社内BIM化へ ハノイ/ベトナム
どこの国でも社内での新しい技術の導入は一筋縄ではいかない。
ベトナムにおけるBIMは日本におけるそれよりも、導入のスピードが早い。
建築設計、施工をふくめた元々のシステムが未整備のため、業界全体の「2Dへのしがみつき」のようなものは少なく導入が進みやすい。もっといえば設計者でも現場でも2D図面を正確に読めるひとが少なく、3Dのほうがなんとなくわかりやすいのではないか?というのが大きな牽引力になっていると思っている。
といっても、個人個人は新しいスキルを身につけることへのモチベーションは低い。少なくとも自分でチュートリアルをネットで探して独習する、というようなスタッフはなかなかいない。
BIMを導入しない間違った3つの理由
僕の事務所でBIMの導入を決めたのは約3ヶ月前だ。その前までは以下の二つの理由で二の足を踏んでいた。
理由1 BIMが有効になるようなある程度の大きさのあるプロジェクトがない
理由2 平常業務のためBIMの習得に充てる時間が取れない
理由3 スタッフがBIMの導入に乗り気ではない
以上の3つが僕が勝手に思い込んでいた理由だ。
あるときある程度の大きさのプロジェクトに携わるようになったため導入に踏み切った。しかしBIMを習得、導入し始めると理由1−3のすべてがまったくの間違いだったことに気づいた。以下、BIM導入のメリットとしては常識的な内容が多いが、僕が体感したことも合わせて記しておきたい。
みんなで楽しく学習と競争
まず理由2の問題を少しでも解決するために講師を呼んで、週2回半日をBIMの習得に充てた。授業は決まった時間にあるので他の時間を有効に使ってプロジェクトを進めるようにした。宿題などもあって正直時間の調整が大変ではあったが、スタッフ全員で参加していたので、なんとか助け合いながら問題をクリアしていった。みんなが一斉に初心者の状況からスタートしたので「自分だけできない」という事態を、プライドの高いベトナム人のメンタリティーが許さないのも今回は良い方向で作用したように思う。
スタッフ教育コスト
この時点で問題3も同時に解決された。スタッフは業務時間内に教えてもらえるのであれば新しいスキルを身に付けたいという当たり前のことで、この授業は会社として行わなければならないスタッフ教育として、最初から会社の予算に組み込んでおかなければならない。建築の問題ではなく会社運営の問題として取り組まなければいけない問題だった。
遠くの目標より目先の利益
理由1については、BIMの習得がひと段落すると、それほど大きくないプロジェクトのコンセプトデザインからスタッフが自らBIMを使い始めた。
理由は今まで(手描きのスケッチで検討)→2D→3Dという手順で図面、プレゼンテーションを作成したのだが、BIMを使用すると(手描きのスケッチで検討)→3D(自動的に2D)という手順で同様なことができる。BIMの成り立ちを考えると基本的な特徴をいっているに過ぎない。スタッフにとってはすぐ3Dで検討できるとか、すぐプレゼンの絵を作れるとか、「同じことやるんだったら一手間減って労働時間を短縮できるほうがよい」というのがBIMを使うモチベーションなのだ。
ただここで注意しなければいけないのはソフトウェアの操作熟練度で設計のスタディや最終的なカタチが制約されてしまうことだ。とはいえ、これは手描きでも2D CADでも起こる問題なので、継続的にソフトウェアの学習を続ける必要がある。
ファイル管理、ソフトウェア管理の手間が減る
もうひとつBIMを使い始めて改めて体感したのはファイル管理の手間である。2Dと3Dを別のソフトで行なっているとそれだけでファイルが2つになる。BIMであれば1つである。いつのどの時点のオプションがどの3Dになっているかということをチェックする必要もない。シェアするために細かい説明も必要ない。Fusionなどで共有は楽だし、コメントも一元化されるので内容をチェックする方も、それを受け取る方も手間が減る。
使うソフトウェアの数が減るのも魅力的だ。定期的にスタッフに勉強してもらうソフトが減るからだ。これで学習コストと学習時間が軽減される。
BIM以外のモデリングソフトとの連携
今後の課題としては先ほども話題にしたソフトウェアによるカタチの制約だろう。使いこなせば殆どのものはできるのではないかと思うのだが、例えばライノセラス+グラスホッパーでモデリングしたデータと連携できれば、スタディの方法にも幅がでるように思う。個人的にもここ数年ライノセラスを使用しているので、BIMと連携できればと考えている。
事務所、自分への最適化
個人的にはBIMとライノセラスを中心に、当面はできればこの2つぐらいでなんとか設計業務が行えるようにと考えている。しかし僕が知らないソフトウェアやメソッドがまだまだたくさんある。事務所と自分に最適な設計ツール環境をつくるため、日本とベトナムの両方で近々コンサルを受けてみようと思う。