メグマ・トゥ・メグマ
メグマという者がおりました。
基本的にはクマです。が、目が特徴的です。
なんとブラックホールになっているのです。
嫌な奴がいるとその目をクルクルと回し、吸い込んでしまうのです。
現在までに吸い込まれたのは、歩きスマホでぶつかっておきながら謝りもせずスタスタ進んでいった奴や、まだ火のついているタバコをポイ捨てした奴などです。
その他にも数知れず、メグマが嫌だと思った奴は吸い込まれました。
そして、メグマの目の中に光る星のひとつとなったのです
メグマは池のある公園で毎日花くばりをしております。
くばる花はそこらにはえている花です。実を言うと、ひとが大事に育てた花であったりもします…ただ、花を育てたひともメグマのあまりの無邪気さに注意できないようです。中には軽く注意するひともいるようですが、メグマは「なんのことかわからない」といったそぶりで口をポカンと開けたりするだけなのでした。(メグマはとっても都合のいいクマなのです!)
その日もメグマは花をくばっておりました。
そして手持ちの花が尽き、またそこらの花を摘もうとしたところ、花の先にトンボがとまっているのが見えました。
「あ、トンボだ…」
そしてメグマはトンボといえば定番のアレをやってみました。
そう、トンボの目の前で指をクルクルするアレです。
しかし、本当にトンボは目を回すのですかね…なんて間にメグマめっちゃ指回しております!!クルクルクルクルクルクルクルクル…トンボはたまにコロッコロッと顔を動かす程度でキョトンとしております…あ!ああ!!メ…メグマの目がクル…クル…クルクルクルクルクルクルクルクル!!!回っております…そして…バターンッッッ!!!!!
メグマぶっ倒れました!!!!!!!!!!
目は回し慣れてると思うのですが…無自覚に回ると駄目なのですかね…?
ああ〜凄い風が起こってきました。植物も池も荒れております。トンボは逃げました。
そして、いつもならここで嫌な奴が吸い込まれるのですが…
ああ!!!メグマのからだ浮いてます!!!!!…くの字になって…足が目に近づいて…
ずううぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
!!??メグマの目にメグマのからだが~~~~~~~~~~~………吸い込まれました …
そして…
消えた…
…
「ふぅむ…ここは何処なのだろう…?」
メグマは真っ暗闇の中に浮いていました。
「ふぅむ…あ!あれは…!!」
メグマの視線の先に人が浮いています。それはメグマの吸い込んだ歩きスマホ野郎と火つきタバコポイ捨て野郎なのですが、メグマはよく覚えていませんでした。
「人…かな…?」
まわりには無数の人が浮いていました。
意識がないのか全てを諦めているのか無表情で全く動かない者もいれば、怯え切った表情で喚き散らしジタバタしている者もいました。
その全てがメグマの吸い込んだ者たちなのですが、やはりメグマはよく覚えておらず「はて…」などと呟きつつ浮かんでいました。
しばらく浮いていたメグマは退屈になってきました。
メグマは進むことを決め「ぼく行くね!」と、まわりに浮いている者たちに聞こえるように言いました。けれど、誰も何も反応はありませんでした。
今更ですが此処は宇宙です。メグマの目は宇宙とつながっているのです。
そして宇宙ですので前も後ろもありません。が、メグマは何となく「此方だろう」という方へスイスイ進んで行きました。
途中、タコに近い形状の生き物が前からやって来たので、メグマは「お花どうぞ!」といつものように手を差し出しました。そしてそのとき、手持ちの花がもうないことを思い出しました。「思い出した」というよりは、完全に忘れてしまったので、そのとき初めて気づきました。
火星人は通り過ぎ、メグマはボーッとしてました。
少しくたびれたメグマは惑星のまわりの輪っかに腰下ろし、足をパタパタしつつ遠くを眺めました。ただただ遠く……そのうち、小さく小さくだけど青い球が見えた気がしました。
「あそこに行ってみよう。」
メグマはその青い球がある気がする方へ進み始めました。
青い球へ向かう途中、メグマのからだがぐうぅーーーーーと進む方向とは別の方へ引っ張られました。
「わわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」
びたーーーーーーーーん!!!
メグマは大きな大きな岩のようなものに引っ付きました。そして…ん?んんん???メグマがその中に吸い込まれ…
消えた…
メグマは中へ中へと吸い込まれていきました。不思議と視界はバッチリです。ただこれが肉眼で見えているものなのかはわかりません。
優しい蛍光灯のようなゼリーの中を強力に引っ張られていくようです。
気づくとメグマは止まっていました。
何処かにたどり着いたようですが、ゼリーの中にいる感覚は一緒です。ただ、とーーーーーっても広い場所のようです。
そして、そこにはいきものがいました。しかし、姿はありません。いえ、あるといえば確かにある…うーん…
「お花どうぞ!!」
…メグマはそう言ってお花を渡せないことをとても残念に思いました。
「さて、そろそろ行こうかな。」
メグマはここから出ようと向きを変え進もうしました。が、進めません。
「あれ〜〜??」
誰かに肩を掴まれて留められているようです。
「え〜〜〜、なんでどして〜~??…う~ん…ここはいいところだけれどさぁ~…お花がないんだもん。」
そうメグマが呟くとフッと肩が軽くなりました。そして透明なゼリーの中からプッと何かが飛び出しました。
メグマはそれを手で受け止め、よ~く見てみると小さな小さなミジンコのようないきものでした。
「あは、一緒に行く?」
そうメグマが聞くと、そのいきものは手足のようなものを高速でバタバタさせました。
「じゃあ、ここに乗っててね。」
と言って、ポイと頭の上に乗せました。
そして、「外に出る」ということだけが確かな状態で上も下も右も左もない道を進んでいきました。といっても身体に力をかける必要はありませんでした。寧ろ力を抜けば抜くほど速くスムーズに進んでいきました。
すっぽーーーーーーーーーーーーっん!!!!!!
思ってた以上に「出たな!」という実感がありました。
そしてそこには半人半馬のいきものがいました。
「やぁメグマ、私に乗っかっていきなさい。」
「え、ありがとう。」
「よくつかまっているんだよ。」
すごい速さで駆け抜けていきます。そして、あっという間に青い球がしっかり見えるところまでやってきました。
しかし、そこは鉄の塊などが飛び回っていてとても危険でした。
「う~ん…」
メグマは困ってしまいました。
「大丈夫だよ、私に任せて。」
半人半馬のいきものはそう言うと、弓矢を取り出しました。そして衝突しそうな鉄の塊を弓で払いのけながら進んでいきました。
「矢を射るほどのものではないよ。」
メグマは後ろから半人半馬のいきものの顔を見上げました。
そして、いよいよ青い球の目の前までやってきました。
「近くに見えるけどね、ここから先に進むのがとてもたいへんなんだ。」
半人半馬のいきものはそう言って矢を弓にかけ、力強く引っ張りました。
手を離すと、矢はものすごい勢いで放たれ、青い球を覆うぶ厚い層を突き破りました。
そして、そこにわずかな裂け目ができました。
「さぁメグマ、ここからはひとりだよ、いつまでも開いていないから…」
「うん!」
メグマはもう向かっていました。
「あれぇ!?」
半人半馬のいきものは驚きました。
「ありがとう!おじさん!!わすれないよ~~~~~~~!!!!!!」
メグマはそう叫びつつ、閉じていく裂け目を通り抜けていきました。そして、裂け目は完全に閉じました。
半人半馬のいきものは、少し寂しそうな表情で微かに笑っていました。
空から落ちていくメグマは、ここが「空」という認識も「落ちている」という自覚もなく「わはは〜〜〜!!」と笑っていました。
しかし地面らしきものが見えて「あれ?」と思いました。そして「う~ん、でも違うかな…」などと呟いていましたが、見えているものが完全に地面だとわかると突然「わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と慌て出しました。
どっぽ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!!!!!
ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく
…
ざばーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!
池の中からメグマがあらわれました。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……………………」
地面に倒れ込みました。
そしてそこはメグマがいつもお花をくばっていた公園でした。
「はぁはぁはぁはぁ……お……お…は……な……お花…が…ないーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なんということでしょう…たくさん生えていたお花がまっっったくありません。
お花だけでなく草や木も枯れ果てております。
「なんでぇ…どしてぇ…ぼくがお花ぜんぶ摘んじゃったから…???」
「ちゃうよ。」
「え!?」
何処からか声がしました。
ななめ下を見ると苔だらけの亀がいました。
「もしかしていまのきみ?」
「そだよ。」
「あは、ねぇ…どしてお花なくなっちゃったの?」
「まわりに背の高い建物が増えて日が当たらなくなったし、近くを行き交う車もあまりに増えた、地面はコンクリートで埋め尽くされて土は息をできなくなってしまった。」
「え、じゃあ僕がお花ぜんぶ摘んじゃったからじゃないんだね!」
「まぁ、そだけどやたらと摘んじゃ…」
「よかった~僕わるいこじゃなかった〜〜!」
「いや…んん~…」
「しっかし許せないなぁ……」
ぐるん
風が少し強くなりました。
ぐるんぐるん
枯れ葉が舞います。
ぐるんぐるんぐるんぐるん
池が揺れ水しぶきが上がります。
ぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるん
メグマの目が回っております。
亀は地面にガッシと踏ん張っております。
びゅおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
滅茶苦茶な風が吹き荒れます。
亀は頭と手足としっぽを引っ込めました。
風はますます強くなり、あらゆるものが宙を舞いました。公園の傍を通る車も、車道に敷かれたアスファルトも。
そしてそのときです、公園のまわりの高い建物にひびが入りバカバカバカバカ!!と折れました。
そして、車もアスファルトも折れた建物もメグマの目にぐるぐるぐるぐる~~~~!!!!!と吸い込まれていきました。
風がやみ、濡れた枯れ葉の散乱する公園にメグマは立ち尽くしていました。
…そして上から何かが降ってきて、メグマの頭に当たりました。
スコーン!!!
「いってぇっっ」
足元に転がったそれを見ると、あの亀でした。
「あは、…あいてててて…あはは」
メグマは頭をさすりながら笑いました。
亀はぬうっと頭と手足としっぽを出して話しました。
「やっぱりすごい風だね、けどお陰さんで苔が取れたよ。」
亀はピッカピカでした。
「あは、あはははははは…………けど………お花は戻らない…。」
メグマは地面に手をつきガックリうな垂れました。
そのときメグマの頭からピョコンと何かが飛び出しました。
「あれ~~~~きみはぁ!!」
それは宇宙のゼリーの中から出てきた小さなミジンコのようないきものでした。
「あは」
そのいきものは飛び跳ねて土の上に着地し、ジタバタジタバタ手足のようなものを動かしてどんどんどんどん土の中に潜っていきました。
「あら~~~~~~~~~~~~~??????_」
するとどうでしょう、公園の至るところから草が生えてきました。そして花が咲き始めました。
「わぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!お花だぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
枯れた木も瑞々しく元気な姿になり葉っぱも生えてきました。
そして、鳥や虫や両生類や爬虫類もやってきました。あまり町では見かないいきものたちも沢山やってきました。
自然の流れで公園でパーティーということになりました。買い出しは満場一致で駅から少し離れた小さなコンビニということになりました。
「あそこいいよね。」
「店員さんの感じもね。」
「お客さんも急いでないし。」
買い出しを済ませて公園へ戻り、みんなでビールやジュースやお茶を飲みながらレジ前に売っている焼き鳥や唐揚げを食べてわいわいやりましたとさ。
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