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連続小説:部下を持つ 18

手段が先か

7月下旬には25名の内定者がそろった。例年に比べて少なめだ。
山田は新卒採用チームを役員会議室Cに集めた。役員会議室Cは15階の役員室から離れ、2Fの総務部の前にある。
社員用の会議室が空いていなかったため、山田は、懇意にしている役員秘書に根回しし、役員会議室をおさえていた。ちょうどその日はタイミングよく、役員たちの会議は一切予定されていなかった。議論をするには十分すぎる空間を確保できた。新卒採用チームの社員は、普段使用できない会議室での会議に高揚感を覚えていた。内定者のリストを配り終えた東口は、静かに山田の言葉を待った。
「東口さん、去年までは、このあとどのような活動をやっていたの?」
「はい、辞退者が出ないようにするために、お盆明けに内定者合宿をやっていました」
「辞退者か。去年までの辞退率と、それから、内定者合宿をすることが辞退を防ぐ理由を教えて」
「辞退率ですか・・・、えーっとですね。去年の辞退者は4名でした。一昨年は私が担当ではないのでわかりません。内定者合宿をやる理由ですけど、2泊3日でやるんですが、まず辞退しそうな人は合宿に来ません。踏み絵ですね。ですのでその段階で人数は減ります。合宿では、グループワークをしたり去年はオリエンテーリングをやりました。内定者どうしが仲良くなってくれることが目的です」
「ありがとう。それでも辞退者が4名も出たの?合宿前、後?」
「はい、合宿をやると言ったら6名辞退でした。そして4月の入社式までに4名辞退でした」
「え?数字がおかしいな。辞退者は4名じゃないの?合宿前の6名は辞退者扱いしていないの?」
「はぃ~。実は悪い辞退率は上司に報告できないと言って、岡部課長が合宿に来なかった人は内定者の母数から除いてました。」
「なんだって?」
「付け加えますと、学生には、『内定承諾書にサインをするならば内定を出す』と言っていました。これも、辞退率を減らす工夫です。オワハラですけど・・・」
「はあ?なんだいそれは。一体新卒採用チームはどこを向いて仕事をしているんだ。念のため聞くけど、今年も俺の知らないところでオワハラはやったのか?」
「やっていませんよ。私はオワハラには反対ですから。でも正直なところ辞退率は心配です。やはり部長や社長は辞退率を気にしますよね?」
このような数字の捜査はどの会社でも起こりうる現象である。決して特異なケースではない。つづく・・・

今日は山形に来ています。山形は33度で晴れ。風があり、東京よりも少しだけ涼しいです。
次回も、新卒採用チームの議論にご期待ください。。

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