特別展「はにわ」 はにわの多様な世界【博物館オタ活日記#10】
20年間で100以上の博物館を訪れた、博物館オタ活日記案内人の荒井健です。
記念すべき#10(マガジン的には11本目ですが…)の今回は、東京国立博物館で開催中の「特別展 はにわ」について。多様な埴輪の世界を堪能してきましたので、そちらの様子をお伝えしていきます。
特別展 はにわ
特別展はにわは、埴輪の最高傑作とされる「挂甲の武人埴輪」が国宝指定50周年を迎えたことを記念した「埴輪」に関する展覧会です。巡回展となっており、東京国立博物館と九州国立博物館の2館で開催されます。
開催概要
さて、展覧会の概要はこれで終わりにしましょう。次に、展示されている作品をご紹介します!
(ここからネタバレです。ネタバレしたくない方は、ここで読むのをやめて、実際に訪れた後で確認してください。)
おかえり、踊る埴輪
会場に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、第1章「埴輪の世界」の幕開けを飾る「埴輪 踊る人々」、通称踊る埴輪です。古墳の石室を再現した空間の中で、2体の埴輪が並んでいます。この埴輪たちは、まるで古代から蘇った使者のように、訪れる人々を埴輪の世界へと誘います。
長らく解体修理のため展示から遠ざかっていたこの埴輪たちですが、修理を終え、美しい姿で再び私たちの前に現れました。その動きについては「踊っているのか、それとも馬を引いているのか」といった議論が今も続いていますが、どちらにしても唯一無二の存在感で、見る人を惹きつける魅力を放っています。
ちなみに、彼らの解体修理の様子は東京国立博物館のYoutubeで公開されていますのでそちらもぜひ見てみるといいかもしれません。
https://youtu.be/hTCQbDZrIc4?si=rPdt8sYzEEZ8PZsd
踊る埴輪を楽しんだ後、その奥へと進むと、次に待っているのは「埴輪」と深く結びついた「古墳」をテーマにしたエリアです。このコーナーでは、各地の古墳から出土した貴重な遺物が展示されており、それらを通じて古墳時代という時代の息吹を感じることができます。
最高水準の埴輪たち
第2章「大王の埴輪」では、当時の最高権力者である大王の墳墓から発掘された、古墳時代の技術の粋を集めた埴輪たちが展示されています。その壮麗さと技術の高さに、思わず目を奪われます。
展示の中でもひと際目を引くのが、約2.5mもの高さを誇る迫力満点の円筒埴輪です。一見するとその大きさに圧倒されますが、驚くべきは土の厚さがわずか2cm弱という点です。この薄さでこの大きさを実現する技術力には、古代の職人たちの熟練の技を感じざるを得ません。
さらに注目したいのが、日本最大とされる家形埴輪です。その荘厳な造りは、大王の威厳と権威を象徴するにふさわしいものです。
様々な造形の埴輪たち
第3章「埴輪の造形」では、中央政権の影響が薄かった地方で制作された、個性豊かな埴輪たちが紹介されています。これらの埴輪からは、地域ごとの特色や多様な文化が感じられ、古代日本の広がりを実感することができます。
円筒埴輪は、いわば埴輪の基本形ともいえる存在です。この展示物は、古墳の上に並べられていた典型的な円筒埴輪です。
群馬県の保渡田古墳群の八幡塚古墳では、実際に復元された円筒埴輪が並べられているので、ぜひ足を運んでみるといいかもしれませんね。
豊かな装飾と彩色、なんとも言えない顔が特徴の埴輪です。
船を模した埴輪もあります。航海用の船なのか、それとも、エジプトの太陽の船のように死者のたびの乗り物なのか、想像を掻き立てられます。
戦闘用の馬を模した埴輪で、旗が立てられた装飾が特徴的です。この埴輪は「蛇行状鉄器」の理解に重要な手掛かりを与えた存在でもあり、古代の儀式や戦闘文化を考える上で貴重な資料です。
国宝 挂甲の武人 揃い踏み
第2展示室に進むと、いよいよ本展のメインである第4章「国宝 挂甲の武人とその仲間」が始まります。
この章では、東京国立博物館が所蔵する武人埴輪の最高傑作、国宝「埴輪 挂甲の武人」を中心に、同じ工房で制作された国内外の挂甲武人埴輪が一堂に会しています。総勢5体が揃うこの展示は圧巻で、訪れる人々の注目を集めていました。
5体はどれも似ているようで、それぞれのディテールには微妙な違いがあり、じっくり観察するほどに興味が深まります。同じ工房で制作されたものとはいえ、個性が際立つ造形美に古代の職人たちのこだわりが感じられました。
みんな少しづつ違っていて、でもみんなすごく魅力的でかっこいいですよね。
また、東京国立博物館所蔵の国宝「埴輪 挂甲の武人」には、完成当初の色付き状態が再現されています。白い装甲が印象的で、当時の鮮やかな姿を想像させる美しさでした。
5体の影に隠れていましたが、もう一体の国宝「埴輪 挂甲の武人」も静かに展示されています。こちらは綿貫観音山古墳から出土したもので、特徴的な鎧が目を引きます。一見控えめな配置ではありますが、しっかりとその存在感を放っていました。彼を見逃さないようにしてくださいね…国宝ですし!
埴輪の多様性
今回の特別展で特に注目を集めるのは、修復を終えて再び姿を見せた「埴輪 踊る人々」や、武人埴輪の傑作たちが揃い踏みした「埴輪 挂甲の武人」でしょう。
しかし、私が特に心を動かされたのは、第5章「物語を伝える埴輪」の展示でした。そこには、多様なストーリーや役割を持つ埴輪たちが並び、埴輪の造形の幅広さを存分に感じることができました。
様々な役割の人たち
この章には、色々な役割を象徴する人の形をした埴輪が登場します。それぞれの埴輪のユニークな表情やポーズに注目です。
重要な意味を持つ家形埴輪
家形埴輪は、葬送儀礼と深く結びつき、王の魂が住む家として象徴されていました。
動物たちのパレード
動物を模した埴輪もまた、埴輪の多様性を象徴する存在です。馬や猪、鹿、鶏、魚などが一堂に並び、古代の人々が自然や動物とどのように向き合っていたのかを伝えています。
展示には少しユーモラスな作品もありました。その一つが「犬猿の円筒埴輪」。古墳時代に「犬猿の仲」という言葉はなかったはずですが、テーマの面白さに思わず笑みがこぼれました。今回の推し埴輪かもしれません。
最後には、明治天皇の陵に奉納されたものと同じ形で作られた現代埴輪「陵鎮護の武将」が展示されていました。精巧な作りと明治の時代背景を反映したこの埴輪は、古代とはまた違った趣を感じさせます。
本展の感想
埴輪と言えば、まず頭に浮かぶのは「踊る埴輪」や「挂甲の武人埴輪」でしょう。
しかし、この展覧会では、それらに加えて円筒埴輪や人、動物を模した埴輪、さらにはユニークなテーマを持つ埴輪など、実に多様な埴輪と出会うことができました。それぞれが持つ個性や背景を想像しながら眺めているうちに、埴輪の奥深い世界にどんどん引き込まれていきました。
特に印象的だったのは、埴輪の表面に感じられる土の温もりと、なんとも言えない埴輪独特の表情です。時代を超えて今に残るその顔立ちは、不思議と心を癒してくれるような感覚を覚えました。こうした感覚が、埴輪の持つ特別な魅力なのでしょう。
静かな空間で埴輪をじっと眺めていると、古代の人々の暮らしや想いが伝わってくるようでした。時間を忘れて見入ってしまったひとときは、非常に心地よいものでした。
展覧会を訪れたことで、埴輪がただの古代の遺物ではなく、そこに込められた祈りや生活の痕跡がしっかりと感じられる「メッセージ」であると実感しました。
もし興味を持たれた方がいれば、ぜひ一度足を運んでみてください。
埴輪の多様性とその魅力を、自分の目で見て、心で感じる価値がある展覧会だと思います!