産ロボ業界をひっくり返す可能性のあるMujin
今回は久しぶりのロボット関連企業をネットサーベイしてみるシリーズ。iRobot、intuitive surgical、Universal Robotics、inahoなどに続く今回は、『Mujin』。産業用ロボットの汎用的なコントローラから始まったビジネスは、いまや大手物流企業などを相手にした自動化ソリューション企業と深化しています。
一体、何をやっている企業なのか?
ロボット業界にいる方は、もはや知らない人はいないと思われる「Mujin」。業界最大のイベントである国際ロボット展においても、かなりの展示エリアを構え、その展示のインパクトは間違いなくトップクラスです。
とは言え、一般の方への知名度はまだまだかと思われるので、ざっくりとどんな事業をしているのか見てみます。
もともとは、産業用ロボットを動かすコントローラを開発・販売している会社でした。特徴は、「どんなメーカーの産業用ロボットでも、1つのコントローラで、簡単に動かすことができる。しかも、それがかなり賢く動く」ということだと思います。
従来、産業用ロボットを製造の現場などで使おうとすると、1つ1つ作業を教え込んでいくティーチングという作業が必要でした。私もやったことがありますが、一言で表現すると、「面倒くさい」。動くポイント、通って欲しいポイントに対して、一カ所ずつ3次元空間上の座標を教え込んでいく必要があります。そして、その操作方法が各メーカごとに違う。もちろん、さらに、既存のロボットは、シーケンシャルな作業は得意な一方で、リアルタイムにセンシングしながら、アームを動かすシステムを作ろうとすると、かなり大変。というのが、おそらく現場レベルでのお困りごとだと思います。
それらのお困りごとを一気に解決し、「複数メーカのロボットを1つのコントローラで動かす」、しかも、「現実世界でロボットを動かそうとするときに問題となりやすい障害物、関節リミット、特異点、動力学を考慮しながら目的地に到達できるようにアーム動作を自動でプランニングしてくれる」というプロダクトで業界に参入しました。
もちろん、大変なことは死ぬほどあったかと思いますが、コントローラだけではなく、製造の現場で部品ピッキングと呼ばれる「重なり合う部品から正確に部品を認識し、決められた1つの部品を正確に掴む」という作業を自動化できるシステムを開発されています。
この辺りから事業がかなり拡大していると思われ、2015年にはアスクルと物流倉庫向けの自動化、2018年には中国JD.comの無人倉庫向けビジネス、2019年にはユニクロなどのファーストリテーリングのグローバルパートナーと、立て続けに大型のアライアンスが発表されています。
この過程の中で、物流倉庫の入荷、出荷のさまざまな現場で「モノを移し替える」作業を自動化するを実現する技術、スキル、ノウハウ、そして人材を獲得しており、それが一番最初に紹介した国際ロボット展のビデオのような総合的な物流自動化ソリューションを実現する企業に繋がっているのでしょう。
ホームページを見ても、入荷時の混載デパレタイザ(複数のモノを一気に入荷)、単載デパレタイズ(同じモノを複数個一気に入荷)、ピースピッキング(部品1つずつハンドリング)や出荷時の混載パレタイズ(複数のモノを1つの入れ物に積む)と「何でもござれ!」という感じです。
また、コントローラから始まったハードも、ロボットアーム、ハンド、ビジョンカメラも自社で開発になっており、さらに、アーム関係だけではなく、地面のQRコードを読みながら自動搬送を行うAGV(Automatic Guided Vehicle)、コンテナの縦移動・搬送するACR(Autonomous Container handling Robot)といった移動系のロボットもラインナップに加えるなど、文句なしの総合的なロボティクスソリューションカンパニーです。
ちょうど今週6/14に、ビジョン、コントローラの性能が引き上げられた最新のソリューションとして”Mujin Robot”が発表されています。
創業から成長へ
まさに右肩上がりで成長し、コントローラという1パーツからシステム化、ソリューション化と理想的なレイヤーアップを実現しているMujinですが、創業は2011年。
イスラエルのグローバル切削工具メーカーであるイスカル社の技術営業だった滝野一征さんとカーネギーメロン金出先生・東大稲葉先生の元で、そしてWillow Garageなどでモーションプランニングのトップロボット研究者として活躍していたRosen Diankov(出杏光魯仙)さんが創業者です。
2009年の国際ロボット展の出会い後、出杏光さんから滝野さんへのもうプッシュがあったという逸話もいろいろな記事で披露されていますが、たぶんノリというか想いが合ったと言うことなんでしょう。
創業時からのストーリは、オウンドメディアで丁寧に紹介されているので、是非興味ある人は読んでみてください。リアリティのある話も散りばめており、とても面白かったです。
そんな数ある逸話の中で、個人的に最も興味深かったのが、最初の顧客となったキヤノンとの2012年のやり取りです。
『Mujinは小さな創業間もない企業だったにも関わらず、革新的な技術を使うことを前向きに捉え、信じてくださり、一緒にプロジェクトをやりたいとおっしゃってくださいました。』
という表現で書かれていますが、これはなかなか凄いことだと想います。大手の中で、実績の無い企業を選択するということは、キヤノン側のかなりの目利き力、想い、一緒に作り上げていくんだという覚悟が必要です。受注金額はわかりませんし、キヤノンサイドには当然バックアップ策もあったと想いますが、キヤノンの先見性と覚悟というかリスクテイクをする姿勢に感服するとともに、そのようなユーザーを見つけ出すMujin側の能力、努力、そして、実際にやり切る意志と実力は、本当にスゴイと想います。
一年半に渡り、時には、というか勝手な予想ですが、ほとんどの時間は厳しい言葉を掛け続けながら、キヤノンは徹底的にMujinを鍛え上げたし、Mujin側はなんとか耐え切ったというか、やり切った。ただし、この一回のやりきりが、商品の完成度を現場に即した形で劇的に改善したんだと思います。
以前、このNoteでも、産業用ロボットがどのようにして一兆円企業になっていったのかというを書きましたが、このような初期段階のプロダクトは、一緒にリスクをとって、粘り強く、そして厳しく進めてくれるユーザーが必要不可欠です。
その後の成長は、「無人化」と「無尽蔵」を掛け合わせた会社として名付けられた「Mujin」という名前のごとく、1章で書いたように本当にスゴイ勢いスケールアップしていっています。
ビジョンとして掲げている
過酷な労働から人々を解放し、人類が創造性、技術革新、そして世界をより良くする活動に注力できる世界を実現する。
Liberate humans from manual labor to make them focus on creativity, innovation, and making the world a better place.
という内容に向かって引き続き、ばく進してほしいぁと想います。
(我々も負けないようにしないといけないです!だいぶ差を付けられていますが・・・)
そして、個人的にはMujinが掲げている7つのValueがとても好きなので、是非これも真似したいです。笑
勝手に課題を予測してみる
ちょっと話がズレてしまいましたが、今後の方向性とともに課題として出てきそうなことを勝手に考えみたいと想います。(単なる個人の感想ですので、無責任な発言です)
技術に関しては、人材獲得にもかなり力を入れているようなので、しばらくは課題になってはこないような気がします。もっともっとスケールし始めたときには課題になると想いますが、少なくとも数年は着実に深化していくんだと想います。特許をj-platpatでざっと見てみても、2020年国内61件、21年19件が公開されており、分類コードや発明名称を見るとソフトだけでなくハードを含めて積極的に出願がなされています。Google Patentsで見ると、457件という数字も出てくるので、外国出願もかなり積極的に推進しているものと予測されます。
人材面でいうと、パーツからシステム、ソリューションとレイヤーが上がれば上がるほど、業界の全体像、工程の全体像を理解し、提案できる人材が必要不可欠になってきます。おそらく、もうロボット回りのことだけ分っていれば済むという領域は過ぎてくるラインだと思われますので、物流や倉庫、サプライチェーンのシステム全体、ライン全体を語り、改善点も把握し、ERP・WMSなどの上位システムを含めたソリューションを提案・構築できる人材を育成、もしくは確保できるのかというのがポイントになってくるんだと思います。(既に沢山いたらスイマセン)
一方で、パートナシップ戦略をどうしていくのかなぁというのも気になるところです。ユーザ側の業務提携に関しては多くの発表がありますが、作り手側に関しては、モバイルロボットを他社調達していますが、それ以外はあまりニュースになっていません。Universal Roboticsがエンドエフェクタなどで多くの協業をしながら、エコシステムを使っているのとはかなり違う印象です。MujinとURでは、最初の事業の立ち位置が違うので、どちらが良いとかいう話ではありませんが、どちらの会社も使いやすさというものを追求しながら、違う戦い方をしているのは、興味深いところです。
今後ますますお客さんが増えて、ハードも増えていくと、予防保全などはクラウドも活用しながら進められますが、全国、全世界の保守体制はかなり重要な要素になってくるかと思います。また、案件によっては、インテグレータとして既存のSIerと完全にバッティングし始めてくると思いますので、既存のSIerとの関係性も含めて、今後の展開が楽しみです。
いずれにせよ、Mujinがこれまでの産ロボ業界の構図に大きなインパクトを与える可能性がある点には疑いの余地はありません。
今回色んな記事を読んでいて、事業としても人としても面白い企業だなぁと思いました。2019年頃から上場という話もちらほらでたりしているようですが、その際には是非、創業からの話を書籍化してほしいです。
では、また来週〜。
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安藤健(@takecando)
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