オープンイノベーションと内発的動機
ちょくちょく大学講義やセミナーで話をさせて頂く機会があるのですが、今週は「オープンイノベーション」というテーマで話をさせて貰いました。このテーマで人前で話をするのはほぼ初めてです。人前で話すことの良いことは、そのテーマに関して自分なりに改めて考えるということです。というわけで、今回はオープンイノベーションについて考えてみて、結果としてタイトルに書いたように「内発的動機」がポイントになるという想いになったので、その内容を書いてみようと思います。
※いつものように詳しく調べているわけではないので、一般的には当たり前のこともあるかと思いますが、ご容赦ください。
オープンイノベーションとは?
オープンイノベーションとは、ハーバード大学のヘンリー・チェスブロウ教授が言われた言葉で、
組織内部のイノベーションを促進するため、企業の内部と外部との技術やアイデアの流動性を高め、組織内で創出されたイノベーションをさらに組織外に展開する
ことを指すようです。以下に詳しく書いてありましたので、興味ある人は是非ご一読頂ければと。
※参考:オープンイノベーション白書【PDF】。
※英語だと若干違うようですが、a paradigm that assumes that firms can and should use external ideas as well as internal ideas, and internal and external paths to market, as the firms look to advance their technology(Henry W. Chesbrough, “Open Innovation – the New Imperative for Creating and Profiting from Technology”, 2003)
対義語は「クローズイノベーション」、いわゆる自前主義なので、オープンイノベーションは、自分たちの組織以外とコラボレーションして、イノベーションを起こしていこう、という話です。昔からある「共同研究」とか「産学連携」というのも立派なオープンイノベーションだと思います。
私にとってのオープンイノベーション
では、私が現在どのようなオープンイノベーションをしているかというと、共同研究・共同開発という意味では複数あるのですが、代表的なものは「Robotics HUB」というものと、「Aug Lab」というのもがあります。
「Robotics HUB」は、革新的なロボティクスを高速に生み出す共創の場として設置しましたが、そもそも作ることに至った課題意識は、
● ロボティクスという分野が学際的な学術分野で有り、1社単独でカバーしきれるものではないこと
● 人手不足という社会課題が圧倒的に大きすぎる中で、ユーザや社会がロボットに求めるスピード感が途轍もなく早くなってきており、1社で全てをやっていては遅くなってしまうこと
というところがあります。つまり、自分たちのリソースだけでは足りないところ、もしくは解決できないところに対して、社外とコラボを進めることで、よりスピーディに、そしてより高い技術でロボットやソリューションを現場で使える形で提供していこうという取り組みになります。
一方、「Aug Lab」は、Augmentation技術でWell-beingに貢献していくことを目指した取り組みです。このような活動をオープンイノベーションでやろうと思ったのは、もちろん「Robotics HUB」のように不足している技術を社外から取り込むということもありますが、それ以上に
● 「Well-being」という自分たちにとって未知の概念に対して、自社だけではとてもではないけどアプローチできない
ということがあります。ヒトにとって何が「Well-being」なのか?何が幸せなのか?という問いに対して、純粋なテクノロジーという視点だけではアプローチできないという判断です。結果として、いわゆる社会科学・公衆衛生やクリエイティブなどを専門とされている方たちの積極的な知見を取り入れようとしています。そして、そのような方々をコミュニティとして繋いでいけないかと思っています。
オープンイノベーション1.0から2.0へ
「Robotics HUB」と「Aug Lab」のオープンイノベーションを比較すると、タイプが少し異なることが分かります。Robotics HUBの方は、足りない要素(技術)が明確になっており、そこを埋めるために社外をピースに探しに行っているのに対して、Aug Labの方は足りない要素すらよくわからないことに対して、解決すべき問題をハッキリさせるために社外の力を借りるというものです。また、前者が基本的には1:1の関係なのに対して、後者はネットワーク型(コミュニティ型)になっています。
これはどちらが良い悪いという話ではないと思いますが、扱う問題が違うのではないかと思います。課題が明確になっている場合には、1:1で課題に真っ向勝負した方がよいと思いますし、課題が明確になっていない場合には問題から課題に落とし込む作業も含めてコミュニティとして解決していった方がよいのでしょう。
最近は後者のようなコミュニティ型のオープンイノベーションが注目されているように感じますが、これは以下にも書かれているように、扱うべき問題が非常に大きく、難しいため、1:1では対応出来ないケースが多いんだと思います。
例えば、最近よく取り上げられているSUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(いわゆるSDGs)というのが典型例です。貧困をなくす、質の高い教育をみんなに、ジェンダー平等など17個の目標が設定されていますが、決して1:1で解決できる次元の内容ではないです。
まさにコミュニティとして解決していくような大きな問題で有り、リビングラボと言われるような住民など多くのステイクホルダーが参画したコミュニティで解決策を探り、検証していく必要があります。
このように1:1型のオープンイノベーション1.0からコミュニティ型のオープンイノベーション2.0に問いが移っていくと難しさも増していきます。もちろん、解決テクニックとしての難易度も上がってくるのですが、それ以上に多くのステイクホルダが存在する中では、マネジメント自体が難しくなってくるように感じています。1:1の時には課題も明確である意味トップダウンでもマネジメントは上手くいきます。一方で、コミュニティのような多様な価値観の中ではトップダウンではあまり上手く行くように思えず、どちらかというとボトムアップで活動を支える必要があるのではないでしょうか。もちろん、トップの想いはマストだと思いますが、コミュニティ内の複数の個人の「***がしたい」というような想いの数々があらゆる活動のベースになり、自己組織化的に回っていくんだと思います。
というわけで、これからのオープンイノベーションは個人の想い、内発的動機なくして上手く進んでいかないという想いにいたりました。
このようなことは調べて見ると内閣府などでも「ワタシからはじめるオープンイノベーション」として検討されているようです。企業としても個人の内発的動機をサポートできる環境作りが必要になってきそうですね。
では、また来週。
=================================
Twitter(@takecando)では気になったロボットやWell-beingの関連ニュースなどを発信しています。よければ、フォローください。