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中後アントラーズについて


10/19 福岡戦スタメン
11/1 川崎F戦スタメン
11/9 名古屋戦スタメン
11/17 京都戦スタメン

中後さんに求められたこと

ポポヴィッチの解任に伴って、コーチから昇格して指揮を執ることになった中後さん。リーグ戦残り6試合、トップチームの監督初挑戦、指揮は一旦今季限り。これらの状況の中で、中後さんに求められたのは以下の3つであると考えている。

一つでも上の順位、目標達成

これはシンプルで、言うなればチームとしての結果を出してください、ということだ。ポポヴィッチが解任された時点でチームは4位に位置しており、厳しいながらも優勝の可能性が残っていたし、ACLE出場権の獲得については十分に可能性があった。チームとして一番フォーカスしやすい目標であり、一番成果として示しやすい目標が目の前にあるのだから、そこを目指さない道理はない。なので、中後さんにはまずシンプルに目の前の試合に勝てるチームに持っていくことが求められた。

コアメンバーとの壁を壊す

ポポヴィッチ体制では主力が完全に固定されており、彼らにアクシデントがないと彼ら以外のメンバーにはチャンスが訪れなかったし、その中でもポポヴィッチはコアメンバーをなるべく引っ張ることを選択していた。それがあったからこそ解任時点でも上位に位置していたとも言えるのだが、それが故に出場機会の限られた選手たちにとっては面白くない環境になっており、来季の選手編成に影響が出る可能性が高かったことも、ポポヴィッチ解任の一因ともされている。

クラブとしてはそれを避けるためにも監督交代を決断したのだから、中後さんには勝利を求めつつも、その中で彼らをなるべく起用してほしいという思いがあったに違いない。ケガ人も増えてきているので一概にそれだけとは言えないが、舩橋や津久井の出場機会が増えてきているのはその思いに応えたが故なのだろう。

中後さんにとっても、戦績が極端に悪いわけではなかったポポヴィッチの後釜として監督に就く難しさがあるうえに、監督初挑戦という状況の中で何かしら自分が監督になったが故に起こる変化を見せる必要があった。それを踏まえると、舩橋や津久井にチャンスを与えるというのは、ちょうどよくわかりやすいものだったと言える。もちろん、目の前の現実的な目標を追い求める、今のスタイルを大きくは変えない、という中だと、決して悪いパフォーマンスではなかった元々のコアメンバーは変えづらい側面がある。ユースやユースOBを助っ人で呼んででも、練習試合の数を増やしたのはその側面の中でも、これまでチャンスの限られた面々にプレー機会を与えるということで、彼らに対して「見ているよ」というメッセージを伝えようとする中後さん、並びに強化部としての思惑があるのだと受け取れる。

来季に向けて繋がるものを残す

目の前の試合に勝つ、チャンスが限られた面々をなるべく起用する。これらに比べると優先度は下がるものの、中後さんに求められていたもう一つの要素がこれだ。

ポポヴィッチを解任して、新たな強化部体制で始まった時点ですでに来季に向けての動きはスタートしていたのだろう。その中で、誰を監督に据えて、どんなスタイルを目指したいのか、その大枠は定まっていたのだと思う。

そのために必要な要素は少しでもチームにあらかじめ備わっていた方が良いのは間違いない。そのための下準備もできれば中後さんにしてもらいたい。そうした思いを中後さんは少なからず受け取っていたと思っている。

中後さんの取り組み

監督に就任してからの中後さんの取り組みは、大きく就任初戦の福岡戦までとそれから先の今に至るまでの2つにフェーズが分けられると思っている。

福岡戦まで

就任直後の中後さんはいわゆる理想を追い求めたフェーズだったと思っている。具体的にどんな部分がと言うと、どうやって崩して点を取りにいくのかという部分がかなりしっかりイメージされていた、という部分である。

攻撃で狙っていたのは「生まれたスペースを確実に使っていくこと」だ。ポポヴィッチの時も同じようなイメージはあったのだが、ポポヴィッチがよりダイレクトによりシンプルに縦に突いていくことを目指していたことを考えると、中後さんはよりクリーンにより確実にボールを運ぶことを求めていた。アバウトなロングボールを蹴ることを否定はしないけども、それよりも近くに空いている味方がいるならそこにパスを通して、ボールを運んでいきましょう、という感じだ。

また、どういった形でフィニッシュを狙うのか、という部分も設計に意図が感じられた。カギとなるのは鈴木優磨のサイドでの起用だろう。フィジカルにもテクニックにも優れ、フィニッシャーとして優秀な彼をサイドに置くというのは、そこにボールを運んでシュートを打たせたいという思惑からだろう。中央の方がゴールに近いエリアでプレーできるが、相手からの警戒は厳しくなる。その点サイドだと、ゴールからは遠ざかってしまうが、相手からの警戒度も合わせて下がってくる。そうした位置にフィニッシャーとしての能力が高く、フィジカル的にも優れた面々を送り込み、シュートを打たせる。具体的にはサイドから押し込んだところで、ペナ角からのアーリー気味のクロスで大外を狙う、とかだろうか。そうしたフィニッシュを狙いたくて、優磨のような選手をサイドに置いておいたように見えた。

ただ、福岡戦ではその成果は上手く出すことができなかった。もっと言えば、その前週の栃木との練習試合でも、理想的な形を作り出せていたとは言い難かった。理由としては、やりたいことを発揮する状況に持っていけなかったからだろう。スペースを確実に使ってボールを運ぶにはある程度クリーンに組み立てを成功させてボールを前進させる必要があるし、サイドにフィニッシャーを置くなら彼らをフィニッシャーとして活かせる状況に持っていく必要がある。

だが、今の鹿島は組み立てでそこまで安定してボールを運べるチームではない、というのが前述した狙いを実現する上では大きな足枷になってしまっている。クリーンにボールを運べないので、陣形を予定より大きく崩しながらボールを運んでおり、スペースを有効に使おうにもそのスペースに入り込める存在がいなかったり、またロングボールを使って前線の選手のポストプレーに頼る部分が多いので、優磨みたいな選手をサイドで使ってフィニッシュに持って行こうにも、その前の攻撃の押し上げやチャンスメイクでパワーを使わせてしまい、肝心のフィニッシュシーンにはいない、という現象が発生してしまったのだ。

本筋とは関係ないが、中後さんは監督就任初戦の福岡戦だけNewYorkerのポロシャツ着用で、後の試合は全てチームジャージで試合に臨んでいる

川崎F戦以降

そうした感じでチャンスを多く作ることもできずに消化不良な形で終えてしまった福岡戦を受けて、中後さんは方針をより現実的なものに転換していく。おそらく、来季に繋がることや理想を追い求めるよりも、目の前の勝利や目標達成を追い求めることの方が優先度が高かったのだろうし、効果的だろうと判断したのだろう。

具体的にはアバウトなボールを許容するようになったし、布陣も4-4-2をベースにしたものに回帰した。戦い方としては、ソリッドな方向性を目指し、ミドルブロックで構えつつ、ボールを保持したら手数をかけずに前線へとボールを渡し、前線4枚は積極的にポジションチェンジしながら速攻でゴールを狙う。ネガトラは即時奪回を狙い、カウンターは人数を掛けてゴール前に飛び込んでいく。シンプルに言えば、堅守速攻をベースに戦うようになったと言えばいいだろうか。

これは現状の鹿島が目の前の勝点を掴みにいくには一番可能性の高い戦い方だからと言えるだろうし、なおかつ鹿島アントラーズというチームが一番戦い慣れているからとも言える。鹿島が30年以上のJリーグの歴史の中でずっと4-4-2をベースにしてきたのは、4-4-2という布陣がピッチに最もバランス良く人材を配置できる布陣だからという面が大きいし、各ポジションには代々個人戦術のスキルや強度の高さで戦える選手が揃っていたこともあり、彼らに極端な負担をかけることなく、均等に負担をかけていく中で彼らの最大値を出させることが、それ即ち最もチームの最大値を発揮できる戦い方と言えるからだろう。

それを今の鹿島で最もピッチで表現できるのが、現状スタメンで起用されている選手たちとその配置なのだろう。2列目にはハードワークができて、ポジションを柔軟に動かせ、身体を張ったプレーでサイドでも起点になれる仲間や正確なキックとゴール前への飛び込みのタイミングが良い樋口がファーストチョイスになっているし、サイドバックでは不慣れながらも強度とプレー範囲の広さを活かして三竿が据えられている。そして、前線には優磨を自由にプレーさせるために、相手DFと勝負し続けることができ、前線で起点にもなれ、かつモビリティも兼ね備える師岡がファーストチョイスとなっている。

配置自体はポポヴィッチ時代と変わっているが、やっていること自体はそこまで大きく変わっていないので、監督交代したことによる変化は!?と問われると、そこまで明確なものが打ち出しにくいのが現状ではあるが、今のメンツで目の前の試合を勝ちにいく最短経路が今のやり方であることを考えると、戦い方の選択肢としては妥当なものだと言えるし、そこで大崩れしないチームを作っていることを考えれば、中後さんのここまでの監督としての働きぶりは決して悪いものではないだろう。

継続して見られる変化

ネガトラの意識

ここからはそんな中でも中後体制になって継続して、意識的に取り組んでいるであろうことについて見ていく。まず一つが、ネガトラ。ボールを失った後に、チーム全体で即時奪回に動く姿勢がより鮮明になったということだ。

代表的なのが川崎F戦で奪った2点目のシーンである。左サイドからのスローインで一度はボールロストしてしまったが、ボール周辺にいた仲間、柴崎、安西がすぐさま即時奪回に動いてそのまま奪い返すと、その流れから安西がサイドを切り裂いて持ち運び、最後は折り返したこぼれ球を逆サイドから走り込んできた樋口が合わせた。ボールを失った後にリスクを気にせず、前に出て行こうとする姿勢は中後さんになってからよりハッキリしたように思える。

ポポヴィッチの時にもこうしたシーンがなかったわけではない。2列目の選手たちが自分たちのラインを越えられた時のプレスバックは光るものがあったし、それで守備が成り立っている部分もあるくらいだった。だが、メンバー固定や連戦による影響でそうした部分が徐々に曖昧になってきており、ポポヴィッチ最後の試合となった新潟戦では3バックで後ろをしっかりケアしたこともあり、まず陣形を整えることの方が優先度が高かった。

そう考えると、中後さんが監督になったタイミングでインターバルがあったことや、もう連戦がないことも味方した面は否定できない。ただ、それでもよりボールを能動的に高い位置で奪いたい、という意識はチーム全体で増しているように思える。

セットプレーの仕込み

ポポヴィッチの時からセットプレーはいくつかパターンを仕込んでいたようだが、中後さんになってからは違う面で仕込みが見られるようになった。

と言っても、これを主導しているのはおそらく中後さん監督就任と同じタイミングでコーチになった羽田さんと思われる。練習でも仕切っているのは彼だったし、試合中の攻撃時のセットプレーでもテクニカルエリアに出てくるのは彼だからだ。

10月からコーチになっている羽田さん

具体的には、まず自分たちのキックオフ時。この時に植田を高い位置に上げるようになった。理想はボールを多少動かした後に植田にロングボールを当てて、彼が落としたところからチャンスを作り出したいのだろう。現状、これが上手くいったことはないし、個人的にはやるならもっとシンプルに植田に放り込んだ方が良いと思っているのだが、セットプレーを仕込むという意味ではわかりやすい変化であった。

また、先日の練習ではチーム全体の練習強度を落としている中で、スローインからの崩しの形を確認するようなメニューが組まれていた。スローインをどうやって受けて、そこからどう繋いでゴールを目指していくのか。そこを明確にするような練習であり、そうした部分を意識づけさせるような練習は新鮮さを感じさせる部分でもあった。

こうしたトレーニングをしているのは、チーム事情と羽田さんの経験ならではの側面があると思っている。まず、チームとしては残り試合が限られているし、やることを大きく変える予定もない。その中で、現状4試合を中後監督で戦ったが、得点できたのは1試合だけで、そこの火力不足は否めない。今の選手たちで戦う中で、そこの得点力をどう補っていくかというところで、セットプレーに活路を見出した部分はあるのだろう。

また、羽田さんは年代別の代表でのコーチ経験がある。代表というチームは選手を拘束できる期間が限られているし、当然それに伴ってトレーニングできる時間もあまりない。また、各々自分たちのチームの試合を終えてから合流するケースが多く、コンディションもバラバラだ。その中で結果を出すために、短期的に負荷をかけずに取り組めて最も効果が出やすいのがセットプレーなのだろう。羽田さんはそうした自身の経験を今の鹿島の状況に当てはめた上で、セットプレーの部分を意識的に取り組んでいる可能性がありそうだ。

まとめ

中後さんが就任してからは1勝3分と負けなしだが、他のチームと比べて勝点の積み上げペースは遅く、また3分は全てスコアレスドローと消化不良の戦いが続いており、ACLE出場権争いにおいてもチームは今生き残りの瀬戸際にいる。次節負ければ3位の可能性が消滅するといった状況だ。

ただ、その中で中後さんはやれることはやっているとも言える。ケガ人も多く、特にアタッカー陣のコマ不足は否めない。どうやってゴールを奪うか、という部分で個々のクオリティに頼れないのは、監督としては中々厳しいだろう。その中で下手にリスクを冒して試合をぶち壊すことをせず、現実的にまずは負けない戦い方を選んでいるのは、決して悪い選択とは言えない。

今のチームで勝点を積み上げるのに最も効率的な戦い方を選んでいる以上、残り2試合もそこから戦い方が大きく変わることはないだろう。となると、違いを見せるのは戦略性の部分だ。どこでリスクを取りにいくのか、どこでギアを上げるのか、どこでどういうカードを切るのか。そうした部分で上手く切った方策をチームにハメて、勝利を目指し、ACLE出場権である3位以上を掴み取れるように戦いたい。それができれば、中後さんは見事にミッションを果たしたとして、十分に評価していいだろう。


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タケゴラ
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