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巨龍の胎動 復活した『中国の歴史』

買おうかどうか迷っていたシリーズだ。
講談社『中国の歴史』シリーズ。

近現代編を除いて中国語に訳されて大陸に逆上陸し、中国でもベストセラーとなった好シリーズである。
オリジナルの単行本が版元切になってから久しく、『興亡の世界史』などの後発シリーズが次々と学術文庫入りするなかで置いてきぼりを喰らっていた。
もはや学術文庫入りはないのかと半ば諦めかけていたのだが、満を持しての登場である。

よい本なのに入手困難だからという理由で気軽に勧められない悲しみからしばらくは逃れられる。
しかし、最近は学術文庫の「市場在庫寿命」も短くなっているので油断は禁物。
気になっているひとは買っておいた方が吉。

と、冒頭に自分では買うか迷っていると言いながらひとには買っておけとチグハグなことを言う。
何故ならオリジナルの単行本はしっかり揃えているからだ。
ちょうど大学で東洋史のコースを選択した頃に刊行がスタート。
天啓とばかりに買い揃えたのだが、実は全巻読んでいない。
自分の専攻分野と興味を優先して読み進めた結果の後回し積ん読である。

この学術文庫版は第1巻から順番に刊行されているが、オリジナル版の初回配本は第3巻『ファーストエンペラーの遺産』と第11巻『巨龍の胎動』であった。
(この手のシリーズものは必ずしも順番に刊行されないことはままある)
三国志が好きならば第4巻『三国志の世界』だけ読んでもOKだし、モンゴル帝国に興味があるならば第8巻『疾駆する草原の征服者』だけを読んでも十分楽しめる。

しかし、こういう読み方が許されるのはシリーズといいながらも各巻が独立しているからである。
シリーズとしての一定の方針はあるものの、各巻の内容については担当執筆者の裁量に負うところが大きい。
扱う時代・テーマと並んで、良くも悪くも著者との相性も出てくる。
必ずしも無理に全巻を読破する必要はないのである。
不純な動機といわれるかもしれないが、シリーズものは全巻揃えて棚に入れた方がカッコいい。
事実、オリジナル版の単行本は装丁が美しく、しかも一冊一冊がそれなりに分厚いため棚映えが素晴らしいのだ。

↓カバーの質感にもこだわりを感じるオリジナル版の装丁

しかし、本は腐らない。
今は棚に収まっているだけのものが、あるとき必要になるかもしれない。
その時は興味がなくても将来、読みたくなることもあるかもしれない。
購書において「買っておいてよかった!」、そして「買っておけばよかった…」という経験は一度や二度ではない。
先にも書いたとおり、本の「市場在庫寿命」は目に見えて短くなっている。
「これは基本文献になる!」というくらいの好著で、売上部数が悪くないものでも数年後にはあっさり「品切・重版未定」ということは珍しいことではない。
「迷ったら買い!」なのである。

今回、第11巻『巨龍の胎動』を買った。
現代史の部分も扱っていた巻なので、他の巻と比べると加筆修正が多いことが決め手となった。
オリジナル版は胡錦濤政権一期目の2004年刊行。
17年の時間は現代史にとって大きい。
胡錦濤第二期、習近平第一期を経て現在は習近平第二期である。
台湾総統も陳水篇の再選、馬英九から蔡英文と代替わりしている。

そして、何より中華人民共和国建国からの通史としては非常に読みやすいのである。
中国を導いた二人のリーダー…「反逆者」毛沢東に「逆境者」鄧小平を歴史的な定点として(「主人公」ではない)描く手法は面白い。

このシリーズで一回も読まなかった巻がある一方で何度も読み返した巻もある。
『巨龍の胎動』は後者で、これまで何度も読んできた。
購入の決め手になったもうひとつの要素が持ち運びに便利な文庫本という点であった。
オリジナルの単行本はかなり分厚く、カバンに入れると時にほかの何かを出さなければならなくなった。
並べてみると一目瞭然。
これでまた読み返す回数が増えるかもしれない。


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