肝性脳症〜闘病備忘録8
退院後、自宅療養を経て仕事に復帰してから自分でも少しおかしいなと思っていた事が手の震え、真っ直ぐ歩けない、座っているとどちらかに傾いてくるなどの身体症状だった。長期の入院生活で筋力は驚くほど落ちていたのでそのせいかな?と思っているうちに執務中に耐えがたい眠気を感じるようになり、パソコンのマウスを握ったまま寝落ちしてしまうことが何度かあった。もちろん真昼間である。そして…。パソコンの使い方が分からなくなったり覚えているはずのパスワードを間違えるようになったり、一番始末が悪いのは、それらの現象の原因が自分の頭のせいではなく、機械が故障したのだとか、誰かが勝手に設定を変えたに違いないと信じて疑わなかったことだった。これが肝性脳症の始まりだった。当然、仕事になどなるわけがない。軽いうちは頭よりも身体の方に症状が出て最初の執刀医にその旨を伝えると、それは手術の影響ではないと言い張る。では原因は?と聞くとそれは僕の範疇ではないという。手術を受けてから出始めた症状なのにと素人でも分かるような事を僕の範疇ではないと言われれば返す言葉もなく、仕方がないので街の脳神経内科を受診すると、結局手術を受けた総合病院の神経内科を紹介された。そこでいろいろと話を聞いてもらい血液検査を受けて出た結果がアンモニアの数値が高いのが原因だとのこと。その結果を消化器外科に伝えてもらって、以降、僕の外来定期検査は消化器外科に消化器内科の先生が加わっての体制となる。
内科が加わることで飲み薬がずいぶんと増えたが、症状が出た時に3時間ほどの点滴をすれば良いということも僕の知識として増えた。ただ、時々脳の方の症状がひどく出ることがあり、そんなときは記憶が一時的に飛んでしまうこともあった。日常生活にも支障をきたす、例えば、時計を見ても時間が分からない、トイレの流し方が分からない、目薬がうまく差せない、当然スマホやパソコンの使い方も分からない、などの症状が出たり、もっとひどくなると記憶が無いまま、この寒い時期に4階の窓(ドアではない)を開けて外へ出ようとしたり、夜中に便所の位置を探そうと徘徊して転けたりすることもあったらしい。そのときにはさすがにいつもと違うと妻が救急車を呼んで病院に運ばれたようだ。そしてその夜は忘れようと思っても忘れられない一夜を過ごすことになる。