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隠しきれない00
「ではまたのちほどー」
バタンガチャン、というドアが閉まる音とオートロックが閉まる音がエコーのように続いている。
いい年した大人だけの、仕事でのホテル泊はある意味で気が楽で良い。各々シングルルームに隠れる。夕食・朝食もつき、ホテル内のプレゼンホールに終日通い詰める。
息が詰まる、という同僚もいるが、私はホテルから一歩も出ずにすべてが済んでしまう環境がなかなかに好きだ。職場の人たちが一緒だという緊張感を差し置いても。
職場の研修会にきた。
一泊二日の研修旅行。
温泉旅館、というわけにはいかず、都心にも近いリゾートホテルだ。近くには全国的な観光地があるため、そこそこ良いホテルが隣接して並んでいる。
朝からこのホテルに直行で出勤し、1日目の研修が終わった。
17時に終了、という普段の勤務時間から考えると格段に早いあがり時間に、同僚たちの顔も緩む。
私自身は朝から出勤して、午後か遅くとも夕方までのシフトで勤務しているが、夜まで開館しているサービス業である。お昼すぎや夕方から出勤し、夜の閉館作業をするシフトも必ず人がいる。そんな人たちには、早い時間からの自由時間を楽しみにしているようだ。
部屋に一人になったとたん、空調の音が聞こえてくるほどの静寂に包まれる。廊下での誰かの話し声もくぐもっていて、とても遠いところで話しているみたいだ。
せっかくなので一緒に夕食も済ませて、次に顔を合わせるには朝食の席。朝食も時間内に自由に食べることになっているし、食べない人だっているだろう。
「このあと地下のバーとかどうですか」
このホテルには地下にバーが入っている。少し騒がしいくらいのスポーツバー。
意外とこの職場は、飲み会好きな人がいる。
私より5つ年下の社員の女性、花さん。プライベートでビール工場に見学に行くくらい酒好きらしい。
誘われたとき、花さんが行くなら…という意味の返答をした。それでいい。行くか行かないか他の人に判断を任せてしまった方が。
先月開催された納涼会には行かなかった。まだ職場に馴染んでいなくて、よく知らない人とお酒を飲むことに気が進まなかったから。
(たぶんつづく)