鹿島アントラーズの2024シーズン前半戦を振り返って
結果について
19試合で11勝4分4敗の勝点37の2位、首位とは勝点差2。ここまでは上出来と言っていいだろう。順位や首位との勝点差は今季のリーグ全体が混戦模様なこと、昨季の上位陣が思ったよりも勝点を積むのに苦労している部分に助けられている面もあるが、今のところ優勝争いについていくのに最低限必要な試合数×2のペースにわずかに届かないぐらいで付いていくことができている(ちなみに、次のガンバ大阪戦で勝つとそれに届く)。
正直、勝点を落とした試合を考えるともっと積めたのでは?という思いもしなくはないが、それでも今季のスカッドや開幕前の展望から考えると、かなり健闘している方だし、予想以上の成績は残せている。一方で、ポポヴィッチを招聘した意図やポポヴィッチのマネジメントを考えると、前半戦終わった段階でこの立ち位置はある種フロント側の狙った通りになっている、と言える。おそらく、今季の青写真として描いていたのは後半戦に猛チャージを掛けるというよりは、開幕からある程度勝点を積み上げていって、優勝戦線に食らいつき続けるといったものだったはず。つまり、ここまではチームにとってはサプライズでもなんでもないのだ。
と考えると、本質はここからだ。後半戦も前半戦のペースを最低基準にしながら勝点を積み続け、さらに優勝争いを勝ち抜くにはどこかでブーストを掛けていく必要がある。前半戦はホームで負けなしだったのが大きいだけに、後半戦ではそれを継続することが求められるし、さらに下位相手にホームでしっかり勝ち切っていたが、アウェイでもそれができるのか?というところが問われてくる。後半戦はいきなり3位のガンバ大阪、4位のヴィッセル神戸という上位対決の連戦となる。ここで最低でも勝点4は積みたい。それができれば、夏もまだまだ面白くなるだろう。
スタイルについて
ポポヴィッチのスタイルは昨季の岩政さんの上手くいっていた部分をより尖らせたものだな、と思っている。なので、武器にしている部分も苦手にしている部分も、昨季から大枠では変わっていないと言える。これについては、鹿島というチームの文化において今みたいな戦い方が一番合っている戦い方なのだ、ということも言えるだろう。
守備は昨季よりもミドルブロックでのプレッシングの割合が増えている。これは昨季が低い位置でセンターバックの強さをメインにはね返していたのに比べて、今季はそれよりも高い位置からプレッシングを仕掛けるようになったのと、何より今季の守備の強みが佐野海舟と知念慶のボランチコンビによるボール奪取力の高さにあるからだろう。プレーエリアも広く、独力でボールを奪う力の高い2人がボランチで組むことによって、多少プレスの精度が拙くても、彼らのところで刈り取れてしまう。彼らがいるからこそ成り立つモノであるし、昨季より守備ブロック強度という面では落ちてしまっているが、それでもよりゴールに近い位置でボールを奪えた方が、チームにとってはリターンがデカい。事実、失点数こそ昨季より嵩んでいるが、昨季と比べるとゴール数が増えている分だけ、得失点差はプラスに出ている。
攻撃では、昨季よりもさらにボールを持つことにこだわらなくなったし、空いたスペースがあれば躊躇なく縦への長いボールを蹴り込んでいくようになった。また、チャンスになればディフェンダーの選手でもどんどんゴール前に進出していくことが求められている。この素早く、どんどん前に出ていく姿勢が今の鹿島には合っていたのだろう。リーグ2位のゴール数はその成果と言える。
ただ、今の鹿島はそんなに仕組みとして完璧なサッカーをやれているわけではない。守備では高い位置でのボール奪取こそ増えたが成功率を考えると決して高くはないし、攻撃でもボールをしっかり保持して相手を崩せているわけでもない。それでも、勝点を積めて、この順位にいられるのは、個々のポテンシャルに上手いこと頼って、それを活かせているからだ。守備では前述したように佐野と知念のボール奪取力、また攻撃では組み立てにおけるプラスワンになれる安西幸輝の存在と、2列目の器用さ、そして右サイドバック濃野公人の抜群の攻撃センスだ。
佐野と知念を守備に重きを置かせて彼らを輝かせる分、今季の鹿島の攻撃でアクセントになっているのはサイドバックなのだが、彼らは左右で役割が違う。左の安西はどちらかというバランスを取って低い位置にいて、組み立てのフェーズでは単に縦パスを入れるだけでなく、自らサイドを横断するようにボールを運び、相手の目線を変えながら局面を変えることに貢献している。一方、右の濃野は高い位置を取ってゴール一つの手前のプレーで存在感を見せている。大外だけでなく中央に入り込んでもプレーできるので、時にフィニッシャーになれるのが彼の武器だ。
2列目は師岡柊生、名古新太郎、仲間隼斗のトリオで固まりつつある。サイドハーフの師岡と仲間は相手に背を向けてのプレーのクオリティが高く、ボールを収めることができるし、空中戦でも戦えるために、繋ぎで困った時の逃げ場所になることができる。それでいて、フリーランの質も高いため、逆サイドからのボールに対してゴール前にしっかり入り込めるのも魅力だ。名古は低い位置でボールを受けて捌くこともできるし、またサイドや前線でボールを受けた味方へのサポートの動きが秀逸で、どんな場所でも+1を作り出せる存在だ。師岡や仲間と同じく、裏抜けなどでゴール前に入り込むこともできる。こうした彼らの器用さが最前線に位置取る鈴木優磨と組み合わさって、優磨を孤立させることなく流動的な攻撃を可能にしている。
新たな取り組み
そんな中でチームは徐々に今のスタイルとは別に新たな戦い方を模索しつつある。理由としては、個として抜群の存在感を持つ柴崎岳の復帰もあるだろうし、佐野の海外移籍の懸念もあるだろうし、この先のケガや出場停止などに備えてもあるだろう。要するに、今のチームの屋台骨である佐野&知念コンビを解体するとなれば今の戦い方は継続できないし、違った戦い方を見つけないと勝ち続けることはできない、ということだ。
具体的には、守備時はプレスの開始位置を上げ、リスクを負ってでもより高い位置から相手を捕まえることを狙って守備をしていく、攻撃時はボランチの一角(おそらく柴崎)に組み立ての中心を担ってもらい、もう一角には高い位置に出てもらって、崩しの局面に参加してもらう、といった形だ。柴崎をボランチの一角に入れるなら、ミドルブロックでボランチがボールを刈り取る力は佐野&知念の時より落ちるので、高い位置からプレスを掛けることで守備力を担保したいし、逆に攻撃では柴崎にボールを集めながらボールを保持していき、その分もう一角を攻撃参加させることでより攻撃に厚みを増そうという狙いだ。
事実、柴崎復帰後の北海道コンサドーレ札幌戦あたりからはこの辺のチャレンジが伺えるような様子がピッチから見えてきているし、アルビレックス新潟戦はそれが特に強く感じられた(浦和レッズ戦でそれをあまり感じなかったのは、その挑戦を一旦ストップしてでも勝ちにいったということだろう)。おそらく、このチャレンジが成功するかどうかは、今季の鹿島の命運を左右するといってもいい。後半戦の注目ポイントの一つとなるだろう。
マネジメントについて
ポポヴィッチはシーズンが始動した早い段階から主力組とサブ組をハッキリと分け、主力組をメインに戦い方を植え付けていく方針を執ってきた。おかげで、スタイルの浸透は早かったし、戦い方も試行錯誤がありながらも早い段階で定まっていった。今の順位にいられるのは、間違いなくこのマネジメントによるものが大きい。
ただ一方で、コアメンバーへの依存度があまりにも強いという課題もある。今の鹿島で計算できる存在はスタメン11人にプラスしてチャヴリッチ、柴崎、樋口雄太くらいであり、彼ら以外はコンスタントにプレータイムを得ているとは言い難い。昨季よりも選手数が減っているのに加えて、選手数よりさらに実際戦う上での選手層は薄いと言わざるを得ない状況で、ポテンシャルはあるのに中々出場機会を掴めない選手は少なくない。
それでも、チームとして今季はこのメリットデメリットを比較した上で、メリットの方を取ってこのマネジメントを許容している節がある。それは今年何がなんでもタイトルを掴むためである。結果という面では心許なかったが、Jリーグでの経験が豊富で、FDの吉岡さんとも共に仕事をしたことのあるポポヴィッチを監督に呼んだのも、スタイルで共感できる部分が多かったのもそうだろうが、何より短期的にチームにスタイルを落とし込んで、結果を出してくれる期待値を持ってのことだろう。
事実、コアメンバーが多くはなくても今季ばかりは許容できるのは、今季一年間ならこのスタイルでも走り抜けられる期待値があるからだ。ここまで大きなケガ人なくシーズンを進められており、今後連戦の回数も負担もこれまでに比べれば確実に少なく小さくなってくる。これが来年の話になってくると、今のメンバーで戦い続けられるかどうかは勤続疲労の面を考えた時に大分怪しい話になってしまう。だからこそ、今季のチームにはこのまま走り続け、是非タイトルという結果を掴み取ってほしい。勝負は今季であり、今だ。
夏の移籍市場について
とはいえ、コアメンバーを増やす努力はしておきたい。既存メンバーの奮起に期待するのはもちろんのこと、補強もその選択肢の一つだ。
とはいえ、夏の移籍市場での大型補強を期待するのは現実的ではないし、チームにどれくらい資金的な余裕があるかもわからない。そう考えると、補強はピンポイントで1〜2名程度に留まるだろう。個人的には、ロニー会議でも話したのだが守備のユーティリティが1枚欲しい。浦和戦でも感じたのだが、今の鹿島にはリードしている中で逃げ切るために使うカードがないし、ボランチから後ろで信頼して送り出せるベンチメンバーがいない状況だ(柴崎は攻撃的な意味合いが強い)。そこを埋めてクローザーになることができ、かつボランチから後ろの誰かが欠けた時はその穴を埋めることのできるプレーヤーを補強したい。中途半端な専門職を数人獲ってくるより、信頼おけるユーティリティが1枚いれば、ポポヴィッチはそっちの方がコンバートなどでやりくりしやすいはずだ。
と同時に大事なのは、今の戦力値から落とさないことも意識すべきということだ。佐野の海外移籍はもちろん、出場機会を満足に得られていない面々にも移籍の可能性は当然出てくる。彼らは今でこそコアメンバーに入り込めていないが、新潟戦でゴールを挙げて勝点獲得に貢献した藤井智也のようにどこかでスポット的に活躍してくれる期待値があるし、そうでなくても彼らが出てしまえば、コアメンバーへの依存度は今以上に高まってしまう。佐野の海外移籍への慰留や、移籍した時の穴埋めはもちろん必要だが、それと同じくらい既存メンバーの流出をできる限り留めることも重要になってくる。
まとめ
以上、4つの側面から2024シーズン前半戦の鹿島アントラーズを振り返ってみた。ここまでは冒頭で述べた通り上出来ではあるが、ここ2試合のドロー続きによる若干の停滞感、佐野の移籍報道による流出の懸念は、2年前のレネ・ヴァイラー政権時の状況に似ている。あの時も夏場にかけて停滞し、上田綺世の海外移籍でチームは一気に下降線を辿ってしまった。
あの時、吉岡FDにとっては強化責任者1年目のシーズンだった。そこから2年経った今、あの時との違いを見せられるかというのは、一つ大きなテーマになっている。自身がよく知る監督を呼び寄せ、自身が責任を持って編成したメンバーで戦う今、彼にとっても本質が試される状況になっている。ここでもう一度ギアを上げ、今季こそ自分たちがタイトルに相応しいチームであると名乗りを上げたい。それができるかに後半戦スタートの成否が懸かっている。