海峡大橋を渡れるはずだった…のだが、甲子園を過ぎたあたりから徐々に混んできて、神戸を過ぎたあたりから渋滞が発生。「島についてから、島のものを昼食に♪」と計画していたのが、非常食に所持していたじゃがりこがお昼ご飯にとってかわった。
予定の倍以上の時間をかけて島に到着。カーナビに「そろそろ休みませんか♡」と語りかけられても「やすめないんじゃあ!」とツッコミを入れる状況が続いていたが、島内に入ると渋滞は解消された。
それでも明石海峡近くのSAは満車。ひとつ先のパーキングエリアでやっと休憩をとることができた。
瀬戸内海が眺望できる休憩所で「さあ次どうすんべぇ(なぜか群馬弁)」と考える。予約したゲストハウスは島の北西部。明日、島の北部を巡るほうが動きやすいと思い、「えーい、とりあえず突端まで行っちゃえと、鳴門海峡へ向かうことにした。島内の交通はスムーズで、海と山の風景を楽しみながらのドライブ。鳴門までは約1時間。車は順調に大鳴門橋を通過して徳島県に入った。海峡からの景色は絶景だったが、運転中なので風景を写真に撮ることはできない。Disappointing!
鳴門海峡、夏景色
大鳴門橋の徳島県側には「渦の道」という、渦潮を真上から見られる(大鳴門橋の下を歩けるようになっている)施設がある。ここであの有名な、「鳴門の渦潮」を見るのだっ。と、車を停めた。
歩行者専用の歩道が大鳴門橋(自動車道)の下、渦潮の真上まで続いている。けっこうな距離をてくてくと歩くのだが、所々床がガラス張りになっていて海峡の様子を見られるようになっている(ガラスの上にも立つことができる)。
私はガラス張りのところには恐怖を感じなかったのだが、別のところで大きな恐怖を覚えた。コンクリートの歩道を鉄板で継いでいる箇所がいくつかあって、その継ぎ目に細〜い隙間があるのに気づいたのだが、その隙間からも水面がチラチラと見えて、今自分が海上を歩いていることを思い知るのだ。その瞬間、私はとてつもない恐怖を感じ動けなくなった。急激な浮遊感を感じ、遊園地でバイキングに乗って急降下するときに感じる、仙骨がウヒャウヒャとなる感覚に陥ったのだ(わかるかな)。
この日二度目のポンコツが発動。
鉄板の継ぎ目で動けなくなった私。
どうしましょう。どうしたらいいんですか、私?
過呼吸寸前、心拍数上昇。「やーん、怖ーい」とか言ってしがみつく人も隣にいない。
一人旅を大きく後悔する。
でも、ウズシオミタイ。ウズシオミタイ。私の欲が恐怖を飲み込もうとしていた。歩みを前に進めても、渦潮を見ずに戻っても鉄板の継ぎ目はいくつもある。鈍くなった頭の回転を深呼吸して整える(この日二度目)。そして思考する。
「目をつぶって、まっすぐ走ればいいんじゃない?」
これが答えだ。
鉄板の継ぎ目が見えるたびに目をつぶり、決死の覚悟で小走りで鉄板を通過する。そんなことを数回繰り返しながら、渦潮の真上までなんとか辿り着いた。
渦は巻いていなかった。
渦潮の観察ポイントに顔面蒼白で到着。
しかもここは、鉄板の床の一部がガラス貼りになっているという個人的難所だ。細い隙間が数十箇所ある。
カップルが押し合いっこしながらふざけあう、イチャイチャスポットでもあったけど。そんな方々を尻目に、ガラス張りの床の上に堂々と立つ私。
そう、鉄板の継ぎ目よりガラスの上のほうが怖くないのだ。なぜなんだろう。おかしいのか?私。
そして、ご対面とばかり、首を垂れて海面を見つめる。
渦は巻いていなかった。
干潮と満潮しかグルグル渦巻きは見られないらしく、なんとなーくここが渦巻くんだろうなぁと言う場所を写真におさめることとなった。
完全なる下調べ不足である。
気が抜けてしまったのか、渦巻かずショックで鈍感になれたのか、帰路の鉄板の繋ぎ目には全く恐怖を感じなくなり、トボトボと『渦の道』を後にした。あーでも駐車場案内のお兄さん、「ココ行くと渦潮見られます!」て呼び込みしてたよなぁ。「何言ってんだコラ。あ?」って絡みたくなったけど、駐車場戻ったら誰もいなかった。チクショウ。
この日二度目の一人旅後悔
渦潮(巻いてない)見学が終わって午後5時。
渋滞でお昼ごはんもろくに食べてなかったから海鮮系のものでも食べていこうかなと、ガイドブックで調べる。淡路島南部で一人でも入りやすそうな老舗のお寿司さんを選んだ。
大きくて古い建物の外壁に、大きくテイクアウトもやっていると書いてあったから、入店早々「テイクアウトできますか?」って聞いたら、店員さんの表情が瞬時に曇ってしまった。
渋々とした様子で「何個ですか?」と聞かれたので一個と答えるとさらに眉毛がハの字に…。大鳴門橋の駐車場でお兄さんに絡み損ねたので「なんすかぁ?その嫌そうな顔は?あ?」と口から出そうになるのを我慢して、「じゃあけっこうです」と店を後にする。こんなところで食べても美味しさは感じないだろう。
すぐに『ぐるなび』で、海鮮丼を食べられるお店を調べたら、車で10分のところにお店を発見。向かったはよかったが、カーナビはどんどん山道・畑道を案内。こんなところにお店あるの?というエリアに辿り着いた。
そこにはポツンと一軒だけが佇む、小さな暖簾のお店があった。店先の二台分の駐車場は満車。
井の頭五郎なら臆せず入店するんだろうけど、そんな勇気も気力もなく、そそくさと退散。来た道を戻り、コンビニに寄っておにぎりを頬張った。なんか悲しくなってこの日2度目の一人旅後悔の巻。
ドライブしか今日はしてない…という気持ちでいっぱいになりながら、宿へと向かうことにした。 (つづく)
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