【歴史本の山を崩せ#008】『近代中国史』岡本隆司
《伝統中国の経済に軸足を置いた秀逸な概説》
ここ数年来、中国史の分野で最もノッている研究者といえば岡本隆司さんでしょう。
もう十年ほど前に書かれた本ですが、専門家でない一般読者にも中国史の奥深さと面白さを伝えることができる本としては白眉の一冊だと思います。
新書といえど、侮るなかれ。
中国の長き歴史に育まれた特異な伝統社会を明快に描き、経済を軸にして現在に連なる、近代史を見事なまでに活写しています。
西洋とも日本とも違う、中国という唯一無二といってもよい個性を、この一冊に凝縮されています。
歴史といえば、やたらと年号や人物、地名、事件などの用語が雪崩のように押し寄せてくるイメージがあるかもしれません。
しかし、この本は頑張って用語を覚えることを重視しません。
歴史といえば暗記ものというイメージを持っているひとが読めば、良い意味で期待を裏切られるはずです。
昨今、「流れ」を重視して、用語の暗記を強要しないことをウリにする歴史入門書が好評ですが、この本は歴史本としてのレベル(難易度ではありません)が違います。
様々な条件が組み合わさり、長い時間をかけて形作られてきた伝統中国の流れを、歴史という軸を中心にして見事にまとめています。
内容は高度なのに、専門知識がなくても読める。
それでいて、抜群に面白い。
博士課程で中国近代史を専攻していた私の先輩も、絶賛する一冊です。
歴代王朝が目標としながらも成し得なかった、皇帝を頂点にすべての人民を掌握する統治体制。
伝統中国の壁を打破して、果たし得なかった目標を達成した毛沢東と中国共産党政権の強さも浮かび上がってくる。
現代を知るためには歴史を理解しなければならないという、岡本さんのスタンスを体現しています。
数ある岡本さんの著書の中でオススメを一冊だけ選べといわれれば、総合的な本書を推します。
『近代中国史』
著者:岡本隆司
出版:筑摩書房(ちくま新書)
初版:2013年
定価:880円+税
※【歴史本の山を崩せ】は毎週水曜日更新
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