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ACL優勝を果たした鹿島の"型無し"の功罪


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ついに重い扉をこじ開けた。ペルセポリスとのACL決勝に臨んだ鹿島アントラーズは、中2~3日の連戦やイランへの長距離移動、さらに10万人の大アウェイという過酷な条件を乗り越え、ホームでの2点のアドバンテージを活かして勝利。悲願だったアジア王者の座に登り詰め、そして節目の主要タイトル20冠目を手にすることが出来た。これまで何度も跳ね返されながらも、今回優勝までたどり着いた理由、個人的にそれは今のチームがこれまで以上に「型無し」のチームだったからではないかと思っている。

元々、鹿島というチームは自分たちのスタイルというようなものにあまりこだわりをもたないチームだ。ジーコ以来、チームに植え付けられてきたのは「臨機応変に戦って、最終的にとにかく勝つこと」。その精神とチームの予算規模やこれまでの実績もあって、チームはある程度どういう戦い方でも出来るように常に選手編成がなされている。繋ぐことも出来るが、放り込みも厭わない。前からプレスに行くこともあれば、ブロックを作って耐えることも出来る。どれもそれなりに出来る、というのが鹿島のある意味「スタイル」なのだ。

今季のチームは特にその色が強くなっている。その理由は色々だ。過密日程でチームの戦術を深める時間があまり取れなかったのもある。あとは、大岩監督が選手の主体性を重視しているために、型にはめ込む方針を選んでおらず、そうしたトレーニングをあまり行っていないというのもあるだろう。実際、大岩監督はインタビューや会見などで「主導権を握るために自分たちから変化を起こしたい」「立ち上がりからアグレッシブに行きたい」と話しているが、今の鹿島のスタイルはそれとはある意味対局のサッカーをしているように筆者には思えるのだ。

今の鹿島は立ち上がりから積極的に行くことはあまりしない。もちろん、攻撃のマインドが無い訳ではないし、チャンスと見れば一気に畳み掛けに行くが、基本的にはブロックを作ってまず失点しないことを意識した試合の入り方が多い。そこで相手の出方を伺い、徐々に相手に合わせて形を変えていく。勝負に出るのは、修正の時間が取れるHTが終わった後の後半以降の方が圧倒的に多いのだ。日頃から対戦しているJクラブとは異なり、対戦経験もなく、また様々なスタイルや環境の下で、鹿島に向かってくるアジアのクラブと戦う時は、この戦い方が特に有効だった。ホームでの決勝第1戦はその典型のような試合である。序盤の劣勢を耐え抜き、徐々に相手の戦い方を掴んでこちらのペースを上げて主導権を握り、後半にチャンスを活かして2得点。今の鹿島にとって理想的な勝ち方だった。

この「型無し」を支えていたのは、個々の高い守備力だ。ボランチには夏場以降調子を上げて、無尽蔵の運動量で攻守に貢献したレオ・シルバが軸として君臨し、CBにはケガから復帰した昌子と夏場に加入したチョン・スンヒョンがその身体能力の高さを活かして見事に移籍した植田の穴を埋め、そして最後尾には空中戦に抜群の安定感を誇る百戦錬磨の守護神、クォン・スンテが控える。さらに、ケガで離脱してしまったが右SBには内田もその高い経験値でチームの勝ち上がりを支えた一人だった。役者がそれぞれ今すべきことを共通して理解し、それをベースにチームとして戦っていく。今いる選手の武器、そして鹿島アントラーズというクラブがこれまで積み上げてきた経験値、それらを活かした上での今回の栄光だった。

ただ、この「型無し」は決して良いことばかりではない。守備はブロックを作って守る以外に特に組織としての動きがないため、ブロックの間にボールを入れられて、そこからチャンスを作られる場面も少なくなかったし、そもそも前線の守備が機能していないため、相手のビルドアップを制限できず、1列目の守備を簡単に突破されることがシーズン通してあまりにも多かった。個々の高い守備力で成り立っているからこそ、その高い守備力を持つ昌子がケガでいない時や本調子ではない時は耐え切れないシーンも少なくなかったのである。守備の時間が長くなれば当然攻撃の時間は短くなる。先程も書いたが、大岩監督の目指す「主導権を握るために自分たちから変化を起こす」サッカーにはまだまだ程遠いのが現状だ。

ACL優勝を果たしたとはいえ、リーグ戦では川崎Fに大差をつけられて2年連続で優勝を逃すことが確定しており、ルヴァン杯では横浜FMの前に敗れ去った。川崎Fも横浜FMもそれぞれ課題を抱えながらも、それぞれに自分たちの組織としての戦い方を持ち、それを磨き上げているチームだ。一発勝負のカップ戦では「型無し」がプラスになる時もあるが、一年を通じての強さが問われるリーグ戦では、今の戦術の成熟度でタイトルを勝ち取るのは中々難しいだろう。特に守備面は個々の力に頼らない守備組織の構築が、早急に求められているのが現状だと思える。勝って兜の緒を締めよ、ではないが更なる栄光を求めて戦い続けるためにも、今こそ来季以降の戦術の再整備が必要なのではないだろうか。


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