「ルポ」さいたま市、中学生の五輪観戦中止を決定。その裏でおきていたことは…
事の発端は、ある教員の方が党市議団に「市教育委員会が市内中学校に五輪観戦プログラムの調査をおこなっている。突然の調査で混乱している」との情報提供を受けたことでした。
相談を受け調査をはじめると、市教委は5月24日に市内の中学校に対して五輪観戦プログラムを実施するために必要なチケット枚数・引率者・交通手段などを調査する書面を送付していたことがわかりました。
この事実が広まるにつれ、関係者や市民から「子どもが感染したら、だれが責任とるのか」「欠席時の取り扱いはどうなるのか」などの声がよせられるようになりました。
■ズレる認識。市と県に聞き取り調査
こうした声を受け、私は6月2日に市教委に聞き取り調査を実施。聞き取りの中で担当者は「今回の調査は県の依頼で実施した。想定される課題は、わからないことが多く回答できない」と説明するのみで、県の責任を強調する姿勢が目立ちました。
この聞き取りを受け、6月4日に県オリンピックパラリンピック課に聞き取り調査をおこなうと、担当者は「観戦するかどうかは市が決めること。県はチケットを確保するだけ」と説明し、責任はあくまで決定者の市教委にあるとの見解を示しました。また、キャンセルした場合でも「負担は一切ない」との回答もありました。
■市教委に「中止」を求めて申し入れ
県への聞き取り調査を踏まえ、6月8日、党市議団として正式に市教委に対し「五輪観戦プログラムの中止を求める申し入れ」をおこないました。
申し入れでは、県の主張を説明しながら「中止の判断は市にしかできない」と決断を求めましたが、出席した副教育長からは「このプログラムに反対する声がある一方で、賛成する声もある。感染リスクゼロを基準に考えると通常の授業もできない」と回答するなど実施に前向きな姿勢が目立ちました。
■急転直下、市教委が観戦中止を決定
6月11日に市教委が突如としてプログラム中止を決断したとの連絡がありました。理由を尋ねると「諸般の事情を鑑みて」と。
決定を受けて大変おどろきましたが、私たちは歓迎する旨を伝えました。
この決定の背景には党市議団の申し入れに加え、反対世論の高まり、埼玉県の大野知事が県内パブリックビューイングの中止を発表するなどがあったと考えられます。
■一連の経過から、わかることは
この経過を通して、もっとも印象的だったのは、市も県も、このプログラムの可否を主体的に判断しようとしなかったことです。
もし、責任の所在が曖昧なままプログラムを実施していれば、最終的な責任は参加の判断をした子どもや保護者になってしまったでしょう。
県と市が主体的な判断をくだせない一番の理由は、政府の曖昧さです。県、市も聞き取りの中で「国の態度が不明確で判断が難しい」との本音がもれる場面もありました。
そもそも、この学校連携観戦チケットは政府が令和元年度に計画した事業ですが、コロナ禍前の計画を再検討しないまま五輪直前まで放置した結果、ただでさえ多忙な教育現場にさらなる混乱をもたらすことになりました。
5月31日、国会で日本共産党の吉良よしこ議員が「学校連携観戦チケット事業の責任はだれにあるか」と質問すると、萩生田文科大臣は「この事業をやるかやらないかを決めるのは私ではない」と無責任な答弁をしました。
『政府の無責任な対応の1番の被害者となったのが地方自治体だった』というのが騒動の結論ではないでしょうか。