流行は進化しながらくりかえす? ドレスのリメイクで感じる時代のうつりかわり
この記事はメンバーシップ限定記事ですが、ほとんど読めます。(最後、ちょっとした個人的な近況報告のみ限定記事にしています)
さて、わたしはウェディングドレスのお仕立てとリメイクの仕事をしています。最近ではリメイクの仕事が増えてきてうれしいです。
なかでもわたしがとくに大切にしている仕事のひとつが、「お母さまのウェディングドレスのリメイク」です。かつてお母さまが結婚式に着られたウェディングドレスを、花嫁さま用にリメイクするのです。
時代が反映するドレス
長くリメイクをやっていると、持ち込まれるドレスの時代も進んできます。わたしが最初に手がけたのは、1960年代の日本のウェディングドレスだったと思いますが、(海外のものだと、古いもので1950年代のおばあさまのウェディングドレスもお直ししたことがあります)いまは1990年代のドレスを手がけています。
ウェディングドレスにも、ファッションほどではないですが、やはり流行や時代が反映されます。
1960年代のウェディングドレス
この時代はほとんどが家族やご親族の手作りのドレスでした。そして、1着つくられると、姉妹や親戚でくりかえし着られるため、すでに何度かお直しをされていたものをリメイクすることが多かったです。
年代がいちばんよくわかるのはデザインの傾向と端の始末の仕方です。家庭用の端始末ミシン(ロックミシン)が発売されたのが60年代の末ごろなので、60年代のドレスはほとんど端を切りっぱなしで残してあるか、日本製の丁寧な仕立てのものになると、パイピングといって、端をバイヤステープと呼ばれる伸びやすいように裁断した別布でくるんであったりします。この時代のものはサイズが細く、小さいものも多く、日本人の体格が変わってきたことを実感します。
1970年代のウェディングドレス
70年代に入っても、家庭にロックミシンが普及するのは時間がかかったのでしょう。ほとんどのものが60年代の始末と同じです。ただ、家庭の手作りから、お仕立て屋さんに出されたものも増えてきます。
70年代のウェディングドレスはデザインでもわかります。シンプルで、モダンなものが主流ですが、デザインのバリエーションが増えてくるので楽しいです。けっこう大胆なデザインのものもあったりして、新しいドレスを預かるたびに、どんなものに出会えるのだろうかと毎回ワクワクします。
仕事でいろんなドレスに出会えるのが楽しくて楽しくてしかたがないんです。打ち合わせで、「なんかいちばん楽しそうですよね」と花嫁さまに言われたこともあります。あ、バレてました…?
1980年代のウェディングドレス
華やかで豪華なウェディングドレスが増えてきます。ロックミシンも行き渡り、素材はポリエステルのものが主流になります。ケミカルレースの種類が増えて、レースのモチーフも大きくなります。そして袖もどんどんボリューミーに大きくなります。
1981年にダイアナ妃とチャールズ皇太子(現国王)のロイヤルウェディングが行われ、ボリュームのあるジゴ袖や長いトレーンの豪華なドレスに注目が集まりました。
ちょうどこの年、ブライダルデザイナーの桂由美さんがアメリカでショーを行い、日本でもボリュームのある豪華なウェディングドレスが人気になりました。
1990年代のウェディングドレス
90年代前半は、ダイアナ妃人気の影響が続き、豪華なドレスの流行が続きます。袖もボリュームのあるものが多い印象です。
もう少し時代が進むと、シンプルなドレスが人気になります。海外のインポートドレスも手に入りやすくなり、Aラインやシンプルなスタイルが主流になります。
今リメイクを手がけているドレスは90年代前半のものが多いです。豪華で袖のボリュームが大きいものです。
流行はくりかえす?
2〜3年前までは、袖が大げさだからシンプルな袖にしてください、というリクエストが多かったのですが、最近はボリュームのある袖の流行がリバイバルしているため、「袖をそのままで残しませんか?」という提案をしています。
今年に入って、花嫁さまのほうからも「袖はボリュームのあるままで残してください」というリクエストに変わりました。
ほんの2〜3年前だと袖は直していたのですが、今年は断然、ボリュームのあるお袖のままのほうがかわいいです。流行は面白いですね。ただ、そのまま流行がくりかえすのではなく、確実にアップデートしています。
どこを変えて、どこを残したら、「今のドレス」になるか。それを見極めるために、常にじぶんをアップデートさせておくことを心がけています。そしてそのアップデート作業が、じつはかなり楽しいのです。
だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!