東京芸人逃避行 ランジャタイ伊藤幸司
2020年 1月16日
年も新しくなり心機一転、と思って迎えても、
いきなり何か変わる事など無くもう1月も半分を過ぎた。
この日は元々本多スイミングスクールという芸人のYouTubeに載せる映像を撮りに行く予定であったが、
日にちが変わった為時間を持て余していた。
「どこか行こうよ!」
とは伊藤さんである。
「寿司を食いたい!はま寿司に行きたいんだ!」
気軽に寿司を食えればいいのだが金が無い。
正直にそう打ち明けると、
ならば散歩をしようということになった。
「どこかあるかな!」
伊藤さんはどこかに行きたい人間だが、どこに行きたいというのは無い人間である。
もしはま寿司に行っていたなら、
食べ終わった後はどうするつもりだったのだろうか。即解散か。
「西日暮里はどうでしょう。雰囲気の言い商店街があるんです」
「いいね!行こう行こう!」
僕らは14時に西日暮里駅で待ち合わせた。
伊藤さんは安定の遅刻である。
伊藤さんと合流し、僕は酒を買ってもらった。
僕は今から約10年前この地に住んでいた。
少し土地勘もあって、案内できるだろうとここを選んだのだ。
僕が住んでいた時より駅は綺麗になり、
駅前も新しい店が増えた。
通っていた店も移転していたが、雰囲気は変わらず前のままだ。
「昔あの歩道橋の上で漫才の練習とかしてたんです」
「え!?大丈夫だったの!?」
「下に交番があるので喧嘩と思われて警察が駆け付けたことがありましたね」
「青春だなぁ!今もやれば良いのに!」
「出来るか」
「伊藤さん、昔僕が住んでたシェアハウス見に行きませんか?」
「見たい!シェアハウス住んでたの!?」
「はい。ほぼ外人ばかりで日本人は僕らくらいでしたね」
「へー!エロいことは!?シェアハウスってエロいこと起きるんでしょ!?」
「どんなイメージなんすか」
廃墟になってた。
「伊藤さん。まさかのもう誰も住めない状況になってます」
「本当だ!立ち入り禁止ってなってるよ!」
「この一階の角のとこに二人で住んでたんですよ。洗濯ものなんかは二階に上がって干してました」
「へ~。え、本当にエロいことは何も無かったの?」
「ねぇよ。それしか聞く事ねぇのかよ」
僕らは少し歩いて谷中銀座という商店街を歩いた。
住んでた頃、僕はよくここに当時の相方と来ていた。
好きな肉屋があって、そこでよくメンチカツを買って食べていた。
「伊藤さん、世界一美味いメンチカツ食べましょうよ」
「いいね!そんな美味しいんだ!」
「まあ思い出補正もありますけど、美味しいですよ」
「どうですか?」
「…」
「美味しいですよね」
「…」
「あんま口に合わなかったですか」
「………」
「味しないの?」
「あそこの階段のとこ行きましょう。夕焼けだんだん。猫いるかもですよ」
「猫!猫いるのタケイちゃん!」
「そうですね。この辺りの店にも結構招き猫みたいでモチーフにしてる店もありますけど、
それくらい猫有名ですね」
「行こう!猫みたい!」
「伊藤さん、猫いますよ」
「猫!」
「人懐っこいですね」
「可愛いね!」
「あれ!?猫!猫どこ行った!?」
「後ろですよどこ見てんすか」
「可愛かったですね。そろそろ行きましょう」
「伊藤さん行きましょう」
「行きますよ伊藤さん」
「おい」
僕らはまた入口の近くまで戻った。
酒屋があり、
そこでは店頭で酒を買って外に設えられたビールケースに座って酒を呑める。
他の店で買った惣菜なんかを広げて僕らは休憩がてら腹を満たした。
「じゃあそろそろ行こうか!」
「え、まだ夕方ですよ」
「うん!この後ライブで新宿行かなきゃなんだ!」
「え、ライブなんですか」
「そうだよ!」
「だから酒飲まなかったんすか」
「そうだよ!タケイちゃん帰ろう!」
「信じらんねぇマジかよ」
僕らは電車に乗り、伊藤さんは新大久保で降りて会場に向かい、
僕はそのまま帰宅した。
深夜、一通のラインが伊藤さんから来た。
「タケイちゃん!おみくじ引き忘れた!おみくじ!おみくじ引きに行こうよ!いつ空いてるの!?」
返信するか迷ってしまった。
夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。