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似て非なるのはタコライス(アニメ調)

昼休み、僕はいつものカフェに足を運んだ。 壁の一部が古い煉瓦でできていて、木製のテーブルが並んでいる。 窓際の席に座ると、細長い光が差し込み、外の街路樹が風に揺れる様子が映り込む。 秋の風が心地よく、少しひんやりとした空気が店内に流れていた。 カウンターの向こうから感じるスパイスの香りが鼻をくすぐる。しかし、いつもならスパイスカレーを注文するのだけど、今日は何か違うものを試してみようという気分だった。

「今日はタコライスをお願いします」と、気まぐれな思いつきで言ってみた。 カフェの店員が少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔でオーダーを通してくれた。僕は古びた時計をぼんやりと見つめていた。 タコライスが出てくるまでの数分間、僕はいつものスパイスカレーと目の前に来るであろうタコライスについて考えを巡らせる。

スパイスカレーは僕にとって、ある種の対話のようなものだった。 仕事の合間にカレーの辛さと温かさが体を芯から温めてくれる。それに対し、タコライスはもっと気まぐれなものだ。 沖縄からやってきた軽い存在で、スパイスカレーのような深い重みはない。 その代わり、トマトの酸味と挽き肉の塩気が軽快に舌で踊り続ける。

それらはまるで違う音楽のようだ。 スパイスカレーが古いレコードから流れるジャズなら、タコライスはポップス。 どちらも良いが、同じステージには立つことはない。けど、どちらもささやかな喜びだ。そう思うと、僕の中で少しだけタコライスが特別な存在に思えてきた。

タコライスがやってきた(少し違うが)

しばらくして、店員がタコライスをテーブルに置いた。 湯気の立つご飯の上に、真っ赤なトマトとシャキシャキのレタス、チーズがとろけている。 その明るい色合いを見ながら、僕はスプーンを手に取り、一口運ぶ。冷たいレタスと温かいご飯のコントラストが面白い。食べるうちに、ふと僕は秋の空気を感じる。外の風が窓を通して吹き込み、首元をさっと撫でられるように。

ふと、秋なのに、恋愛の気配はどこにもないな、と僕は思った。 いつもならこの時期、少し寂しさが心に入ってくる。隣の席で一人ランチを楽しむサラリーマンの独り言も、どこか別世界のように感じる。あの日々のことをふと思い出した。彼女と過ごした季節、そして別れた後のぽっかりとした時間。その空白はタコライスの軽やかさとは程遠い。

タコライスと彼女と過ごした時間

「恋って、一体どこへ消えてしまうんだろう」と、思わず声に出そうになる。 カレーのスパイスとタコライスの軽さ、その対比の中に、恋という存在の、危うい確かさを見ていることに気づいた僕がいるように思えた。

スプーンを置き、窓の外に目をやる。 街路樹の葉が、風に揺れながら勝手に落ちていく。 秋の日差しが優しくその様子を眺めている。 恋が遠ざかっていく感覚も、もしかしたらこれタコライスみたいに軽いものなのかもしれない、私は思った。 そしてその感覚を、また少し心の中で反芻してみるのだった。あの時間、そう、タコライスと彼女との時間に思いをはせながら。

秋と彼女とタコライス

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