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赤ちゃんが好む合法の粉末

新米パパの私は、気づいた事がある。
赤ちゃんはミルクが大好きだ。いや、大好きという表現には語弊がある。
好き過ぎて中毒者のソレなのだ。
3時間毎に摂取しなければ感情の起伏が激しくなり、世界一可愛い奇声をあげ続ける。
その度に私は粉末をお湯で溶かし、厳戒態勢で温度調節を行い、赤ちゃんに摂取させる。
その粉末を決して切らしてはいけない。
少なくなってくると私はとある場所に向かうのだ。


全身に黒い服を纏い。マスクに帽子をかぶる。
そしていざという時のために走りやすい靴を選ぶ。

家のドアを少し開け、周りに人がいない事を確認し車にサッと乗り込むのだ。

私の地元には「に○まつや」という不気味でケミカルな白ウサギの看板を出しているブラックマーケットが存在する。
ここには何度行っても慣れる事はない。
ドキドキしながらそのブラックマーケットへ車を走らせる。

平常心を保ち、周囲を気にしつつも決して怪しまれてはいけないのだ。

10分ほど進むと不気味な白ウサギの看板が見えてくる。

滑り込むように駐車場へと入り、スムーズに駐車スペースを確保する。

ここからが本番だ。

現金をポケットに二つ折りにして入れる。これは受け渡しをスムーズに行うためだ。

車を降り、音が鳴らないようそっとドアを閉める。

早足でブラックマーケットの入り口へ向かうとやはりそこは異質な空気が漂っていた。

痩せこけた老夫婦や、大きなバッグを持ったジプシーの様な女が口角を上げ、店内を物色している。


あれは孫へのプレゼントを選ぶ老夫婦。
そして女が持っているのはマザーズバッグだろうか。
小さな子供を連れて幸せそうにしている。

こんなに怪しい白ウサギのブラックマーケットに来る人間とは、目を合わさない方がいいだろう。

私は出来るだけ人のいない通りを進む。ちょうど良いタイミングでブラックマーケットの店員と目が合い、話しかけた。

「アレはどこに置いてます?」

「あちらです」

必要以上の会話はない。プロだ。

関心している場合ではない。
私は末端価格2000円前後の粉末を選び、2缶手に取ってレジへ向かう。

レジには店長らしき男がこちらを向いている。

やばい。ここで舐められると足元を見られて金額をつりあげられてしまう。

ここでいっちょカマすのだ。

「混ぜモンじゃねぇよな。娘が使うんだよ」

「ハイグレードです。」

よし。素早く会計を済ませた私は、ソレを抱え急いで車に乗る。

ソレをシートの下に隠し、何食わぬ顔で車を発進させる。

帰宅途中、何度かパトカーとすれ違ったが決して目を合わせず前を向いて運転した。

家に着くと巷では「ホニュウビン」と呼ばれるそのボングのようなものに買ってきた粉末を200g入れ、120ccの目盛までお湯を注ぐ。
そして赤ちゃんが火傷しないよう、200ccの目盛まで水を足す。
用法用量は守るのが鉄則である。
そしてバーテンダーのごとくシェイクとステアを繰り返すのだ。

愛しの我が娘は目の前のソレにヨダレを垂らして待っている。
「ホニュウビン」から一滴、手の甲に落として温度の最終チェックを行い、娘の口から摂取させる。


グビッグビッグビッ

グビッグビッグビッ


グビッグビッグビッ


さっきまで感情の起伏が激しかった娘は一気に飲み干すと、全ての欲望を満たしたカエルのような表情で「ホニュウビン」をコロリと転がした。

多分キマッている。


赤ちゃんの好む合法の粉末。優秀すぎる。
鼻からいく赤ちゃんもいるそうだが、私の娘はもっぱら経口摂取。

そんな事はどうでもいいのだ。

ミルクを飲む娘を見る時間は、私にとって他では得ることのできない幸福感をもたらしてくれる。

今しか見ることのできないこの光景を眺め、愛おしいカエルの頭を撫で続ける私は、この幸せが合法だということを噛み締めている。

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