スケッチ
Twitterで書いたスケッチです。
描写の練習。ストーリーとかオチはあまりない。
①青草の茂る道は白くかすみ、中天をすぎた陽光はいまだ厳しい。喉が乾いた。今朝竹筒に汲んだ水はとうにない。玄七は打ちかい袋から干からびた梅干しを出して眺めた。粘ついた唾液は苦味があって、喉には流れ落ちず、上唇に張り付いた。先をゆく徒組頭が進みが遅いと怒鳴っている。
②後ろから足軽組頭が軽快に馬を走らせてきた。「おう、あと一里で諏訪じゃ」顔をあげると、虎髭の組頭は大汗が流れるままに歯を見せて笑った。「玄七。足軽組頭、わしと交代するか。馬に乗れるぞ」のろのろと首を振る。虎髭の組頭、原虎胤の体にどれだけの傷が刻まれているか、玄七はよく知っている。
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長篠スケッチ。
たぶん山県昌景の首を持ち帰った志村某の視点です。
【長篠スケッチ】怒声が追いかけてくる。さっきより近い。後ろの隊が首獲りに捕まったらしく、断末魔の悲鳴が聞こえた。寒狭川の支流を必死で走ったが、深みに脚を取られて顔から泥に突っこんだ。首を掲げて名乗りをあげる声がする。捕まるな、と必死で川から這い出た。行く先は、いまだ分からぬ。
【長篠スケッチ2】母衣を小脇に抱えて走った。なかの塊は、重かった。こんなに重いのか、捨てていこうかと何度も思った。介錯する間際主がこぼした無念の涙が、自分の両目から落ちるものと同じだと思うと、母衣からのぞく乱れた頭髪を押しこめ、自然と足は動いた。との、との。なぜ私に託したのです。
【長篠スケッチ3】夜が明け、陽が高くなると、首が気になる。暑くなりそうで、腐ってしまわないかと気がかりだ。塩漬けにしたいが武節城までの城は全て寝返ったとみな噂している。御大将は討ち取られたとも聞いた。一晩じゅう眠れなかった。後続の兵がやってきたが、郷村の者に鍬で足を絶たれて、ほどなく絶命した。
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