人と協働するロボットのエコシステムを作ったデンマークUniversal Robots社
最近、「どこで協働ロボットを使っているのか?」「協働ロボットを使う際に気をつけるべきことは?」など協働ロボットに関する質問を色々なところで頂きます。今回は、協働ロボットの分野で圧倒的なシェアを誇るUniversal Robots社について纏めてみたいと思います。イノベーションのジレンマを上手く活用しながらも、エコシステムを上手く作ったデンマークらしい会社なのかもしれません。
(業界の方には当たり障りのない内容かも)
協働ロボットとは?
「協働ロボットとは何なのか?」。一言で言えば、その言葉どおり、「人と同じ作業空間で動くロボット」と言えます。これまでの産業用ロボットは、安全確保のために、基本的には人とロボットは柵で隔離されて使われてきました。つまり、協働ロボットとは、柵がなくても人と同じ空間で作業を実施することが出来る新しいタイプのロボットということになります(※1)。
そんな「協働ロボット」に今なぜ注目が集まっているのか?
社会背景として、もちろん人手不足が挙げられます。人が不足し、これまでの産業用ロボットの主戦場である自動車や電気電子分野以外でもロボットが渇望されるようになりました。多品種少量生産となる部品組み立ての作業や、小規模ラインでのピッキング作業が必要な食品・化粧品・医薬品といった三品産業などです。このような多品種少量の生産ラインや小規模なラインにおいて必要とされたのが、これまでのような大型のロボットではなく、運べる重量が軽くても良いので、人と入り混じりながらでも動かすことができる小型な協働ロボットだったのだと思います。
ユニバーサルロボット社とは?
そんな協働ロボットの中で、圧倒的な強さを誇るのが2005年に南デンマーク大学発ベンチャーとしてデンマークで創業した「ユニバーサルロボット」です。
最近メディアでよく取り上げられている養老乃瀧でロボ酒場で使われている業界の方々にはお馴染みの関節の一部が水色になっているロボットです。
2008年に世界で初めて協働ロボットUR5を商品化して以来、シェア60%弱と圧倒的でして、販売台数は約40,000台と多くの現場で活用されています。従業員は約670名、グローバルに18ヶ国で展開もされていて、売上は2017年約190億円、2018年約250億円となっています。
まだまだ市場規模自体は小さいですが、2015年180億円、2016年360億円、2017年650億円と倍々で市場が膨らんでおり、2023年4800億円、2024年には8500億円、競合も約60社程度と言われる急成長の市場です。ユニバーサルロボット社自体も、2015年にテラダイン社に2億8500万ドルで買収されています。
ユニバーサルロボットが強い理由
私自身も、国内代理店となっている企業を訪問し、現物を見せて頂いたこともあるのですが、感想としては、ユニバーサルロボットを中心としたエコシステムとして出来上がっているなぁ、というものでした。
まずはハンド部分です。ユニバーサルロボット社自身はアームしか作っていません。アームの先に付けるハンド部は他のメーカが供給しています。私が見に行った代理店では、同じデンマークで2015年に設立されたOn Robot社がユニバーサルロボットに特化したインタフェースを有するハンドを「UR+」対応商品として複数種類提供していました。
「UR+」は、ユニバーサルロボット(UR)の協働ロボットと組み合わせて簡単に使用できるシステムです。ユニバーサルロボットのロボットアームの仕様やインタフェースを公開し、それらに準拠するハンドやカメラ、センサーなどの周辺機器をパートナーと呼ばれる会社が開発する。開発されたハンドなどをユニバーサルロボット社が「UR+」製品として認定し、グローバルでセット販売するという仕組みです。UR+製品は、URロボットを同じインタフェースで動きの設定ができるので、使う方としてはシステム構築などにかかる費用を削減できるというメリットがあります。この「UR+」にはグローバルで400社以上が参加していて、国内でもキヤノンを皮切りに、シナノケンシ、コスメックなど着実に参画企業を増やしています。まさにエコシステムと言えます。
そして、そのエコシステムを強固とするために、初心者でもウェブ上で簡単にシステムが組める「アプリケーションビルダー」をユニバーサルロボット社側が用意しているほか、裾野を広げる活動としてユーザ向けのEラーニングの無料提供やユニバーサルロボットのシステムインテグレータを養成・認定する活動も積極的に推進しています。
このような活動がユニバーサルロボットが人気になっている理由でもあります。冒頭に説明したように協働ロボットは、今まで産業用ロボットを使っていなかったユーザがターゲットになっている市場です。その多くが、今までロボットを自身で操作したことがない人です。そのような人が如何に使いやすいようにするのが、ポイントであり、売上を着実に伸ばしているのだと思います。
一方、日本企業は協働ロボットでは苦戦しているように感じます。安川、ファナックといった大手産業用ロボットメーカが参入しているものの、シェアはあまり獲得できていない状況です。原因は色々とあるかと思いますが、一言で表現すると、完全に「イノベーションのジレンマ」に陥ったということだと思います。先日亡くなられたクレイトン・クリステンセン教授が1997年に提唱された理論ですが、Wikipediaから引用すると以下のような現象です。
大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、カニバリズムによって既存の事業を破壊する可能性がある。また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまう
まさに既に1兆円産業である既存の産業用ロボットにとっては、数百億円の協働ロボットは魅力が小さく移るでしょうし、ターゲットとしている大企業のニーズとは違うようにも写っていたでしょう。(と思ったら、既に森山さんが指摘していました。詳しくは【こちら】を参照ください。)
改めて纏めてみると、イノベーションのジレンマが起きる大企業が手を出しづらい領域で勝負しながらも、エコシステムという多くの企業を巻き込んだ仕組みを作り上げるという、一見すると相反しそうなことを実感したことこそが、ユニバーサルロボットが成功した要因な気がしました。
デンマークが生み出すイノベーション
では、なぜそのような相反しそうなことが実現できたのでしょうか?
ここでもう一つ注目したいのが、ユニバーサルロボット社がデンマークの企業ということです。ロボットとデンマークの関係で真っ先に思い浮かんだのは、パナソニックにもお世話になった介護とか福祉向けのロボットです。特に2005~15年頃に複数の日本の介護・福祉ロボットがデンマークで実証実験を実施していた気がします。このときは、さすが北欧、福祉国家!としか思っていませんでした。
デンマークには福祉国家以外の面もあるようです。
・小国(色々試しやすい)、社会保障国家、民主主義国家であること
・ビッグデータが集積している
・オープンイノベーションが当たり前
このような特徴のある国としてのデジタル化(DX化)がかなり積極的に進められており、国民のデジタル技術に対するリテラシーも高いようです。政府や自治体もデジタルを絡めた新しい産業を興すために、エコシステムをしっかり作り、スモールスタートで様々な検証を推進しています。
ロボット分野ではオーデンセ市が積極的に推進しており、ユニバーサルロボット社が作られた南デンマーク大学をシーズの起点としながら、スタートアップ、ファンドなど技術も経営も一気通貫の支援を実現しているようです。このような仕組みって、仕組みとしてはあまりうまく回っているというのは見たことがないのですが、おそらく南デンマーク大学の研究テーマが秀逸に設計されているのだと思います。それが故に事業確度の高くなり、様々な循環が実現できるのではないかと。
(引用:経済産業省、ロボットを取り巻く環境変化等について、2019)
このような中からユニバーサルロボット社が輩出され、更にユニバーサルロボット社から自律移動で有名なMobile Industrial Robots(MiR)社が誕生するという好循環が起きています。そして、2022年にはこの2社でCobot HUB(協働ロボットHUB)をオーデンセに設立するとのことです。
アームと移動台車のそれぞれのトップカンパニーの融合、そしてそれらの周りに構築された1000社以上のパートナーによるエコシステム。
ますますデンマークからのロボット産業から目が離せなくなりそうですね。
では、また来週。
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※1:人と協働して動くロボットである協働ロボットは、決して購入して、使うだけでは、安全確保を実現できません。そもそも協働ロボットの活用が可能になったのは、2013年に労働安全衛生規則が改定されたことによるのですが、改定された後であってもリスクアセスメントをしっかりとすることが求められています。特に、協働ロボットの使い方に関する規格であるISO TS 15066の中では、接触可能性のある体の部位ごとに力の制限をすることが示されています。