宗教を欠いた中二病?
「ホテルムンバイ」を観た。
2008年、インドのムンバイで、姿なき電話の声に導かれ、ムスリムの若者達が大量殺戮を行なったときのことをベースにしたサスペンス映画。さすがは豪州映画、重たくて絶望的な気持ちになり、最後に希望と言うにはあまりに微かな光が見える。現実には光は無いのかも、と分かってる感じね。
真面目で学力がある若者たちにとって、現代社会の情報量と速度と内容は、大きすぎるのだと思う。宗教は、自分の弱さを知って憎んでいる若者の正義の心に囁きかけ、跳躍を促す。気持ちよくなりたいのになれないうだつの上がらない男子にとって、宗教、古代の儀式、歴史等の空想は、力の源泉である。つまり
中二病だ!
ムンバイテロを主導した者は、中二病拗らせた大人だろうか。
例えば、「ターボキッド」は、八十年代回帰ブームの中でもびっくらこくほど中二病の大輪花が咲いている。
悪役なんか、もはや北斗の拳の悪役だ。自らゼウスを名乗ってしまう辺り、かなりの重症な中二病である。そういや、「ふしぎの海のナディア」の悪役ガーゴイルさんも、自らをアトランティス人と思い込む中二病重症者だったな…
ISの指導者だったバグダディさんは、自らをカリフと宣言した。カリフって…ちょ、おま……wと普通なら皆が笑うかジジィが怒り出すはず。ところが彼は、大きなパワーと資金をバックに実現してしまった。真面目な神学生だった彼の中二病がそこまで劇症化したのは、イスラム教という口うるさいじじぃみたいな宗教のバックアップ以外には考えられない。
彼は「中二病の精神のジャンプ」をやってしまった。
IS騒乱を受け、巫女みたいな学者さんが「イスラム教は本質的にやばいんだ!」と怪気炎を上げられており、今日も元気にネット上で「ファクトの剣」を振りかざし、素人をしばきまくってる(多分)。
しかし、過激な彼女には中二病的な「精神のジャンプ」が感じられない。スタンスはあくまでファクト中心だ。やっぱり「中二病の精神のジャンプ」は、圧倒的に男子に特有の現象なのだろうか?
「男子がイキったら悪役になっちゃった」→ヒーローが退治しちゃったという映画は、リブートの「ゴーストバスターズ」(2016年)のローワン、「メガマインド」のハル、「Mr.インクレディブル」のシンドローム等色々ある。リブートの「ゴーストバスターズ」と「メガマインド」の悪役は所謂非モテ。その上でイキったら罰を喰らって社会またはこの世から抹殺である。
ところで、イケてない男子がイキったら退治されちゃったという物語は、私はどうも割り切れない。自分がよりによってオネエで、「よわっちい男子」で、スポーツ全般苦手で「男子のキモチよさ」を享受できなかったからなのかもね。「JOKER」はそこを突いているのだろう。私は幸運にも(!)ゲイで生まれてしまったので、あの映画のメッセージには半分位しか繋がれなかった。
でね、宗教がうだつの上がらない男(それは同性愛者も含む)の中二病を煽るのだと考えると、例えば、アメリカのアンチゲイの議員や、同性愛矯正を主催してた人が「実は同性愛者だった、ごめんね」(取り上げられる写真がどれもこれもゲイっぽいのはお気の毒…)ってなるケースも、ピューリタニズムの中で「男子のキモチよさ」を享受できなかった恨みから、自分も「力」を手にしたと錯覚したかったのかもしれないね。
では宗教によるエネルギーチャージを期待できない日本みたいな社会で、この問題がどう出てくるのかと考えると…私は、施設に入所していた人達を殺した植松さんが重なってくる。彼は新自由主義時代の日本において、「生産性」という宝剣で「正義」を行ったのだと思う。「中二病の精神のジャンプ」すらも体験せずに、「非生産的」=「人のご厄介になっている」という点で、「正義のジャンプ」をしちゃったんだね。高次機能障害等、自力で生きるのが厳しい人を家族に持つ者全員が抱える「つらさ」と、何だか分からないけど彼の持っていた「つらさ」や「疑念」が繋がって、新しい世界への門が開いちゃったんだろう。彼が死刑を望んでいる辺り、私にはどうも自爆型テロリストと重なってしまうの。そこに宗教が介在していないだけでね。この問題は、すごく具体的な苦境や苦痛に直結して、私達を責め立ててくる。痛い。だから皆、うまく回答を出せていない。「ダメったらダメなの!」と割り切れない何か。色々と崩壊していく「バカの国」日本で、その隙間を埋めてくれるそうなのは、今のところ天皇制だけなのではあるまいか。
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