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秋のこころは…

 ものを書きたいと思うのはいつも夏から秋へ季節が進む頃だ。
 この頃に感じるそこはかとない寂しさ、哀しみ、不安、秋のこころと書いて愁いという心持ち、この正体不明な感情を文章に表してみたいと毎年思うのだが僕の拙い文章力で表し切れるものではない。
 そして昨今の異常気象のせいで、こんな感情が現れる季節がずいぶんと後ろ倒しになってきている。
 吹き抜ける風が爽やかになり、しとしとと小雨など降れば愁いに浸る絶好の演出だが、どうしたものか風が吹けば台風の暴力的な風、雨が降れば日常の営みをごっそり奪っていくような豪雨、とても愁いを感じるどころではなく、ただただ人々を悲しみの底に沈めるような、そんな非情な天候が続いている。

 愁う心に似合う背景は過ごしやすくなった秋の景色、同じ秋でも初秋の頃の風景でなければいけない。
 そんな景色を探しているうちにやがて愁う心は小さくなり晩秋の彩を追いかけるころには、その心持はもう消えている。
 人生においてあと一年か二年で定年という年季が季節に例えれば初秋の頃ではないかと僕は思っていて、自分自身いよいよこの季節に達したのかなと考えると少しずつ長くなってきた夜、湧き上がるのはこんな感情なのだ。

 三年ほど前、秋も冬も迎えることができずに人生が終わるかもしれないと思うような大病を患った。今も少なからず後遺症に悩まされている。人生における晩秋の彩を楽しむことができるかどうかが、今、僕の秋のこころの大半を占めているのだ。
 病気によって、突発的な事故によって、あるいは抗うことのできない自然災害によって理不尽に人生が終わってしまう人も多くいる。
 僕は今まで打ちのめされるほどの出来事や立ち直ることができないほどの喪失にも遭わず、そこそこに無事に生きてきた。
 冬は短くていい、人生の晩秋の候までは平穏に無事に暮らしたいと願っている。
 
 願わくば、いい一生だったと振り返りながら…。


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