【東大授業料値上げ開示請求・その1】行った開示請求の内容を解説します

6月下旬に、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律に基づいて、国立大学法人東京大学に対して14件の法人文書開示請求を行いました。内容はいずれも今般の授業料値上げ(の検討)に関するものです。開示請求に対する決定は、期限延長の手続きが取られない限りは30日以内に行われることになっていますので、まもなく結果が判明するはずですが、それに先立って、行った開示請求の内容とその解説を示します。

開示請求の手続きは、東京大学のウェブサイト「開示請求の方法」のページに載っている様式に記入し、所定の手数料を支払うだけです。様式の記入欄は請求者自身の氏名や連絡先などの情報を除けば本質的には一つしかなく、「請求する法人文書の名称等」がそれです。法律の条文上は「法人文書の名称その他の開示請求に係る法人文書を特定するに足りる事項」であって、対象とする法人文書の名称すなわちタイトルが分かっている必要はないのですが、この様式の書きぶりはややニュアンスが微妙な気もします。それはさておき、以下、この欄に何を記入して開示請求したかを解説とともに説明していきます。


(1)~(9) 諸会議の資料・議事録等

(1) 諸会議の日程

2024年度における役員会、教育研究評議会、経営協議会及び科所長会議その他全学の重要な会議の日程の一覧が記載された文書
(臨時の会議(メール審議等を含む。)がある場合には、その日程の情報が記載された文書を含む。)

これは

  • 役員会

  • 教育研究評議会

  • 経営協議会

  • 科所長会議

  • その他全学の重要な会議

の日程の一覧が記載された文書の開示を求めています。今回、総長対話の直前に経営協議会が開催されましたが、そのことは別の会議の資料から間接的に判明しました。役員会や科所長会議の日程はリークによって一部のみが判明しているにすぎません。今後も当局側の審議・決定スケジュールを考慮した動きが必要となる可能性を想定し、この項目を開示請求に含めました。また、諸会議の資料・議事録を開示請求するための起点にもなると考えています。

(2) 2024年5月14日の科所長会議の資料等

2024年5月14日の科所長会議に係る
 議題の一覧が記載された文書
 及び授業料の値上げに関する議題の配布資料

日付・会議名を指定した上で資料を開示請求しています。このような指定をせずに「○○に関する資料すべて」とか「○○が分かる文書」のように広く取った開示請求を行うアプローチも考えられますが、具体的に絞り込んだ指定をすることで、不開示となった場合に得られる情報が増えるというメリットがあります。というのも、不開示の場合はその理由を提示する必要があり(行政手続法第8条)、実務として、文書が存在しない場合(「不存在」の場合)は少なくともその旨が示されるようになっています。具体的な開示請求を行っていれば、不開示の理由が不存在なのかそうでないか(文書の存否)によって、文書が存在するかどうかという情報が得られるわけです。

なお今回はさらに、「議題の一覧が記載された文書」についても開示請求をしました。先に述べたように、資料本体が不開示になった場合は不開示理由における文書の存否から間接的に情報を得ることができますが、それだけではなく、もしこちらの議題の一覧だけでも開示されれば、そちらからも授業料の値上げがこの会議で取り扱われたかどうかが分かります。議題名の記載ぶりによっては、どのような趣旨で取り扱われたのか推測できる可能性もあります。

(3) 2024年5月14日の科所長会議の議事録等

2024年5月14日の科所長会議に係る
 議事録、
 議事要旨、
 担当部署又は出席・陪席部署等における議事内容のメモ又は記録
 ないし録音又は録画のデータ
(いずれも、議題ごとに別の文書等として作成されている場合にあっては、授業料の値上げに関する議題以外の議題に係るものを除く。)

こちらは議事録などを求めています。狭義の「議事録」は出席者の発言が一言一句書き起こされたもので、「議事要旨」が箇条書きなどで発言の趣旨をまとめたものです。さらに、会議によっては正式な議事録・議事要旨を作成しないことがあるため、「担当部署又は出席・陪席部署等における議事内容のメモ又は記録」を入れています。加えて、最近はオンラインでの会議もあるほか、対面の会議でも録音がされているケースもありますので、「録音又は録画のデータ」も挙げておきました。

ちなみに、科所長会議の開催根拠である「部局長等との会議に関する総長覚書」では「議事録は作成しない。」とされているので、少なくとも議事録と議事要旨は不存在となる可能性が高いことは初めから想像がつきます。

(4)~(9) 2024年6月の科所長会議・教育研究評議会・経営協議会の資料・議事録

以下の会議について、(2)および(3)と同様の文言で開示請求をしました。

  • 2024年6月4日の科所長会議

  • 2024年6月11日の教育研究評議会

  • 2024年6月14日の経営協議会

教育研究評議会と経営協議会の配付資料一覧と議事要旨は、数ヶ月程度でウェブサイトに掲載されるので、少なくともそれらは開示される可能性が十分あると考えています。

それ以上つまり議題ごとの資料や議事録が開示されるかどうかは、結果が出てみないとなんとも言えないという感触です。とはいえ、「独立行政法人等……の内部……における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ……があるもの」や「独立行政法人等……が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、……当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」あたりを適用して弾いてくることはあり得そうに感じています。個人的にはあまり濫用すべきでない条項だと思いますが。

(10)~(11) 総長対話の進行要領と記録

(10) 総長対話の進行要領

2024年6月21日の「総長対話」に関し、事前に定められた進行の要領等を記載した文書
(総長ないし司会者のためのメモ等を含む。)

これは気になる方が多いと思います。不満の声も多く聞かれました。あれに何も台本がないということはあり得ないので、さすがに不存在ということはないとして、開示されるかどうかが焦点です。開示請求しているのはあくまで要領であって“対話”の中身ではないので、不開示とするには適用できる条項があまりないのではと見て開示請求しています。

(11) 総長対話の記録

2024年6月21日の「総長対話」に係る
 発言の書き起こし、
 発言の要旨、
 発言内容を担当部署等においてメモ又は記録したもの
 ないし録画のデータ

請求しておいてなんですが、少なくとも学生の発言については開示が妥当とは思いません。どちらかというと不開示理由における文書の存否の記述によってどこまで記録を残しているかを明らかにすることがねらいです。考えにくいとは思いますが、総長側の冒頭発言などが開示されたら儲けものです。

なお、当日使用されたスライド資料は後日UTASに掲載されたと聞いているので、開示請求には含めませんでした。

(12)~(14) 総長対話前後の決裁や記録に関する文書

(12) 教養学部自治会宛てのパブリックビューイング中止要請の決裁記録

2024年6月20日付けで「東京大学教育・学生支援部」の名義により「教養学部学生自治会」宛てに発出された「「総長対話」のパブリック・ビューイングについて(通知)」と称する文書に関し、東京大学文書処理規則に基づく起案及び決裁等の記録が記載された文書

これはちょっと解説が必要でしょう。そもそものパブリックビューイング中止要請ですが、これです。

それでこの紙切れにはツッコミどころがいくつかあり、まず右上に「東京大学教育・学生支援部」と書かれていますが、東京大学事務組織規則をよく読むと、この規則では「課」と「部長」は規定されているものの「部」が定義されていないことが分かります。したがって発出者名として「東京大学教育・学生支援部」と書くのは公文書の形式として相応しいとは言えません。また、文書の題名の最後に「(通知)」と書かれていますが、これは公文書における慣例として文書の性格を表すために行われるもので、「公用文作成の考え方」でも示されている一般的なスタイルです。ところでこの文書の中心となる内容は「パブリックビューイングの中止を要請」することであり、「通知」では文書の性格を適切に表現できていません。(こういうことについてあまり口うるさく言っているとブーメランが返ってきそうですが、それはさておき)適正な形式を備えた信頼の置ける文書は組織内での適正な意思決定の基礎であるはずなので、この中止要請を作成・発出した責任者を明らかにしたいと思って開示請求しました。

なお、東京大学文書処理規則は、「通知等の発議が必要と認められるとき」に起案・決裁のプロセスを開始すると定めており、また起案には「各部局等で別に定める起案用紙を用いるものとする。」としています。読んで字の如くですが「起案」とは案を作る(起こす)ことで、「決裁」は権限を持つ責任者が承認・決定を行うことです。「軽易又は定例的な事案を起案するときは、適宜な方法により処理することができる。」という規定もありますので、たとえば学内事務組織間の連絡であれば、規則に沿った起案・決裁の記録が残っていなくても仕方がないかもしれません。しかし学生自治会に対してその活動を中止するよう要請する文書が「軽易又は定例的」であるとは到底言えませんので、真っ当なプロセスが踏まれていれば、起案・決裁の記録は絶対に残っているはずです。そしてこれも中身の問題ではなく事務手続の問題なので、不開示とするには適用できる条項が少ないのではないかとも考えました。

(13) 「本学施設への侵入事案について」の作成過程

2024年6月22日付けで「東京大学」の名義によりウェブサイトに掲載された「本学施設への侵入事案について」のお知らせに関し、その作成の過程(当該お知らせに記載されている事案に係る事実確認の状況を含む。)が記録された文書

この「本学施設への侵入事案について」については多言を要さないでしょう。後に第2報が出ていますが、開示請求をかけた時点では第1報のみでしたので、第1報のみを対象としています。こちらは文書処理規則が適用されるか確信を持てなかったことに加え、形式的なプロセスよりも内情を知りたかったので、規則とか起案・決裁という官僚用語は出さず、「作成の過程」としました。

そしてポイントは「事実確認の状況を含む」です。ウェブサイトに掲載されたお知らせと絡めずに単にこの出来事に関する文書という形で開示請求をしていたら、何に対する請求であるか、当局側で範囲を恣意的に決められてしまっても(請求の範囲を狭く解釈されてしまっても)こちらには分かりません。しかしウェブサイトにお知らせが載っている以上、そしてこれだけ重要な案件である以上、内部での作成の過程で何かしらの記録は必ず残されているはずです。このように、事実関係に関する文書について、存在するはずの(存在しなければおかしい)文書を起点にして間接的に指定する、というのは開示請求における一つの工夫だと考えています。丸ごと不開示になってしまうとさすがにどうしようもないですが、もし開示された上でそこに事実確認の状況に関する記載がなければ、事実確認をせずにお知らせを掲載したということになるので、今度はそちらを追及することができます。

なお、既に第2報や教養学部学生自治会の「再声明」によって今回の顛末の事実関係は解明が進みつつありますが、それでも当局側の対応やその根拠を確認することには一定の意義が残ると考えます。

(14) 報道の取材への対応記録

2024年6月21日に安田講堂前において生じた警察への通報を伴う事案に関し、報道の取材への対応(その前提となる事実確認の状況を含む。)が記録された文書

こちらも上のお知らせ作成過程と同じアプローチです。いくつかの報道では大学(当局)側のコメントが出されていましたので、取材は行われていますし、それに対して何らかの回答が行われています。そして、その際にまったく記録を残さないということも、一般的な広報のセオリーとしては考えにくいことです。もっとも、取材は相手があることなので、不開示となる可能性は小さくありませんが。

結語

本稿は以上となります。開示請求の結果が判明次第、続報をお伝えします。


(2024年7月26日追記)決定期限が延長されました。

(2024年9月3日追記)決定通知書が届きました。


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