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地図と写真集

 先日、萩に見に行った写真展で注文した写真集が届いた。
 ワクワクしながら封筒を開いてみると、お礼の絵葉書とともに写真集が4冊…、さっそく開いてみる。冊子がエリア毎に整理されていて一冊目は中央アジア、次が中東、それからヨーロッパ、最後はラテンアメリカへと続く。ページを開くと、まず国名が横文字で書かれていて、これが何語なのか分からないが、簡単にローマ字読みができないし、通称ではなく正式な国名なのか、それすらよく分からない。しかたがないのでタブレットを傍に置いて国名を検索して世界地図を見ながらページをめくっていって、ようやく旅人の足取りを想像することができるようになってきた。こうなるとここからは想像が広がり俄然楽しくなってくる。しばらくは架空の旅人になって空想の世界に没入していた。

 僕は幼い頃から地図を見るのが好きだった。小学校に上がる頃には自分で空想の世界地図を描いて頭の中で世界一周旅行をしたり、さらに不便だなぁと思う所に鉄道を通したり航路を開いたりと、それはすごく楽しい遊びだったのを憶えている。

 そんなわけで地理の成績だけは良かったのだが、今回中央アジアの国々の写真を見て、そこには荒涼とした砂漠や山岳しかないと思っていた場所にも街があり人々の営みがあることを知り、そして自分が学校で習った世界地理と現在の世界地理はかなり違うことを実感した。だって僕たちが勉強していた頃の中央アジアなんて簡単な世界地図には「ソビエト社会主義共和国連邦」と書いてあるだけだったもの…。ドイツは東と西の二つの国だったし、ベトナムも北と南に別れていた。ミャンマーはビルマだったしバングラデシュは東パキスタンだった。スリランカはセイロンだったし、写真集にも出てくるスロベニアはユーゴスラビアの一部だった。世界地図が塗り替えられる原因の多くは戦争の結果だろう。我が国のすぐ隣には未だに先の大戦の結果が線引きされているし、東ヨーロッパや中東にも不穏な空気が漂っている。

でも、二冊目の中東のページに載っている風景を見れば、名前を聞いただけでは旅行なんぞできない怖い国という思いは政治的に作られたイメージなのか?と思わせるほど柔和な顔をした人々が写っていて、治安の良い悪いはあるだろうけど、よほどの紛争地へ行かない限り女性の一人旅もできるんだなぁと思い知らされたのだった。海外旅行の行き先としてはあまり選ばれないような地域にも、あたりまえのことだが、そこに住む人々の生活や文化がある。そんな事を知れば戦争など起こらない世の中になるんじゃないかと思うのは、やっぱり甘い考えなのだろうか?

 送られてきた四冊の写真集、地図を片手に眺めればどんどん空想が広がり、そして今度は世界史にも興味が湧いてくる。興味に誘われての勉強は若い頃の受験勉強とは違って際限なく楽しい。年老いて身体が思うようにならなくなる前に、こういう空想のネタを集めておこう。そんな気持ちになるきっかけとなった写真集だった。


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