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すかいらーくは3000台のネコ型配膳ロボットをどうやって導入しきったのか。

年の瀬の12月21日、すかいらーくは『2100店のファミレスに3000台のネコ型ロボットを導入しきった!!』というプレスリリースを出しました。

導入宣言をしたのが2021年10月だったので、1年ちょっとでファミレスで動く3000台のロボットが導入されたことになります。ザックリ計算すると、『1日10台ずつ』のロボットが、全国のガスト、バーミヤンなどで増えていったことになります。少なくとも私の知る範囲では最大規模かつ最高ペースです。

今回は、このビックな取組みがどのようなプロセスで進んだのかを、すかいらーくのIR資料などの公式情報をもとにまとめてみます。

導入したロボットは?

すかいらーくグループに納品されたのは、2016年に中国深圳で設立されたPudu Robotics社の「BellaBot(ベラボット)」。すかいらーくやメディアなどでは、その見た目から「ネコ型配膳ロボット」などと呼ばれています。

その役割はと言うと、動画を見て貰うとイメージが沸くかもしれませんが、厨房エリアからお客さんが座っている座席まで料理を運ぶ、いわゆる、「配膳」を行うロボットです。実際にファミレスなどで体験された方も多いのではないでしょうか。

すかいらーくとは全然関係ないですが、3000台導入完了が発表される1週間前には「細かすぎて伝わらないモノマネ」で話題になったロボットですね。

話を戻しましょう!!

ロボット導入の目的は??

そもそも、配膳ロボットBellaBotは何のために導入されることになったのでしょうか?

すかいらーくのホームページを見てみると、、、、導入効果としてこんなことが書かれていました。

●従業員のフロア作業時間が削減され、生産性と接客サービスの向上に貢献しています
●ピーク時間の回転率が向上し、客数増に繋がっています
●お子様を中心にロボット活用により楽しさを演出し、話題性により客数増に繋がっています

効果としては、そうなんだと思います。でも、もっと詳しいことが知りたいなぁ~ともう少し見ていると、もうちょっと書いてありました。
・堅牢な事業基盤の構築を目的として、全社・全業態でのDXを推進
・DXの一環として、フロアサービスロボットを導入
ということでした。

ちょっと難しめな表現なので、もうちょっと簡単に書くと、
・DXを活用することで、オペレーションの難易度を下げる!
・その結果として、顧客サービスに注力できるようにする!
・その結果として、お客様満足度を上げ、顧客ロイヤルティ(NPS)を向上させる!!
という想いのようです。

さらに、かみ砕くと、生産性を向上させるために、

①顧客満足度の向上
ロボットと協働することで、「お待たせしないサービス」と「サービス品質向上」で『客数増』に繋げる
②働きやすい職場環境
操作が簡単なロボットを使うことで、従業員の作業負荷を軽減し、「雇用維持」と「採用難」という『中長期的な社会課題』への迅速な対応を行う。さらに、空いた時間を従業員教育に充て、作業習熟度も上げる。

この2つが、すかいらーくグループが大量のロボット導入に踏み切った二本柱ということになるのではないでしょうか?

特に、②の働きやすい職場環境というのは、現実的には切羽詰まった課題でもあるようで、「特にシニアスタッフにおいては、ロボットによる配膳により、作業が軽量化され負担が軽減されます。また、業務の難易度軽減により外国人スタッフの活躍も推進でき、多様な人財が働きやすい職場につながっています」という記載もありました。

実際にシニアスタッフ、外国籍スタッフの数も開示されています。高齢者はグングン伸びてますね。外国籍はコロナの影響もあってか減少はしています。(ただし、後述するように海外展開を進める中では、オペレーションを統一化するという観点ではロボットは有効に機能しそうです)

すかいらーくグループ 2021統合報告書より抜粋

このようなことは、ロボット活用の目的は、すかいらーくの中長期成長ロードマップの中でも明確に示されていました。顧客支持獲得、生産性向上させるために、DXを積極的に推進していくとのことですっ!!

https://corp.skylark.co.jp/ir/strategy/growth/dx.html

検討と導入のスピードは???

そんな配膳ロボットはいつから導入の検討が始まり、どんなスピード感で導入が行われていったのでしょうか?

導入検討の情報解禁がされてから、一年半での3000台導入の様子は公開情報を追いかけているだけてもなかなか圧巻です!

では、その軌跡を辿ってみましょう〜

2021年8月

いつから検討が始まったのかは、外部から知るよしもありませんが、会社としてロボットの検討をオープンにしたのは、2021年度上半期決算説明(2021年8月13日)と思われます。

2021年度上半期決算説明より引用

このタイミングで配膳ロボット実験が行われていることが紹介されています。注目すべきなのは、まだロボットは絞られておらず、Softbank ServiKeenonPudu Bellabotの3種類を比較していたようです。ピークタイム売上、顧客満足度、生産性の効果検証をおこなったのが、21年度前半と推測されます。

ここからがめちゃくちゃ速いっ!!!

2021年10月

次の発表は、2021年10月18日の『「ガスト」「しゃぶ葉」1,000店以上にロボット導入』というタイトルのプレスリリース。

検討発表から2ヶ月後には、導入決定の発表です。リリースタイトルだけでは、「ガスト」「しゃぶ葉」1,000店に導入するのかと思って中身を見ると、正確には、

・2022年4月までに「ガスト」(約700店)や「しゃぶ葉」(全274店)を中心に約1,000店規模で導入
・22年末までにさらに「ガスト」(約600店)と他の業態(約400店)の約1000店舗で導入

ということで、『2000店に導入!!』をコミットしています。

また、プレスリリースを見ると、この段階では、ロボット導入の目的も完全に明確になっています。

プレスリリースより引用

顧客満足度は8割(ガスト・しゃぶ葉の7店舗(1670人))やピーク時間帯の歩行数は半減とシニアスタッフにも優しいなど事前の検討の結果もいくつか紹介されています。

2021年11月

電撃の2000店舗導入発表から1ヶ月後の11月12日の2021年度第3四半期決算説明では、具体的なデータや使い方が公開されています。

リリースで発表した2つの数字に関しては、詳細データが紹介されました。

・「実験店舗では約8割のお客様から高評価」の内訳が出されていて、感動が37%、満足が41%。
・「ピーク時の歩行数半分」に関しても、ガスト店内でのピーク2時間の料理提供スタッフの歩行数が5000歩から3000歩弱。

そして、2000という店舗数に加えて、『約2,200台』という台数に関してもオープンになりました。

2021年度第3四半期 決算説明資料より引用

そして、この発表内容の中で注目ポイントは、以下の図かなと思います。食べ放題しゃぶしゃぶ屋のしゃぶ葉では、初回は店員が運び、それ以降はロボットが運ぶという『ロボットの効果的な使い方』に関する検討や知見の蓄積が進んでいるということです。

2021年度第3四半期 決算説明資料より引用

2022年1月

すかいらーく公式ページでは確認できませんでしたが、21年10月の発表から3ヶ月後の22年1月末現在で340台(しゃぶ葉220台、ガスト120台)が導入されたというニュース記事が出ていました。3ヶ月で340台という猛烈なスピードです。

2022年2月

すかいらーく側からのオフィシャルな発表の場は、2021年12月期 通期決算説明会(2022年2月14日)。

この発表の中では、「DX を全社で推進し、全社の生産性を上げていくことは、コストプッシュの中、人件費が上がる中、必須」ということが、あらためて説明されるとともに、更にこれまでのロボット導入による効果データも共有されています。

2021年12月期 通期決算説明会より引用

このタイミングまでの導入された台数に関しては公開されていないものの、21年11月には2200台とされていた導入台数は、22年12月末までに『2149店舗3000台』と800台が上乗せされています。よっぼど使える!という確信があったのではないかと思われます。

効果に関しても、
・ランチピーク時の回転率改善:7.5%(ガスト)/3.5%(しゃぶ葉)
・歩行数削減:-42%(ガスト)/-49%(バーミヤン)
・片付け完了時間短縮:-35%(ガスト)/-40%(バーミヤン)
となっているようです。

業態によって回転率の差はありそうなものの、片付けも短縮され、回転率は上がるというのは証明された模様です。

また、この発表の中で面白いなと思ったのは、配膳ロボットの海外展開が始まったことです。このタイミングですでに台湾に27台が導入されているとのことで、中国製のロボットを日本で輸入し、使い方や効果を確認し、逆に海外に展開するという流れは、参考になるやり方かもしれません。

2021年12月期 通期決算説明会より引用

また、店舗内の配膳だけでなく、自社工場?セントラルキッチン?での搬送ロボットの実験も始まっています。一般人との共存環境でロボットを使ったユーザが、プロフェッショナルユースの搬送ロボットにも手を広げるケースがあるというのは、個人的には思っていたのとは逆で興味深かったです。

2021年12月期 通期決算説明会より引用

2022年4月

続く2022年4月1日に発表された「すかいらーくグループ統合報告書2021」の中では、

2022年度は約70億円のDX投資を予定しており、年内に、フロアサービスロボット約3,000台の導入、全店でPOSの刷新、一部店舗へのキャッシュレスレジの導入、操作性を改善したデジタルメニューブックの刷新が完了します。これにより、店舗の従業員の働く環境や生産性が飛躍的に改善されると同時に、お客様のお待たせ時間が解消されることで回転率の向上とお客様満足度の向上を実現します」

と宣言され、投資金額とともに、DXへの本気度が読み取れます。
一方で、

「しかしITデジタルは決して万能ではなく、お客様に必要とされるサービスはなにかを常に考え、気づき、行動できる人財を育てることが重要です」

という表現もされており、ITやデジタルを使ってきたからこその表現もステキだと思いました。

2022年5月

22年5月に開催された2022年度第1四半期 決算説明会(2022年5月13日)では、ロボットの導入進捗状況がアップデートされました。

22年4月末までに883店舗に1,257台を導入済み、とのことです。

21年10月に発表した時には、「2022年4月までに「ガスト」(約700店)や「しゃぶ葉」(全274店)を中心に約1,000店規模で導入」となっていたので、店舗数的には若干目標より遅れがあったのかもしれませんが、半年で1200台というペースは、まぁスゴイです。

そして、「12月末までに3,000台導入に向けてオントラック」という表現にあるように、最後は間に合わせるという自信と覚悟を感じます。

ちなみに、しゃぶ葉に関しては、「全店に導入済み(導入できない4店舗を除く)」となっており、予定通りやり切ったこともすごいですが、導入できないポイントを明確にできたということに価値がある気がします。

このような知見が、今後の店舗設計やオペレーションに反映され、更に使いこなしレベルが上がっていくのでしょう。

2022年度第1四半期 決算説明会より引用

一方で、このタイミングでは、メーカー側のPuduからもプレスリリースが出されています。基本的には同じ情報に加えて、ユーザーの感想が追加されてます。

この中では、納入企業が紹介されており、今回の案件は「東芝テック株式会社」が受けていることがわかります。

東芝テックは店舗のPOSなどのビジネスもされているようなので、その辺りとのシナジーも考慮してあるのかもしれません。

東芝テックのホームページを見ると、Pudu絡みでは、DFA社、SGST社などとの協業をしているようですが、すかいらーく案件は、DFAさんが絡まれているようです。Pudu、東芝テック、DFAなどの役割分担は分かりませんが、勝手に推測すると大変そうな取り組みであり、お見事なプロジェクトマネジメントです。

2022年11月

ここから半年はひたすら導入作業が推進されたのか大きな発表はなかったのですが、11月の2022年度第3四半期決算説明会(2022年11月11日)では、

10月末までに7ブランドに2,654台の導入が完了
日当たり約1時間の生産性向上効果
ということが発表されました。

2022年度第3四半期決算説明会より引用

また、このタイミングで、「しゃぶ葉にてネコ型ロボットによる食器返却実験を開始」したことを発表しています。

以前は従業員の方が回収していたようなのですが、配膳も下膳もロボットの棚の段数を使い分けることで、新しい皿と空いた皿の両方がテーブルにあり、手狭だったという状況を解消することができるようです。

4月に全店舗導入が完了されたしゃぶ葉では、導入で終わることなく、どのようにしたら更に改善ができるのかということで日々オペレーションが更新されていることがわかります。
素晴らしい!!!

これによりロボットの稼働を上げるだけでなぬ、お客様の利便性も高めることもできています。

この他にも、簡単操作の新POSも導入し、20分/日を創出するなど、DXそのものを引き続き積極的に推進していることもわかります。

2022年12月

いよいよ3000台導入をコミットした22年12月!!

12月21日、ホントにプレスリリースが出ましたぁ〜!!

内容としては、12月27日に 「ガスト」「しゃぶ葉」「バーミヤン」をはじめとする全国約2,100店舗に3,000台のロボットの導入を完了!!

素晴らしい!!

全然関係ない取り組みですし、どれだけの人が動いたかわかりませんが、関係者の方々に「おめでとう!!」と言いたいです。
2100の異なる場所に1年ちょっとで3000台を導入しきれるロボット製造、立ち上げ作業、オペトレ作業、トラブル対応作業などを想像すると、どれだけ完成度が高く、作業が簡単になっていたとしても、これだけの量をやり切るのは簡単なことではないはず。

そして、2月に発表されていた導入効果に関してもアップデートがされました。

顧客満足度に関しては、前回の8割から今回は9割に改善されています。
※前回は「ガスト」「しゃぶ葉」7店舗で実施(n数=1670)、今回は「ガスト」「バーミヤン」「ジョナサン」など67店舗で実施(n数=2,513)

諸々のKPIに関しても、ガストのデータが更新されて、
・ランチピーク回転率改善:2% ←7.5%(2021)
・歩行数削減:-35% ← -42%(2021ピーク時歩行数削減)
・片付け完了時間削減:-42% ← -35%(2021)
となっています。
特に、ランチピークの回転率は思ったより上がらなかったのかもしれません。

このプレスリリースで最も印象的だったのは、このフレーズ。

ロボット専任インストラクターが全店舗に出向き、お客様・従業員の声をもとにした改善活動を重ね、人とロボットが協働するサービス開発に力を入れております

これぞ、Robot Transformation (RX)のあるべき姿ですっ!!

すごいぞ、すかいらーく!!

この時系列をまとめると、こんな感じです。短期間でドンドン導入が進んでいることがわかります。

途中でも書きましたが、この取組みは、どの視点から見てもスゴイと思います。猛烈なスピードで意志決定をしていく「すからーく」ももちろんですし、それに対応するロボットを製造したPuduやインテグレータとして動いた東芝テックもたぶんスゴイ!(実際の役割分担はわからず推測です)

これは、今後の人手不足、原価アップに対する強い危機感から、なんとしても生産性を上げるという決意と、顧客のロイヤリティを高めるためのデータ収集と改善を「DX」というキーワードで纏めながら、中長期のコアとして設定し、愚直に推進したことがポイントではないかと思います。

統合報告書では、CEO、多くの幹部が自分の文脈に併せて、DXやロボットという言葉を使っているのが印象的でした。それだけ自分事化されているということでしょう。

そして、中国製ロボットを日本で使い倒し、逆にオペレーションとセットにして、アジアの店舗に戻すというのは新しい流れのように感じました。

その中で、多くのデータを取得し、リアルな効果を把握し、さらには導入を諦めたしゃぶ葉4店舗の知見なども有する「ロボット専任インストラクター」というポジションのメンバーを創出できたことは、かなりの強みになるのではないでしょうか。彼ら、彼女らの知見と、すかいらーくグループの持つ店舗設計力、オペレーション設計力が組み合わさり、それらが日々改善されることで、RXがより一層レベルアップされていくでしょう。

また、公式サイトではないのですが、12月の3000台導入完了のプレスリリースを掲載したサイトで、非常にグッとくるコメントが、飲食店でロボットと働いている一般の方からされていました。

このようなコメントです。

ITメディア リテール大革命のコメント欄より引用

現場レベルでみても、「まぁ助かる」存在から完全に「なくてはならない」存在になっていますね。

配膳ロボットに関しては、業界全体としては上手く行っている点も課題がある点もあるというような話も聞いたりしますが、現場の人から「ありがとう」と言って貰えるロボットは素晴らしいですねっ!!

長文を最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!
では、また来週~!!

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安藤健(@takecando)
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安藤 健/ロボット開発者
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