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「お腹が空いた」というのは五感なのか?から始まった感覚の体系化に向けたプロジェクト

「感性価値の高いプロダクトやサービスをロボット技術で作れるのか?」ということにチャレンジしている”Aug Lab”活動ですが、そもそも「感性」と何なのか?、「感覚」とは何が違うのか?というところは、分かっているようでわかりません。今回はそのあたりについてAug LabでNPO法人「ミラツク」さんと取り組んだ内容を考えてみたいと思います。

本件に関連したNPO法人ミラツクの代表理事 西村勇哉さんへのインタビュー記事は以下をご覧ください。

感覚の体系化

感覚は視覚、聴覚、触覚などいわゆる五感的なものでしょうし、感性というと感覚によって想起される想い、というような印象を個人的には持っています。では、『感覚はいくつあるのか?』。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の5つというのが一般的に言われているのは間違いません。それらに加えて、熱さとかを感じる感覚、自分のパーツがどこにあるのかということがわかる「固有受容性感覚」や平衡感覚などを追加しようという考え方もあるようですし、先日研究者の方と話していると50くらいはあるとも仰っていました。

学術的には受容体などの数とリンクしているのかもしれませんが、我々の活動ではあまり厳密な話をせず、例えば「お腹が空いた」というのは何なんだ?触覚か?そもそも感覚なのか?という話から始まりました。

そして、感覚というものに対して、自然科学的なアプローチに拘ることなく、可能な限り網羅的というか全体像を理解できるようにと言うことで、ミラツクさんの絶大なご協力の下、

「感覚の体系化」そして「感性価値の概念整理」

という壮大なテーマに挑んでみました。

結果は以下のような円環図として纏まりました。
ここでは、詳細な説明は省きますが、「身体的感覚」「生理的感覚」「外界への感覚」「精神的感覚」という4つの感覚に大別した上で、更に中分類として25個、小分類として78個に感覚を分けたという円環図になっています。会社の中では曼荼羅とも呼ばれていたりします。

ここで4つの感覚というのは以下のような内容で分けています。

身体的感覚:主に身体への直接的な刺激が感覚器で受容されることによって生じる感覚(例:五感)
生理的感覚:生物として本能的に備わっている、また生存のために良しとされる感覚(例:直感、安心感)
外界への感覚:外界の環境、状態、要素による刺激から生じる知覚とそれに伴う感覚(例:時間、モノ、場所から感じる感覚)
精神的感覚:外界との関係性によって構築される、主体がどう在りたいかをあらわす感覚(例:自己の在り方、おかしみ、畏敬)

例えば、精神的な感覚の中には、中分類として「自己の在り方」というものがあり、小分類として「環境から受ける影響」というような感じで深掘りされています。更には、円環図の周辺にはそれぞれの小分類を導き出すのに使った元文章の数々が書かれています。

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(引用:パナソニックHP

詳細なデータは以下から問い合わせ頂ければ提供するようにしたいと思います。

書籍とヒヤリングベースの取り組み

今回特徴的だったのは、そのアプローチ手法だと思います。とにかく書籍と有識者へのヒヤリングを徹底的にして頂きました。お願いする立場はお願いするだけである意味楽だったのですが、佐藤さんを始めとするミラツクの皆様には、本当に膨大な作業をお願いすることになってしまいました。感覚や感性について直接的に書かれている書籍はもちろん、感覚・感性が特に重要となるような武道や芸能のトップレベル方々の著書を数十冊読み込むと共に、関連するセンテンスを抽出して貰いました。その数は、数百、もしかしたら1000を余裕で超えていたかもしれません。さらにそれに加えて、花屋、ホテル、クリエータなど高い感性が要求される仕事の第一線で活躍されている方々約15名へデプスインタビューをさせて頂きました。(このインタビューはそれぞれで書籍にできるのではないかというくらい、面白い内容をそれぞれの方にお話し頂きました)

書籍は網羅性を上げるために、そしてインタビューはそれぞれを深掘りする、解像度を上げるという位置付けになるかと思います。

それらの大量の情報をグルーピングし、相互関係を検討しながら、纏められていったのが、4つの大別された感覚、そして75個の細かい感覚の要素です。

もちろん、ベストは尽くしたつもりではいますが、数ヶ月という限られた時間で纏めたものですので、本当に間違いが無いか、漏れがないかというと、決してそういう状態ではないですし、今後も継続的なアップデートが必要になってくるモノと思います。

円環図の使い方

一緒に作成して頂いたミラツク西村さんは、この円環図の使い方のアイデアとして、インタビュー記事の中で以下のように仰って頂いています。

情報としての分析、構造化はある程度はできたと思います。あとはどうアウトプットに結びつけるのか。例えば、こういう感覚を組み込んだ時に、普段の歩く、食べるといった行動にどんな新しい味付けができるのかをワークショップとしてやってみました。日常の行動に細かく分けた感覚を組み込んだら、ありそうでなかったものが出てくるのではないのかな、と思いました。その一方で、ある一定のテーマに注目するために、この感覚を深掘りしようと焦点を絞る。その結果ダメだったものにバツをつけて、感覚のどの部分がロボティクスや現状のテクノロジーと相性がいいのかを考える。このダメなところにバツをつけることが大切だと思います。

実際に、この円環図を使って社内の多部門と、そして社外のメンバーと何度かワークショップもやってみました。やってみた感想としては、「今日はこの感覚の視点で物事を考えてみよう」という考えのキッカケを作ったり、全体として出てきたアイデアを整理したりする際には、非常に便利であるというのは感じました。そして、おそらく既存のプロダクトやサービスを分析する際にも使えるだろうなという感じもします。

これから我々もしっかり活用していきたいと思いますし、他の方々にも使って貰えたらなとも思っています。

そして、改めて「ヒト」というのは多くの感覚を誰しもが持っているんだぁと思いました。そして、その感覚には人それぞれ強弱がある。その強弱はそれぞれの個性ともなっているはずですが、テクノロジーによってそれらの強弱を変化させることも可能になってくるはずです。そのようなことによりヒトの秘められた可能性を引き出すことに繋げられたらと思います。

謝辞

今回の円環図の作成に当たっては、佐藤様をミラツクのメンバーの方々に本当に多くの時間を割いて頂き、粘り強く、整理して頂きました。本当にありがとうございました。

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安藤 健/ロボット開発者
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