鹿島アントラーズの新体制にまず今季求めたいこと
毎節ごとに目標設定を
シーズンも終盤に差し掛かっているところでの今回の監督交代ということや、後任の人間が羽田さんを除いてトップチームの監督やコーチ、強化部のトップという役職が初めてなことを考えると、この人事はおそらく今季のことよりも来季のことに重きを置いたものであると言えるだろう。
ただ、来季のことに重きを置くとはいえ、今季がまだ終わったわけではないし、何よりリーグ戦はまだ6試合も残っている。これを来季のための捨て石にするのはあまりにもったいないし、ホームゲームを3試合残していることを考えると、そこに来てくれた観客に何を見せられるのか、というのは来季に向けてどれだけの期待値を持たせられるか、ということにも関わってくる。
そこで求めたいのは、残り試合は毎試合何を目指して戦うのか、をハッキリさせてほしいということだ。これは中後新監督や中田新FDに求めたいことである。もちろん、優勝の可能性がわずかながらにでも残っている現在は、それを目標にしてもいいだろう。ただ、その優勝の可能性が消えた時にはどうするのか?、というところまで考えて、その時にチーム内で発信をしてほしい。ACL出場権獲得、5位以上など下方修正になっても構わないので、都度都度現実的に狙っていけるラインの目標を設定し続けて、発信して、戦ってほしいのだ。
こんなことを期待する理由としては、クラブとして抱えている悪癖を懸念してのものである。それは、目標が曖昧になると、とにかく毒にも薬にもならないサッカーをピッチで繰り広げて、結果何かが残るわけでもないということだ。どんなシーズンでも優勝を狙っていき、そこに向けてチーム一丸となって戦っていける、というのは鹿島のクラブとしての強みではあるが、その肝心かなめの「優勝」という目標が消えてしまった後の振る舞いについては極めて曖昧になってしまい、そこでの成果や課題が次のシーズンや監督には何も残っていかない、というのがここ数シーズンの鹿島ではよく見られた光景になってしまっている。
せっかくこの時期に体制刷新を決断したのだから、ここ数年の焼き直しになってしまうことは何としてでも避ける必要があるだろう。目標が曖昧になるからモチベーション持って戦えないと言うなら、せめてそのモチベーションを上げる材料になる次の目標を設定して、残り試合を戦っていってほしい。
どんなサッカーをやりたいのかを打ち出す
これは中田新FDに求めたいことである。引退後はビジネスサイドで歩みを進めており、今季から初めて強化部に移ったところで、このシーズン途中にいきなり強化部のトップに就任する、という極めて難しい状況にはなっているが、まず取り組むべきはここからであろう。
これは中田新FDが良くも悪くも未知数すぎるからだ。クラブOBであること、引退後も長らくクラブに籍を置いていたことで、鹿島というクラブのことは良く知っているのは間違いないが、それにしても本人が鹿島のどういうところをストロングだと捉えていて、どういうところを課題だと捉えていて、その中でどういうサッカーをしていくべきだと思っているのか、そのあたりは今のところわかっていない。なので、このあたりをまずはハッキリさせることが、最初の仕事としてほしいところだ。
このあたりがハッキリしてくると、来季以降の体制や編成がどういうものがふさわしいのか、という一つの評価軸が見えてくる。その評価軸を元にして、現状がそれを達成できているかできていないのかを都度ジャッジしていくようになれば、そこで初めてPDCAのサイクルが回り出すことになる。鹿島の良くないところはこのPDCAのサイクルを上手く回せていないことであり、もっといえば監督や強化部が変わるたびに、シーズンが終わるたびに、このサイクルに継続性がぶった切られてしまうことである。
中田新FDにはまずこのPDCAサイクルをまともに回せる状態にすることを求めていきたい。そのために自身のビジョンの発信が必要、ということだ。
暫定体制の評価は2〜3試合で決めるべき
中後新監督の下、羽田コーチと本山コーチを新たに迎えて、これからを戦うことになった鹿島。ただ、この新体制で今季の残り試合で劇的な成果や変化をもたらすことを期待するのは禁物であろう。
理由としては、現在のチーム状態や残り試合のことを考えた時のことである。残り試合数が多くはないのはもちろん、今のチーム状態は完全に主力、コアメンバーが固定されている状況であり、使えるコマの種類が決して多くはないというところだ。ポポヴィッチが主力を固定してきたのを良い悪いは別にして、中後新監督はそれを引き継ぐしかないのだ。
もちろん、ポポヴィッチ体制時から戦い方や人選を大きく変化させていくことも選択肢としてはあるだろう。だが、ポポヴィッチが選んだ戦い方や人選に、改善できることはあったにせよ、そのチョイス自体は妥当だと思えるものであったことは踏まえておきたい。要は変える要素自体があまり多くはないのだ。選手層が元々厚くないことや、ケガ人の状況を考えると、余計に選択肢は狭まっている。新監督が選ぶメンバーが前監督時とほとんど変わっていなくても、それは不思議なことではないだろう。
また、監督・コーチ陣自体の実力も未知数であることも踏まえておかなければならない。計算できるのは鹿島でもコーチ経験があり、他クラブや五輪代表でもコーチの経験がある羽田コーチぐらいであり、彼も飛び抜けた実績があるわけではない。また、中後新監督や本山コーチに至ってはその役職自体が今回初挑戦となる。どう転ぶかは正直読めないところだ。
ただ、今季の体制があくまで暫定であるとはいえ、結果的にポジティブな変化を多くもたらすことができれば、来季以降も継続する可能性もゼロではないだろう。ただ、それを見極めるために来季の体制をどうするかという判断をギリギリまで遅らせるのは、悪手と言っていいだろう。それをしてしまったが故に、今季はチーム編成のスタートが遅れたというのは、前回書いた記事でも指摘した通りである。
ジャッジの目安となるのは10/30or11/1に開催される川崎F戦もしくは11/9の名古屋戦あたりだろう。そこまでの進捗状況とピッチでの成果を鑑みて、来季の体制方針の決定および整備に入っていってほしい。
今回の人選の理由と今後の対応については?
これは新体制というよりも、新体制を選んだ側に問い掛けたい内容である。今回、メインキャストに据えたのがいずれもクラブOBであることから、クラブを良く知る彼らを軸にして、今後の強化を進めていきたい方針であるのは、間違いないだろう。
だが、今回選んだ人選は何度も繰り返す通り、キャリアでは初挑戦の役職に就く人間の方が多い。根本的に上手くいっていない状況を解決するタスクを、果たして初挑戦の人間に預けて上手くいく勝算があるのかどうか、というのは言うまでもなく懸念するところであろう。
特に、中田新FDの起用は色々と疑問点があると言わざるを得ない。そもそもビジネスサイドにいた彼を今季から強化部に回し、果てはそのトップに回した理由は何か?、吉岡さんが呼んだ石原さんは山口で強化部トップの経験があるにも関わらず、彼を差し置いて中田氏をトップに置く理由は何か?、もし中田氏が結果を残せなかった場合は、クラブを離れることになるのか?それともまたビジネスサイドのポジションに戻すのか?、このあたりに対する答えは是非求めていきたいところである。
サッカークラブの人事は、一般企業のそれとは良くも悪くも違うというのは間違いない。ただ、それでも今回の人事起用はいくらOB路線を推し進めるためとはいえ、一般論で考えるとベターなチョイスとは思えない部分もある。そこに対する明確な答えをクラブの中で持っていないということは、鹿島アントラーズというサッカークラブという枠に留まらず、鹿島アントラーズFCという会社としてのブランディングにも関わってくる部分だと、個人的には思っている。今後クラブを拡大させていきたいという狙いも踏まえた上での、適切な判断であったことを期待したい。
何はともあれ、新体制でスタートを切った鹿島。次節の福岡戦でどんなパフォーマンスを見せるのか、そのためにこの1週間強の間にどんな準備をしていくのか、まずはそこを注視していきたい。