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PFS: フィナステリド治療への注意

フィナステリドとは

 フィナステリドとは、5α還元酵素阻害剤といわれる種類の薬剤で、欧米では以前から前立腺肥大症の治療薬として用いられていた薬剤です。いきなり余談ですが、2000年ごろに日本においても前立腺肥大症治療薬としての治験が行われました。効果ははっきりしているものですので、治験の結果は当然良好のはずで、某製薬会社は治験結果の発表を待たずに発売記念パーティーまで準備して、承認前に医師にバンバン宣伝していたのを覚えています。ところが、この治験がみごとにこけてしまって、この製薬会社のMRさんたちがかなり凹んでいたのを覚えています。まあ、いいお笑い種になってしまったわけですが、当時のコンプライアンスがかなり緩かったことを知る代表例ともなっています。それはさておき、以降、フィナステリドは前立腺肥大症の治療薬としては国内で使用されることはありませんでした。現在はAGA(男性ホルモン型脱毛症(男性型脱毛症)の治療薬として用いられています。インターネットをみると、美容外科クリニックを中心に大量の宣伝をみることができますね。

フィナステリドの作用機序

 さて、この薬剤はどうやって効果を発現させるかです。そのためにまずテストステロンが細胞に影響を及ぼす道筋を知らなくてはいけません。血中のテストステロンは、実はそのままの状態では細胞に対する効果が極めて低いのです。テストステロンは細胞内に取り込まれた後、5α還元酵素によりDHT(ジヒドロテストステロン)に変換されます。ちなみにDHTを悪玉ホルモンなどと記載しているサイトがたくさんありますが、DHTは本来の成長に極めて重要なホルモンで、医学的にはまちがった表現ですので、そのまま信じたりしませんように。こうしてできあがったDHTは核内細胞レセプターに結合し、生理的作用の引き金を引くこととなります。
 したがって、5α還元酵素阻害剤を投与すると細胞内でのDHTの生成が少なくなり、良悪は別として、AGAをふくめてDHTの影響が弱まるということとなります。

5α還元酵素の種類

 さて、5α還元酵素阻害剤が前立腺や毛根にだけ影響を及ぼすのであれば、使用に際してあまりおおきな問題はないかもしれません。ただ、最近5α還元酵素阻害剤がほかの臓器にも影響を及ぼしている可能性が指摘されています。下記に3つのタイプの5α還元酵素がどこに発現しているかを記載しますが、逆にいうと、5α還元酵素阻害剤はこれらのどこの部位にも影響を及ぼす可能性があります。

5α-還元酵素タイプ1:主に皮膚と肝臓で発現していますが、脳、筋肉、前立腺でも発現しています。
5α-還元酵素タイプ2:主に前立腺で発現しているが、腎臓、脳、筋肉、精巣上体、毛包、肝臓、精嚢にも存在しています。
5α-還元酵素タイプ3:脳を含む多くの組織で発言しています。ただし、タイプ3はまだその役割が十分に解明されていません。

 強調しなければいけないのは、5α還元酵素阻害剤は脂溶性であることで血液脳関門を通過でき、脳内における神経関連のステロイドの代謝に悪影響を及ぼす可能性があることです。これがおおきな問題となるわけです。

PFS(post-finasteride syndrome): 後フィナステリド症候群(正式な日本語名はありません)

 フィナステリドの副作用として、性的・神経的・精神的・内分泌学的、そして代謝に関連した異常や悪性度の高い前立腺癌の発生などがあげられます。これらは治療においておおきな問題を解決する(多くの場合はAGA)ための引き換えで、ある程度は許容されるものかもしれません。たしかにフィナステリドはかなり以前から使用されている薬剤で、投薬による直接的な影響で生命にかかわるといったことは極めて少ない薬剤です。ただ、そうはいってもフィナステリドは決して安全な薬剤ではないというのが最近の認識です。とくに注意が必要になっているのは、フィナステリドの投与によるうつ症状の悪化や、さらにそれに伴う自殺関連事象が増える可能性があることです。実際2023年8月に厚生労働省はフィナステリドの使用上の注意に自殺関連事象に関する注意事項を追加する事態となっています。美容関連では問題をあまりしっかりとお話しないかもしれませんが、とにかくフィナステリドは安全といえる薬ではないことだけは知っておかなくてはいけません。

 さて、ここでPFSの詳細な説明をすることとします。PFSというのは名前からお分かりになる通り、フィナステリドの投与が終わってからの症状のことを言います。本来は薬の副作用は薬の投与を中止すれば解決されることがほとんどです。たとえば薬疹とか薬剤性肝機能障害ですね。ところがPFSというのは、フィナステリドの投与を中止しても、これらの副作用が遷延してしまうという厄介な状態のことを指します。この症状の発現は患者さんの生活の質を大きく損なうため、かなり問題視されるようになってきました。そして残念ながら、いったんこういった症状が残ってしまっても、あまり有効な治療法がないことも問題です。

PFSの定義

PFSの定義

最後に

 これらがPFSの定義となりますが、フィナステリド投与後にこのような症状を自覚しているかたは少なくないかもしれません。繰り返しになりますが、残念ながらこの状態を改善する有効な治療法はありません。今後フィナステリド、今回はあまり強調しませんでしたがその類似薬であるデュタステリド、の若年者への投与がおおきな社会問題となってしまうかもしれません。

 AGA治療を考えているかたは、この副作用を十分理解のうえで治療をうけるようにしてください。

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