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鹿島アントラーズ 2025シーズンプレビュー
絶対目標であるリーグ優勝のために
目指すは勝点80
鬼木達新監督を迎えることとなった、2025シーズンの鹿島アントラーズ。タイトル獲得、特にリーグ戦優勝を絶対目標とするシーズンに臨むことになる。
この目標自体は筆者個人が言っているものではなく、クラブとして公式に発信しているものであるが、現状を見るに現実的な目標だと言える。補強については欲を言えばキリがないが、昨季層が薄かったポジションに即戦力を加えることに成功し、2チーム分とも言えるくらいの戦力を手にすることができた。また、昨季の上位陣、特に神戸と広島は1年を通じてACLとの両立を迫られるのに対し、鹿島はそうした枷がないのも事実。優勝するチャンスは十分にあると言っていいだろう。
では、優勝するにはどうしたらいいかを考えていきたい。昨季に続き20チームで行われる今季のJ1リーグ。昨季は優勝争いのラインが低く、優勝した神戸の勝点ですら72と、1試合平均の獲得勝点が2を下回る状況だったが、優勝を狙うならこれより上の勝点獲得を目指すべきだろう。同じ20チームで行われた2021シーズンに川崎Fが記録した勝点92はあまりに頭抜けていることも考えれば、現実的には優勝を目指すなら勝点80あたりが現実的なラインとなるはずだ。
勝点80を目指すためには1試合あたり2.1の獲得勝点が必要になってくる。となると、とりあえず1試合平均の獲得勝点が2になるように戦っていきましょう、というのがまず最初の目標になる。これを細分化していくと、5試合を1つのクールとして分割していくならば、5試合で勝点10というのがまず目標達成の一個の基準となってくる。昨季のポポヴィッチ体制では6月頃まではそこにわずかに足りないペースで勝点を積めていたのだが、そこから夏場に急ブレーキ。結局、その足踏みが優勝戦線脱落の一因となってしまっただけに、今季はチーム状態が決して良くない時でもなんとかこのペースを守って勝点を積み上げていきたい。
いち早く最適解を見つけたい
ただ、折り込み済みとはいえ、現時点でのチームの完成度は鬼木監督が「40〜50%くらい」と語るように、決して高いものではない。中長期的な技術改善に取り組んでいることや、主力とサブの分け目をそこまでハッキリさせていないこともあり、開幕前の完成度で比べるならポポヴィッチ体制の昨季の方がよっぽど高かった。この完成度の積み上げ状態は少なからず序盤戦の結果に響いてくる可能性がある。そういう意味では多少の我慢が必要かもしれない。
ただ、日程面を考えるとできればスタートダッシュを決めておきたいのも事実だ。3月の代表ウィーク前に6試合を消化するなど今季は序盤から早いペースで試合を消化していき、5月までにはリーグ戦の半分が終わってしまう。我慢を許容する姿勢も必要だが、あまりに後半戦の巻き返しに全振りしていると、巻き返す前に目標達成には致命傷となる差が広がっている状態になりかねない。
また、序盤戦のカードを見ると尚更だ。鹿島の開幕5試合の対戦相手を見ると湘南、東京V、新潟、FC東京、柏と昨季順位が鹿島より下のチームであり、かつ予算規模で見ても鹿島の方が上回っているチームの対戦が続く。しかも、東京V戦からは昨季無敗を誇ったホームでの3連戦だ。つまり、常道で言えば確実に勝点を積み上げなければならない試合が続くことになる。
さらに、その開幕5試合を終えると、そこから浦和、神戸、広島と昨季の上位勢または資金力で上回られるクラブとの対戦が待っている。この3連戦の前にある程度の手応えを掴んでおかないと、力負けする可能性は避けられないだろうし、そうなるとリーグ優勝にはさらに厳しい状況に追い込まれてしまう。裏を返せば、開幕の5試合で理想を追い求めながらも、ある程度現状の最適解を導き出しておきたい。新たなスタイル構築と、勝点を取りにいくためのリアリスティックな戦いとの折り合いを鬼木監督がどのようにつけていくのか。序盤戦の注目ポイントはそこになるだろう。
オンザピッチでの3つの注目ポイント
今季のチームスタイルについてはこちらも
「2+1」の「+1」をどうする?
では、リーグ優勝するためには、勝つためには何が必要なのか。そこをオンザピッチの部分で考えていきたい。まずはボール保持の部分。鬼木体制になり、鹿島はチームとしてより試合の主導権を握ること、そこに確実性を持つことの意識付けが強まっている。そのためには、ボールを保持することも必要になってくるよね、ってことで、鹿島は決してボール保持に強いこだわりを持つわけではないが、昨季よりボールを持とうとする姿勢は確実に強くなっている。
鬼木体制でのボール保持は「2+1」の形で行われることが多い。この「2」というのはセンターバックの2人を指しており、彼らが組み立ての軸であることは間違いない。次に「+1」というのはそこにサポートに入る人間を指しており、ここは状況によってキーパーが担ったり、サイドバックが担ったり、ボランチが担ったりと変化する。この「+1」が入るのは数的優位を作り出すため。センターバックだけで数的優位が作り出せるならサポートの必要性はないが、そうでないケースは多々あるために(センターバックのキャラクター的に、独力でボールを運べないというのもある)、彼らの力を借りながらボールを繋いで前進させていくことを狙っているというわけである。
大事なのはこの「+1」に誰が入るのかということ。キーパーを入れられれば他のフィールドプレイヤーを前に置くことができるが、キーパーにはプレーエリアとリスクのバランスが難しい(もっと言えば、鬼木体制ではキーパーでそこまで大きなリスクを冒すことを望んでいない)。ということは、残りはサイドバックかボランチになる。現状、一番スムーズにいくのは左サイドバックの安西幸輝を入れる形。昨季のポポヴィッチ体制から継続できるポイントであり、サイドのプレッシャーが限られたところでボールを引き出し、そこから縦につけることもできれば、逆サイドに展開もできる。万が一寄せられても、彼のドリブル能力で剥がして、ボールを持ち運べる。PSM水戸戦でも彼が最後尾にいた時が一番スムーズにボールを動かせていた。
ただ、安西を後ろに置くことはデメリットも背負うことになる。それは前方の左サイドハーフとの距離が空いてしまうこと。距離が空けばパスは通しづらくなってしまうし、現状の左サイドハーフの面々は田川亨介やチャヴリッチ、師岡柊生といった前への推進力を武器とするプレーヤーが多いだけに、彼らに低い位置まで下がってボールを受けさせるのは、あまり好ましくない。そうなると、最前線の鈴木優磨が下がって受けざるを得ず、昨季と同様に彼の負担が増してしまうことになる。
鬼木監督の理想としては、どうやらボランチの一枠にこの「+1」の役を引き受けて欲しいと考えていそうだ。柴崎岳や樋口雄太といったプレーメーカータイプの選手を必ずボランチに入れているのも、そことの繋がりがあるはず。彼らにボール保持のサポートと交通整理を託し、そこからボールを前進させていく。そうした方がチームのバランスとしても大きく崩す必要がないし、安西を一列高い位置に置くことで、彼のドリブルやサポートをより高い位置、チャンスメイクしやすい位置で活かすことができる。鬼木監督としても、安西には最後尾の一列前に置いて、最後尾からのパスを受けてそこから前へと運んでいく役割を担ってほしいと考えているのではないだろうか。
ただ、ボランチの方が中央に位置する分だけ相手からのプレッシャーを食らいやすく、また柴崎や樋口は出し手としては優れた能力を持っているが、最後尾からのボール保持における交通整理について、決してそこまで得意なわけではない。知念慶に関してはもっとそれが言える。チームのバランスを考えるともっとベストな形があるが、チームの現状を考えると一番ベターな形は別にある。そのジレンマにどう折り合いをつけるのかは、鬼木体制下での一つのテーマになるだろう。
前がかりの収支をプラスにしたい
今季の鹿島は昨年に比べ、かなりタックルラインを高く設定しようとしているし、より高い位置でボールを奪うことを試みている。相手の横パスやバックパスをスイッチにしてプレッシングを仕掛ける回数も多く、特に相手のリスタート時には4-2-4のようなかなり前がかりの形で守備をセットすることも少なくない。
ただ、その収支がプラスに出ているかどうかは現状怪しいところ。狙い通りにボールが奪えているシーンもあれば、相手にプレスを剥がされて前進を許すシーンもある。そのデメリットを最も被っているのがボランチのポジション。昨季はある程度ソリッドに守備陣形を整えていたことで、ボール奪取エリアが定まっていたために、知念慶や佐野海舟がボールハントにおいて無双することができていたが、今季のエリアは昨季のそれよりずっと広く、狙いすまして出ていくというよりは、前で獲りきれなかったツケを彼らが背負う形になっている。このままだと、ボランチのボール奪取力を活かしきれないシーンも今後は目立ってしまうリスクを抱えていると言っていいだろう。
また、最終ラインとの距離感によるデメリットも気になるところ。例えば、長いボールを相手に蹴られた時にそこはセンターバックを中心にはね返していくことになるのだが、そのはね返したセカンドボールを拾えないことで相手に二次攻撃を許してしまうケースが水戸戦では目立っていた。これは前線が前がかりになる分だけ、後ろとの距離が開いてしまい、最終ラインがクリアしたボールが前線まで届いておらず、なおかつプレスバックも間に合わずに、ボランチも拾いきれないが故に起こっている現象である。
鹿島の最終ラインははね返す力では確かにリーグでもトップクラスだ。だが、いくらトップクラスとはいえ間延びした陣形をカバーできるほどのパワーを常に発揮できるわけではない。裏を取られるリスクを背負ってラインをさらに上げていくのか、それとも前がかりの度合いを下げるのか。どちらにせよ、この部分での収支をプラスにしておかないと、狙い通りに主導権を握っていくのは難しいだろう。
個性と距離感
水戸戦で最も気になったのが、ボールを失った後の振る舞いだ。より試合の主導権を握るために、今季の鹿島はボールを失った後の即時奪回を狙っており、そのための振る舞いをしているが、それが機能する場面が水戸戦ではあまりに少なかったのだ。
原因となっているのが、個々の距離感が必要以上に開いてしまっていることだろう。ボールを失う→ボールの近辺に奪い返しにいける選手がいない→狙いに従って後ろの選手たちが飛び込んでくる→それをかわされてボールを運ばれる、というシーンが水戸戦では多く見られてしまった。
じゃあ、距離感を縮めればいいじゃん!となるのだが、そう簡単な話ではない。距離感が開いてしまっているのには個々の良さを活かそうとする狙いがあったが故の現象なのだ。たとえば、右サイドなら高い位置を取り、時としてストライカーのように振る舞う濃野公人や中央より位置してボールに多く触れながら攻撃の局面を変えることを狙う荒木遼太郎の良さを活かすために、一見すると歪な形を許容している部分があるし、左サイドでも組み立てで低い位置に絡む安西や自由にポジションを動かす鈴木、裏を狙っていく田川やチャヴリッチの個々の良さを活かそうとしている側面がある。
個人的に、鬼木サッカーが機能するか否かは、ボールをいかに失わないかということよりも、ボールをいかに能動的に奪えるかにかかってくると思っている。そこの仕組みを機能させることができれば、鬼木監督が率いてJリーグの覇権を握っていた3〜4年前の川崎Fのようにリーグで圧倒的に殴り勝つ存在になれるはずだからだ。そのために、ボールを失った後にすぐに奪い返せる状態の整備は必要不可欠。攻撃で相手を崩すために個々の良さを活かすのはもちろん必要な中で、そことどうバランスをとっていくのかが注目である。
新たな鹿島のスタイルとは何なのか
今季の鹿島は強化責任者が中田浩二FDに変わって(事実上)初のシーズンともなる。鬼木監督を迎え入れ、新たな体制で結果はもちろんのこと、新たな鹿島のスタイルを作っていくはじまりの年にしていかなければならない。
だが、その新たな鹿島のスタイルが何なのか?という問いに対して、今のところ具体的な答えは返ってきていない。鬼木監督としては「鹿島らしさ」の再定義を進めているし、中田FDとしても「鹿島が今まで築いてきたものに加えて、もう少し攻撃的に、自分たちで主導権を持って戦えるような形」という発信に加え、ジーコクラブアドバイザーによる関与を強めることや鬼木体制を中長期続けていくことを示唆するなど、方向性を拾っていけるヒントは徐々に見えてきているが、肝心かなめの新たな鹿島はどんなサッカーをやりたいのか、という部分に具体性はあまり見えてきていない。
中田FDの言う、ある程度我慢を覚悟しながら、変えた物をどれだけ積み上げられたか、結果どうなったかの検証が必要、というのは最もだ。それを結果とは別軸に今季は評価軸として置く必要がある。そうでなければ、短期的な結果でのみ評価して、大した積み上げもないまま監督交代を繰り返したここ数年と何も変わらないことになってしまう。
ただ、そこの評価軸についての発信がないのは、今季ここまででずっと気になっていることである。要はどこまでが鬼木さんのオリジナルによるエッセンスとして置くものであって、どこからがクラブとして恒久的に残していくものなのか、どこにクラブとしてのこだわりを強く持っているのか、その線引きがハッキリしていないのだ。たしかに、評価軸を発信していくことが一般的に大きなメリットがあるとはそこまで思っていない。評価軸がハッキリすれば目の前の現状と比較しやすくなる分だけ、評価や進捗についてはよりシビアになってくるからだ。言わずにぼかしておいた方が得、だというのはある。
それでも、サポーターをはじめとしたステークホルダーに向けて、ここ数年との違いを示し、時として我慢の共有を求めていくとするならば、そこを共有していくのは必要な作業ではないか、と個人的に思っている。プロセスの共有をしないままに我慢を求めて、それを受け入れてもらうというのは決して優しいやり方ではない。結果が出ないことだけで判断して欲しくないのなら、それ相応の振る舞いを期待したいところだ。
今季の鹿島について、個人的には結果が出る出ないと同じくらい、この新たな鹿島のスタイルというのが何なのかというところに注目している。ここが上手くいけば、中長期で強いチームに鹿島がなってくれることに期待が持てるし、そうでなければ鬼木監督の間は上手くいっても、次の監督に引き継がれた時にその文化が破綻してしまうリスクに怯えなければならない。それではこれまで負った痛みは何の意味もなさなくなってしまう。上手くことが運ぶのはもちろん、そこまでの仕組みをどこまで作れるかにも期待したい。
2025シーズンは、結果と哲学、この両方の側面で追っていくシーズンになるだろう。
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