国立大学の運営費交付金制度とその変遷

今日は知識編である。巷で飛び交う「運営費交付金は年1%削減されている」とか「授業料を値上げするとそのぶん運営費交付金が減らされる」といった命題の真偽を確認する。答えから書いてしまうと、前者は部分的に事実を含んでいるが実態はもっと複雑であり、後者は現時点において直ちに事実であるとは言えない。

なお、本当は運営費交付金だけでなく競争的研究費(の、特に間接経費)や施設整備費補助金などを含めて大学財政全体を議論しなければならないと思うが、ひとまず運営費交付金に絞って記述する。


(2004~2009年度)第1期中期目標・中期計画期間

国立大学法人制度のもとでは、6年間の「中期目標・中期計画」期間の区切りが政策的にも一つの区切りとなってきた。特に運営費交付金の仕組みはその典型例である。法人化は2004年度に行われたので、第1期は2009年度までとなる。

法人化の際、「国立大学運営費交付金算定ルール」というものが作られた(リンク先は2004年3月18日の科学技術・学術審議会学術分科会に提出された資料)。これだけでは簡素にして要を得ないので、図解および適用例を用いた説明を行っている島 (2007) を参考にあげておく。このルールの基本的な仕組みは次のようなものだった。

  • 想定される経費から授業料などの収入を引いた額を運営費交付金の額とする。

  • 経費の額や収入の額は法人化前の実績額をベースとしつつ、毎年度、前年度の数値に一定の「係数」を掛けた額とする。

    • 効率化係数」として、経費のほぼ全体について年マイナス1%の係数を適用(大学設置基準で定められた最低水準の教員数に対する給与は除外された)。

    • 「経営改善係数」として、附属病院収入について年プラス2%の係数を適用。

要するに、経費を年1%減らして附属病院収入を年2%増やすことを前提にした金額で算定されるということである。全体として大雑把に見れば、運営費交付金が年1%ずつ削減される仕組みだったと言える。

ちなみにこの「効率化係数」という考え方は、国立大学法人に先行する独立行政法人において導入されたものである(独立行政法人の運営費交付金は所管省庁で予算として計上するようになっていて、一律の基準があるわけではないが、2011年の会計検査院の報告によると、2000年に中央省庁等改革推進本部事務局が出した「独立行政法人・中期計画の予算等について」というガイドライン的な文書で効率化係数を用いた例が示されているらしい)。後の補遺でも関連する事項を述べるが、法人化そのものは大学の独立性を高める側面も持つ一方で、行政改革の文脈を色濃く持つ独立行政法人を下敷きにして制度が作られたこともまた事実であり、あくまで国立大学の特性に応じた別の制度とはされつつも、財務当局の方針も相まって支出の削減という施策が波及してしまったものと見ることができよう。この点、国会の附帯決議(衆議院「法人化前の公費投入額を十分に確保」、参議院「法人化前の公費投入額を踏まえ、従来以上に各国立大学における教育研究が確実に実施されるに必要な所要額を確保」)が反故にされていることは遺憾と言わなければならない。

(2010~2015年度)第2期中期目標・中期計画期間

2010年度から2015年度までの第2期の期間では、第1期での算定ルールからの変更が行われた。資料としては、その後の第3期に向けた検討開始時の資料だが、2014年11月5日の「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」の「国立大学法人の現状等について」などが見つかる。国がインターネット上で公表している資料が必ずしも多くないので、参考までに福島 (2011) および福島 (2015) もあわせて提示しておく。

具体的な変更内容として、「効率化係数」と「経営改善係数」という枠組みは改められ、代わりに「大学改革促進係数」が設定された。大枠はそれまでと同じで、経費に一定の係数を適用して減額していく仕組みである。値は、附属病院を持たない大学はマイナス1%、附属病院を持つ大学はマイナス1.3%、附属病院運営費交付金が交付される大学(附属病院が赤字の大学)はマイナス1.6%とされた。大学設置基準で定められた最低水準の教員数に対する経費を除外することは変わっていない。

なお、資料では「大学改革促進係数」による削減は「新たな政策課題等に対応するための財源を捻出」と記載されており、そこから窺うに、国立大学に対する国の支出を全体として減らすことではなく、特定の政策に即した別枠での支出に振り向けることが企図されているようにも見受けられる。ただし、運営費交付金の中にも「特別経費」という特定の施策のための経費が一般経費とは別枠で用意されているが、これを含めた総額で見ても、第2期の期間内は引き続き年1%程度のペースで減少し続けている。運営費交付金の外に「国立大学改革強化推進補助金」「国立大学改革基盤強化促進費」などが設けられており(たとえば2014年1月22日の国立大学法人研究担当理事・副学長協議会資料「国立大学法人運営費交付金等の概要について」などを参照)、これらによって対応されたということなのであろう。

このほか、国立大学法人評価(所管省庁から定期的に業務実績の評価を受ける制度。独立行政法人に由来)を反映して運営費交付金を増減させる「評価反映分」という仕組みが導入された(2010年1月20日の国立大学法人評価委員会総会資料「国立大学法人運営費交付金への評価結果の反映について」参照)。ただし、(この時点では)評価を反映する対象となるのは運営費交付金全体の1%に留まっており、規模としては必ずしも大きなものではない。

(2016~2021年度)第3期中期目標・中期計画期間

2016年度からの第3期では大きな変更が加えられた。その基礎となったのは、2014年から2015年にかけて開催された「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」での審議であり、内容は「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)」にまとめられている。ポイントは以下のようになるであろう。

  • 係数は「機能強化促進係数」として継続する。

  • 係数によって捻出した額は、3つの「重点支援」の類型に沿って各大学の構想や進捗を評価し、それにより「再配分」する。

  • 3つの「重点支援」の類型は具体的には以下の通り。

    • 「人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組とともに、強み・特色のある分野で世界ないし全国的な教育研究を推進する取組」

    • 「強み・特色のある分野で地域というより世界ないし全国的な教育研究を推進する取組」

    • 「卓越した成果を創出している海外大学と伍して、全学的に世界で卓越した教育研究や社会実装を推進する取組」

ここで、「係数」が削減というより(再)配分の仕組みとなっていることは小さくない変化である(実際、第3期に入ってから運営費交付金の総額はおおむね横ばいで推移している)。一方で、すべての国立大学が事実上3つの「重点支援」のいずれかを選択しなければならなくなったことは、大学を“類型化”するものと受け止められ、批判的な評価も見られる。また、評価による配分という考え方は、運営費交付金の基盤的経費としての性質を損なう側面が少なくない。国の策定した重点項目に対して配分を行うことで、各大学の施策を誘導し、実質的に国の関与を強める制度となっていることも見逃してはならないだろう。

この制度は2015年6月8日の文部科学大臣通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」に記載され、公式の方針となって実行された。蛇足だがこの通知は、「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については……組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。」という文言で物議を醸したことでも有名である。

加えて、第3期の途中である2019年度からは、「成果を中心とした実績状況に基づく配分」という新しい仕組みが導入された(令和元年度国立大学法人運営費交付金における新しい評価・資源配分の仕組みについて)。第3期開始時以来の「重点支援」とあわせて2つの軸で評価が行われる形である。「重点支援」はあくまでも各大学がそれぞれ自ら定めた構想・指標に対して評価を行う形式を取るのに対して、この新しい仕組みでは(類型による違いを部分的に考慮しながらも)基本的に全大学に共通の指標によって一律に評価が行われる。これは財政制度等審議会財政制度分科会での議論が発端となったもので、経緯は竹内 (2019) に詳しい。なお、導入に至る過程で国立大学協会が「国立大学法人制度の本旨に則った運営費交付金の措置を!:国立大学が将来を見通した経営戦略の下に改革を実行していくために」という反対声明を出していることを付記する。

これらにより各大学への実際の配分がどのような結果となったのかは、以下のページに掲載されている。

(2022~2027年度)第4期中期目標・中期計画期間

現在は2022年度から始まる第4期の期間にある。第4期の枠組みは第3期の延長線上にある。第3期と同様に「第4期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」で審議が行われ、まとめとして「第4期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)」が出された。これに沿った方針をとる旨の文部科学大臣通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」も出されている(2021年7月2日)。制度の枠組み的な内容としては、第3期の途中で導入された「成果を中心とした実績状況に基づく配分」を組み込む形で整理・体系化し直す、というのが主要なものである。

  • 第3期では、運営費交付金を「基幹経費」と「機能強化経費」に分けていた。

    • 基本的には、「機能強化経費」が「重点支援」によって配分される部分である。

    • 「成果を中心とした実績状況に基づく配分」は「基幹経費」の一部に対して行うものとされていた。

  • これを次のような3つに区分する考え方に改める。

    • 「客観的に算定できる基礎的な部分」:大学設置基準で定められた最低水準の教員数に対する経費など、従来から係数や配分が適用されてこなかった部分。

    • 「特有のミッション実現のために必要な部分」:従来の機能強化経費に加え、「基幹経費」のうち「係数」の適用対象となってきた部分(事務組織や学生の所属しない研究所など)を含めた区分。配分元と配分先をまとめて括ったものと見受けられる。この区分は内部でさらに「研究所、事務組織等の運営費分」「教育研究組織整備・共通政策課題分」「ミッション実現戦略分」に細分されている。

    • 「実績等に基づき配分される部分」:従来の「成果を中心とした実績状況に基づく配分」に相当するもの。

  • 「重点支援」で設けていた3つの類型はやめ、「特有のミッション実現のために必要な部分」で類型化はしない。「実績等に基づき配分される部分」において、大学の規模・組織体制を踏まえた評価のために、グループ分けを行う。

これらに対する評価はまだ出揃っていないが、大学の恒常的な活動に対する経費である「基幹経費」(第2期では「一般経費」)の区分が、大学設置基準で定められた水準の教育活動に相当する「客観的に算定できる基礎的な部分」と「特有のミッション実現のために必要な部分」に分断された、ということは一つの画期であるように筆者には思われる。事務組織なしで教育活動を行うことなどあり得ないのであって、「客観的に算定できる基礎的な部分」は大学設置基準との整合性を取るための形式的かつ最低限のものにすぎない。運営費交付金の基盤的経費という性格を制度的枠組みの面においても根底から覆し、事実上そのすべての部分を国の政策に沿って配分しようとするものと見るべきではないか。

なお、文部科学省での検討と並行して、国立大学協会があらためて評価による配分に反対する提言を出していることを述べておく(中間まとめもあるが、最終版は「第4期中期目標期間へ向けた国立大学法人の在り方について:強靭でインクルーシブな社会実現に貢献するための18の提言」)。

補遺その1:授業料と運営費交付金

最初にお題として述べた「授業料を値上げするとそのぶん運営費交付金が減らされる」か否かという点を回収していない。文部科学省がホームページに掲載している「国立大学法人の業務運営に関するFAQ」には次のように書かれている。

Q3. 授業料を値上げすると運営費交付⾦が減額されるのか。
A3. 授業料を値上げしても、運営費交付⾦の増減には影響しません。
授業料は、「国⽴⼤学等の授業料その他の費⽤に関する省令」第10条に基づき、「標準額」の120%を上限(下限なし)として、学則等において各⼤学がそれぞれ設定することが可能となっています。
第4期中期⽬標期間における運営費交付⾦の算定に当たっては、各⼤学の収容定員に対して「標準額」を乗じることにより授業料収⼊を⾒積もっており、授業料を値上げしても運営費交付⾦の増減に影響しない仕組みとしています。

ここには明確に「授業料を値上げしても、運営費交付⾦の増減には影響しません。」と書かれている。

なお、授業料値上げの動きが活発化したのは2019年度すなわち第3期の中盤からということもあり、過去の資料でこの点に言及したものは管見の限り見当たらない(このFAQは、筆者が国立国会図書館のアーカイブで確認した限り、2019年7月頃から掲載されており、ほぼ同様の内容である)。もっとも、各大学での“経営努力”を帳消しにするような運営費交付金の算定は行わないという方針は古くから変わっていないようで、上述した第1期の算定ルールでも「その他、受託事業・寄付金収入等の外部資金は交付金算定に影響させない。」という記載が見られる。ただし、これはあくまで経費から収入を差し引いた分を運営費交付金として国が負担するという当初からの考え方のもとでの「収入」の算定の問題であって、近年の「配分」強化における各大学の評価でどのように扱われるかは明らかではない。6年間の中期目標・中期計画期間における一貫性にはある程度配慮されているようだが、それでも2028年度から始まる第5期でどのような方針となるかは現時点では見通せないというべきだろう。

補遺その2:法人化と運営費交付金

そもそも運営費交付金とは何か。法人化前は国立大学は直接的に政府の一部であったので、国立大学の収入・支出も直接的に国の会計のなかで扱われていた(国立学校特別会計として一般会計からは区分されていたが)。比喩的に言えば、一つ一つの収入・支出がすべて国の帳簿に載せられていたということである。しかし法人化されたことにより会計も国の会計からは分離され、同じ比喩で言えば国立大学法人ごとに帳簿を持つようになった。とはいえ、もちろん国立大学は国の費用負担のもとに高等教育・研究を実施する機関なので、国の支出がなくなるわけではなく、各国立大学での従来の支出に相当する金額をまとめて国から国立大学法人に払うという仕組みが取られる。国の帳簿にはその1個の支払いだけが載る、というのが大きな違いである。「運営費交付金」とはこの支払いのことを指している。(筆者のように)法的根拠が気になる方のために念のために書いておくと、国立大学法人法第35条の2において国立大学法人について準用される独立行政法人通則法第46条がそれで、読み替えを適用した後の条文は次の通り。

(財源措置)
第四十六条 政府は、予算の範囲内において、独立行政法人に対し、その業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができる。
2 独立行政法人は、業務運営に当たっては、前項の規定による交付金について、国民から徴収された税金その他の貴重な財源で賄われるものであることに留意し、法令の規定及び国立大学法人等の中期計画に従って適切かつ効率的に使用するよう努めなければならない。

本論での議論を踏まえれば、この条文が独立行政法人通則法の準用であることが国立大学法人の運命を決定付けたとも言えるのではないか。

余談となるが、法人化前の国立大学の経費についても触れておく。詳しく記す余裕はないが、1999年度まで、国立大学の予算は「積算校費」と呼ばれる考え方によって組まれてきた。算定のベースに「講座・学科目」という教育研究上の組織(大雑把にいうと研究室などを制度的に位置付けたもの。後に法令上は廃止された)を置く仕組みで、講座・学科目1個あたりの単価を類型ごとに定め、それを大学全体で合計(積算)したもので予算を定めるのである。非常に硬直的な仕組みであり、組織の改編が予算に直結するために必ずしも時宜に応じて実施できなかったなど弊害も抱えていた一方で、明確な算出根拠を持ち短期的な政策的関与を受けることが少ないという側面もあったと見ることができるだろう。2000年度からは名目上「積算校費」は廃止されたが、前年度ベースでの同等額の予算が続いており、実質的な算出方法の変更がなされる前に法人化を迎えることとなった。このあたりに関心のある読者は天野 (2003) を参照されたい。

まとめ

国立大学法人の運営費交付金は、法人化初期にはおよそ年1%のペースで削減されていった。それは、単に法人化されたことを要因としているのではなく、法人化が大学の独立性を高めるという観点から出発しておらず、独立行政法人制度をはじめとした行政改革の流れのなかで行われた、という事実の結果と見るべきである。

その後、第3期中期目標・中期計画期間の頃からは、機械的な削減は行われなくなったが、その一方で評価による配分という要素が急速に拡大していき、運営費交付金をめぐる問題の焦点はこちらに移動した。この状況は国立大学に対する国の政策的関与を強める方策として機能しており、現在まで続いている。今後の展開を注視する必要がある。

参考文献


(2024年6月22日追記)この投稿は、筆者以外の著作物を引用している部分を除き、CC BY-NC-SA 4.0の下で利用できるものとします。なお、同ライセンスの認める範囲をこえて利用したい方は、個別に対応を考えますので、筆者までご相談ください。

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