リアル人事小説:部下を持つ 12
予定されていた面接開始時刻になり、東口の挨拶も早々に、いきなり2対10の面接が開始された。
山田は、横浜支社長との事前の打ち合わせ通りに、交互に全員に対して質問した。しかし1つの質問に対し10名が回答する形式では、回答していない学生の待ち時間が長い。用意された「学生生活で力を入れたことや思い出について」という意図不明な質問に対しては、学生たちも用意してきた回答を語った。
部活動やサークル、アルバイトについて語る者、幼少期からから現在までを遡る者、母親への感謝の想いを語りながら思わず涙する学生もいた。これでは、どの学生がうちに相応しいのか見えない。そればかりか、面接の運営という観点からも、全員に順番が回ってくる前に時間切れとなってしまう。山田は、本来であれば目の前の回答者に注力すべきことは理解しているが、どうしても回答者以外の9名に目が行ってしまった。特に回答直後の学生ではなく、間の空いた学生に目が行く。彼らからは、この面接形式は不効率だよな~、早く終わりにしたいな~といった心の声が発せられているようだった。
2つ目の質問が終わるころ、時間にして30分経過のタイミングで、山田はこの空気感に堪えられず、思わず全員に向かって面接のスタイルを変えることを宣言した。
「えーっと、ちょっといいですか、みなさん。答えてくれているかたは一生懸命ですが、それ以外のかたは暇ですよね。ごめんなさいね。こんな面接の形式では眠くなっちゃいますよね。面接の形式を変えます。ここからは、まず10名のみなさんに1つずつ質問をしてもらいます。いいですか、1つですよ。質問は今から配る紙に書いてください。できるだけ端的に書いてください。1分で書いてください。書き終わったら回収します」
東口と横浜支社長は、山田の突然の方針変更を黙って見ているだけだった。気を利かせた伊丹が、あわててA4用紙を配り始める。学生も山田の発言が、東口や横浜支社長との打ち合わせなく独断だったことを察知し、この流れに身を任せた。そして、この場では、遠慮のない質問が歓迎されることを感じ取った一部の学生に引っ張られ、残された面接時間で6名程度の学生の個性を判断できるところまで持っていくことができた。