バーチャルろくろを体験して思い出したある窯元の社長の話
最近、バーチャルろくろというテクノロジーに触れさせていただく機会を得ました。
バーチャルろくろについて
以前からバーチャルろくろに関われている矢島 愛子さんにお会いしたいと思っていて、ついに実現しました。
バーチャルろくろは東信伍さんによって開発されたシステムで、誰でも陶芸の作陶が可能で、さらに早ければ数秒で形を決定することができます。
東信伍さん
そしてバーチャルろくろの体験だけではなく、陶器の焼きが体験できる僕がオーナーを務めるKURA COCOLONOとのコラボレーションも実現しました。
今回コラボレーションさせていただいた作品は、バーチャルろくろを使って陶器を作られている坂爪康太郎さんの作品を移動可能な陶芸窯で焼かせていただきました。
人間には作り出せない形の作品もあって、さらに最高の焼き上がりとなり、素晴らしいコラボレーションとなりました。
このコラボレーションの意義についてはまたnoteでまとめたいと思います。
今回は僕がバーチャルろくろを実際に体験してみた時に思い出した、ある陶芸の窯元の社長さんのお話をさせていただこうと思います。
このお話は「テクノロジーは人間の仕事を奪うのか、仕事を生み出すのか」という問いに繋がります。
陶芸の産地で出会った社長さん
KURA COCOLONOにある移動可能な陶芸窯はもともと滋賀県の信楽焼の産地にあった陶芸焼成用の窯です。
それを僕と文五郎窯さんでさらに進化させ、一般向けにワークショップを開催するなどし、LEXUS DESIGN AWARDでも賞を受賞しました。
僕が何度も信楽焼の産地に足を運んでいたある日、ある窯元の社長さんを紹介していただきました。
その方は1人で陶器を作り、家族を養っていました。そしてその社長さんから衝撃的な事実を教えられました。
「竹鼻くん、100円均一の陶器を下請けで作ったら、納品して僕はいくらもらえると思う?1個5銭だよ。2個作ってやっと1円。」
「あとね、僕の作業場はめちゃくちゃ広い。なんでかってバブルの時は作れば売れたから、従業員さんもたくさんいた。でも今は売れないから僕1人。場所だけが無駄に広いんだよ。」
その方が月に30万円稼ごうとしたら、月に60万個の陶器を作ることを意味します。当たり前に1人では無理なので、別の仕事を併用しながら100円均一の陶器を作っているとは思いますが、陶芸の世界は本当に厳しい状況に置かれています。
先日、バーチャルろくろに出会った時に、この社長さんのことが頭をよぎりました。
もし、バーチャルろくろが世間に普及し、全てではないにせよ陶器を買うよりも作ることにシフトすることができれば、個人間でビジネスができるCtoCで仕事をすることができるのです。
誰かが作ったデータが送られてきて、陶器のデータを3Dプリンターで出力し、素焼きして、本焼きしてお客様にお送りする。
例えばこの陶器を1000円にしただけでも100円均一の陶器を作るよりも1個につき2000倍の収入が得られるのです。
反対に100円均一など安価で陶器を供給する仕事は奪われる可能性があります。でも現在日本だけでも年間15万tもの陶磁器が破棄されていると言われています。
さらに実は陶器を作るための土が日本から枯渇しているという事実もあります。実は海外からの輸入土を使っている産地もあるのです。それだけ今もなお陶器の大量生産が止まらないのです。
であれば、バーチャルろくろによって「作りすぎずに仕事を生む」方が人にも環境にもいいのではないかと考えました。
まだまだ3Dプリンターの開発が追いついていないなどの問題はありますが、可能性を感じています。
僕の活動でもある「陶器の焼き直し」も「作るでもなく、破棄するでもなく、アップサイクルする」という思いからスタートしました。
バーチャルろくろを見た人からは「職人の仕事を奪うのではないか」という声も実際に聞きました。
でも、陶芸作家さんの作品は「作品」や「作家さんの人間性」に魅了されて購入している場合が多く、そこへの影響は少ない気がしています。むしろ「ブランド価値」を構築しておく必要性は、陶芸の世界だけではなく、どの分野であっても必要だと思っています。
テクノロジーは本当に仕事を奪うのか、それとも仕事を生み出すのか。
この問いには、しっかりと社会の現実と現状を知った上で、しっかりと議論しなければ、ただ恐怖だけが先行して、社会をよくする可能性のある技術に蓋をしてしまうのではないかと感じています。
ちなみに...
note非公式バーチャルろくろ部というめちゃくちゃ尖った部が密かに開催されています(笑)
ご興味のある方はご一報ください。
竹鼻良文/TAKEHANAKE代表
TAKEHANAKE design studio HP
TAKEHANAKE BRAND