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Vol.73 負荷をかける

 一歩前に進みたい、成長したい時には耐えられるか耐えられないかわからないぐらいの負荷が必要だと思います。体を鍛えようと思い筋トレをしているとき、今ある筋肉でできるギリギリの運動を繰り返すことで大きく肥大していくと思います。きっと、思考が成長するにも、人間としての考えや物事の捉え方が成長するにも、ある程度の負荷やなにかしらからの抵抗が必要だと感じています。自分に負荷をかけながら、誰かに負荷をかけてもらいながら、その負荷を乗り越えていくことで大きく飛躍することにつながると思っています。

 負荷や抵抗という視点から自分の授業を振り返った時、まだまだ僕は一人一人にとって必要な負荷や抵抗を考えられていなかったなと思いました。むしろ、負荷や抵抗を取り除こうとする意識の方が強かったです。ちゃんと子どもたちを見取り、一人一人に合った負荷をかけることができていないなと思いました。

 だからこそ、クラスの中で、自分自身でちゃんと負荷や抵抗を用意できる子たちは伸びていっているなと思いました。そういった子たちは問いがどんどん溢れてくるので止まることを知らないくらいずっと追究しています。ただ、追究に向かえない子も中にはいます。

 追究できないわけではないと思います。きっと、何をしたらいいのかわからないことが関係していたり、自分にとっての切実感や必然性をつくり出すことができていなかったりしているんだと思います。

 この切実感や必然性が生まれるのは、自分で試行錯誤しているときにかかる負荷や抵抗、相手からハッと気付かされたときにかかる負荷や抵抗から生まれると思います。

 僕は算数の授業で、単元を通して、追究を子どもたちに任せる場面があります。前時までに生まれた問いや、自分が時間をかけて考えたいこととじっくり向き合う時間を設定しています。ただ、どうしてもうまくいかないなぁと思うことがありました。きっとこのうまくいかない感じは負荷や抵抗が関係していると思っています。

 「一人で自由にやってもいいよ」「自分の興味関心を大切に進んでいこう」という場をつくったとしても、一人一人の中に明確な追究心みたいなものがなければ、学びが飛躍するようなことは起きにくいんじゃないかなと思いました。
この追究心みたいなのが生まれるには、

  • これまでの経験からズレている価値観と出会うこと

  • 「あれ、どうしてだろう?」と考えさせられる材と出会うこと

  • 友達との対話を通して相手の考えに違和感をもつこと

など、様々なことが関係していると思いますが、きっと負荷や抵抗が関係していると思います。

 第一の段階は、学習の主体であるところの一人ひとりの子どもが、教材と対決して、自分なりの問題を把握する過程である。
 子どもが自分の前にある事実のわからない側面を意識し、あるいは自分の前にある文章(事実や事態についての見解)が自分の見解と相入れないもののあることを発見し、あるいは自分のおかれている事態が不安定であることを感じこれから脱出しようと意図すること、これが、追究の第一歩であり、また授業の第一段階であるというのである。

重松鷹泰(1971),初等教育原理 P163

 強制的に負荷を背負わせる、抵抗感を持たせてぶつかってこさせる、みたいなことにはしたくないです。あくまで、心地よいものであり、考えることを楽しめるようなものにしたいと思っています。

 だからこそ、戻ってくる場所は「子ども主体」であり、まず「子どものことを知ろうとすること」が大切だと思います。一人一人のことを知った上で「この子にとって今、こんな場や材が必要なんじゃないかな」と考えたり、「この子とこの子が話を聴き合うことで新たな視点と出会い、さらなる追究へとつながるんじゃないかな」と考えたりすることが、一人一人にとって、よい負荷や抵抗がかかることにつながるんじゃないかなと思っています。

 負荷や抵抗と聴いて、まだまだ厳しさみたいな印象をもってしまう自分がいます。たぶんまだこの言葉に違和感をもっているんでしょうね。もう少し、この言葉への捉えを深めることや授業における負荷・抵抗とはなにかについて考えてみようと思います。

 結局は、抵抗としての教材と子どもが出会うところで、子どもの思考は練られ、創造性も鍛えることができる、そして、それを支えるのが、それぞれ独自の考え方をしてその抵抗乗り越えようとする個によって構成されている集団と集団思考だということになりましょうか。教材は、幅のある授業を展開する教師と集団によって、働かされることになります。逆に豊かな潜在的価値をもつ教材によって、個性豊かな個人をメンバーとしながら、連帯や協調によって支えられる学級集団ができるということになります。

山田勉(1979),教える授業から育てる授業へ P259

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