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雨宿りとヤドカリのカレー

夏の日の午後、突然の夕立が降り始めた。軒先で雨宿りをする二人は、まるで世界から切り離された小さな島に漂着したような気分だった。50代の男性、彼の名は田中。バツイチで、不器用な性格をそのまま映し出すかのような髭とメガネ。30代の女性、彼女の名は美穂。彼女も小柄でおとなしい性格を象徴するかのような眼鏡をかけている。

「雨、結構強いですね」と、美穂がぽつりとつぶやいた。田中は彼女の言葉に応えるように、少し肩をすくめて「そうだね」と短く答えた。その瞬間、雷鳴が遠くで響き渡り、雨音が一層激しさを増した。

「こんなに突然降るなんて、思わなかったです」と、美穂は続けた。田中はポケットからハンカチを取り出し、メガネのレンズを拭きながら、「予報では、夕立があるって言ってたけどね」とぼそりと言った。

二人は言葉が途切れると、再び静寂が訪れた。雨音が作り出すリズムに耳を傾けながら、彼らはそれぞれの思考にふけった。田中は、自分がかつて通ったスパイスカレー店のことを思い出していた。店内の独特の香りと、スパイスの熱が口内に広がる感覚。そんなことを考えていると、不意に彼の口から言葉がこぼれた。

「スパイスカレーって、好き?」

美穂は驚いたように田中を見つめ、その後、小さくうなずいた。「はい、好きです。特に、コリアンダーの香りが好きです」

田中はその返答に満足したように、ふっと笑みを浮かべた。「そうか。僕も、あの香りがたまらなく好きなんだ」

彼の笑顔を見て、美穂も自然と微笑んだ。「最近、おいしいスパイスカレーのレシピを見つけたんです。家で試してみたら、結構うまくいったんですけど…」

「それは興味深いね。僕も、昔自分で作ってみたことがあるんだけど、なかなかうまくいかなかったな」と、田中は思い出すように言った。

美穂は「よかったら、今度一緒に作りませんか?」と、少し恥ずかしそうに提案した。その提案に田中は少し驚いたが、やがてうれしそうにうなずいた。「ぜひ」

雨音が少しずつ弱まり始め、夕立は終わりに近づいていた。二人は軒先の下で、雨が上がるのを待ちながら、静かな微笑みを交わした。その微笑みは、雨がもたらした小さな奇跡のように感じられた。

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