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アイタ君の一物と右折


原付で運転している時、基本的に右折はしない。「しない」というよりも「できない」という表現の方が正しい。右折ができない理由として右車線を走る車の存在や追い抜きをしてくる車の存在に怯え、そもそも右折レーンに行くことが出来ないから右折がかなわない。

原付は法定速度ギリギリの30㎏しか出せないわけで、四輪の方々から見れば非常にのろのろと走っている鬱陶しい存在こと原付。だから原付を運転している時は「どうぞ抜かしてください」と言わんばかりに左の車線の縁ギリギリを走行している。横浜とか東京の大都市を走っている時は特に問題はないものの、田舎の道路全体がガタガタしてることが多く、たまに車線の左端を走っているとシンプルに、浮く。右からの追い抜きを警戒しつつ時たま浮遊していると、緊張からか気が付いたら歯を食いしばっている。なので最近顎が痛い。


実は今年の2月に取ってほやほやの免許。東京で10年くらい働く予定だから運転あんましないんだろうな~、と漠然と思っていたから大学4年生の2月まで教習所に通ってなかった。でも入社前に一応取っておくかと思い直し、3週間弱の予定がみちみちに詰まったコースを予約した。ちなみに仮免試験前日に「お前の名前が卒業予定リストに載っていないぞ」とゼミの先生から通達を受け、人って本当に恐ろしいことや予想だにしないことが起きたときに手とか体が自然に震えだすことを知った。試験自体は普通に受かった。

教習所でS字クランクやら縦列駐車といった実技の試験や、「駐車してはいけない場所」「標識のルール」などなどの暗記が多い学科の内容に案外てこずる。そうすると誰もが当たり前に運転しているという事実に結構驚いたりするものだ。友達が片手だけで難なく駐車する様なんかを見たときにはもう助手席でウットリした目をしているに違いない。自分のことながら気色悪いが。

学科の内容の中で特に「原付と自動車の運転ルールの違い」が最後まで理解しにくかった。30㎞と60㎞の法定速度の違いなんかは理解できる。でも、バス専用道路で原付は運転してもよいうんたらかんたら、右側部分にはみ出し追い越し禁止でも原付は追い越してうんたらかんたら…。原付だけに許された例外だったり、原付にだけ対して行っても良い行為だったりと、「でも」や「しかし」の部分が多くてこんがらがることこの上ないことありゃしなかった。

そして実技でも「ここは右はみ(右側部分にはみ出し追い越し禁止の略)でもOKだよ」とか「右はみだから気をつけて」等々言われすぎて、「右はみ」「右はみ」うっせえよとタイヤより先に心がパンクした。「右はみ」の言葉を聞くたびに運転席から逃げ出したくなった。


ある日、今日も今日とて運転を注意されハンドルを握りながら現実逃避にいそしんでいる時に ”『右はみ』ってどこかで聞いたことあるな” とふと思った。ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていたが、最近ようやく思い出した。


高校時代に仲が良かった友人のひとりにアイタ君がいた。彼は身長は180㎝を超えて手足はスラっと長く、端正な顔立ちをしていた。しかし性格が少し残念なところがあり、全然とまではいかなくてもそこそこ女子にモテなかった。イケメンなのにモテないというとこに謎の親近感を覚えたと同時に、彼の生粋の人懐っこい性格に気が付くと心を開いていた。高校3年間同じクラスだったこともあり、楽しい高校生活を過ごせたのも彼の存在が大きい。

だいぶ下世話だが、大きいと言えば彼は一物も大きかった。「アイタの一物馬の如し」と学校の一部で噂された彼の一物は、二年生の修学旅行で確認したところ高校生とは思えないくらい立派だった。クラス男子内では尊敬の意を込めて「馬チンのアイタ」と呼び、三目くらい置かれる存在となった。

そして彼の一物は、そのまっすぐな性格とは裏腹に大きく大きく右に逸れていた。性根が曲がっている僕のブツはわき目も降らずに一直線に伸びていることから、もしかしたら性格のまっすぐさと一物の向きは反比例しているのかもしれない。人生本当にやることがなくなったら検討してみたい。

話しが逸れた。男子は往々にして「チンポジ*¹」を直す生き物で、チンポジの乱れは心の乱れを表している。アイタの一物はその反骨精神からか、よく彼の学ランの右側にふてぶてしく陣取っていた。


「アイタ、右はみしてるよ」

そう指摘すると、少し恥ずかしそうに笑いながらいそいそとチンポジを直す姿がまるで昨日のことのように思い浮かぶ。


聞いたところによると彼は今小学校の先生をしているらしい。老若男女に好かれる彼にはぴったりな職業だと心から思う。


あいつ元気にしてるかな

学校の先生って忙しいから身体壊してないといいけどな


そう思いながら今日も左のウィンカーを点ける。



*¹チン〇・ポジショニングの略、適切な位置に収められていないと少し不安な気持ちになる。

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