Designing Games to Teach Ethics Peter Lloyd Ibo van de Poel
https://www.researchgate.net/publication/5301972_Designing_Games_to_Teach_Ethics
Article in Science and Engineering Ethics · July 2008
デルフト工科大学の研究者による論文
自分の研究テーマにとって非常に重要な論文。できるだけ詳細に記述してみたい。
Abstract
This paper describes a teaching methodology whereby students can gain practical experience of ethical decision-making in the engineering design process.
この論文は、エンジニアリングデザインにおいて倫理的判断を実際に経験できるような教育手法について論じたもので、
We first argue for the necessity to teach a ‘practical’ understanding of ethical issues in engineering education along with the usual theoretical or hypothetical approaches.
最初に、工学教育において理論や仮説とともに倫理的問題について実践的な理解も必要だということを論じる。
We then show how this practical understanding can be achieved by using a
collaborative design game, describing how, for example, the concept of responsibility can be explored from this practical basis.次に、「collaborative design game」「共同でゲームをデザインする手法」を用いることで、実践的な理解がどのように達成されていくのかを「責任の概念」が探求されていく例を用いながら示す
We conclude that the use of games in design education can provide an excellent basis for discussing practical and ethical reasoning during the process of design.
デザイン教育にいおいてゲームを使用することで、実践的・倫理的な推論・議論においてとても重要な経験・礎を提供することができると結論付ける。
目次
Design Education and Ethics
Introduction
Practical Action Combined with Theoretical Reflection
Use of Games and Simulations in Educational Contexts
What Games Can Do
Design Games
The Development of a Design Game to Teach the Concept of Responsibility
The Course Context
Delta Design
Adding an Explicit Ethical Dimension to Delta Design
Game Play
Overview
The Playing Process
The Ethical Scenario
The Concept of Responsibility
Discussion
Conclusions
Design Education and Ethics
この論文は、工学教育のうち、デザインや建築の教育に焦点を当てているのだが、デザインや建築は「aim to make peoples lives qualitatively better」人の生活をよりよいものにすることが目的なのだから、倫理的に考えるということは、「デザイン」という行為に既に含まれているという議論が成り立つようである。それゆえ、倫理学者がデザインや建築から学べることもがあるし、デザインや建築をすることそのものに倫理的な判断や推論が内在しているのであれば、大学で倫理系科目を必修にすることは"odd"変だというわけである。
しかし、その後の論旨展開として3つのポイントを挙げて、倫理教育の必要性を論じている。1つ目はより複雑・学際的なデザインプロセスにおいては直感的な判断だけでなく判断の明示や議論が必要になる。2つ目は、デザインは人の生活をより良いものにするという狭い・結果論的な前提は正しいのか、3つ目は、作られた製品や建築物は独立して存在するのではなく、持続可能性や消費といったより広範な文化的・倫理的文脈の中に位置づけられる。デザイナーはこうした議論の中心にいるべきだし、何をしているのか、なぜそれをするのかを明確にしなければならないというのである。
むしろ実践を重視するデザイン教育の性質は、倫理問題を解決するための実践的な知識の習得(Knowing-in-action)においてモデルになり得ると論じている。そして、技術者倫理教育の現状について「倫理の理論や倫理綱領を教えられ、それをもとに倫理的ケースについて議論するが、これらはすべて実践に基づく倫理的状況から一歩離れたところで行われている」として課題を述べる。
Use of Games and Simulations in Educational Contexts
この点、ゲームは競争的な環境(rule-bound, often social and competitive environments)の中で、実践的な知識を用いる機会を提供する。
Games can provide a way of developing skills such as negotiation, rhetoric, strategy formulation, presentation of evidence and theory, as well as providing direct experience for later reflection.
ゲームはネゴシエーションやレトリック、戦略、根拠と理論の明示といったスキルを成長させる機会も提供するだけでなく、振り返りの機会も提供できるとしてその有効性を主張する。
そしてビジネスゲームとデザインゲームの二つに分けて先行研究を踏まえて論じている。そしてデザインゲームのところで、この論文でケースとして用いられているデルタデザインについて触れている。
アイデアの創設と議論をベースにしたもので、面白そうである。いつか授業でやってみたい。
The Development of a Design Game to Teach the Concept of Responsibility
Game Play
そして、この研究では、「責任」の概念をよりよく学ぶためにデルタデザインのゲームを採用し、そのゲームに追加・修正を加えて学生たちにプレイさせている。デルタデザインというゲームは、ある惑星で、制約条件のもとで病院を創るというゲームなのであるが、ゲーム終了後に「設計した建物の建設から数年後、重力波によって建物が破壊され、人命が失われたと告げられる」というのである。(これをthe ethical versionと呼んでいる。)
受講生は、この原因や対処をグループで考え、誰が、どのような責任を負うのか等について議論をしながら、「責任という概念the Concept of Responsibility」について理解を深めていくのである。
ゲーム中の様子や学生の議論の様子は観察ベースで詳細に説明している。議論の変化の様子も捉えている。整理の仕方が上手であるし、自分も過去に、どのようにして授業の様子を論文としてまとめるか、苦労した経験もあるので、とても勉強になる。
他方で、このゲームを日本の教育機関で実施する際の困難さも予想される。特に、授業で「死」を取り扱うにあたって、様々な反応が予想される。受講生のケアが必要になるだろう。
他方で、工学倫理の重要な側面は、一つの技術開発やミス・誤りが場合によっては何千、何万の命を奪うことになりかねないという厳然たる事実である。その事実を無視して教育用に適当に「和らげた」教材にしたとて、その効果は薄い。その意味で刺激は強いが、もしかしたらそのままに伝えた方がよいのかもしれない。(続く)
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