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「ライブしてぇな。」

「ライブしてぇな。」
と呟いて、エレキギターを手に取りドアを開けた。

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随分地下まで潜ったので地上に出るには時間が掛かるだろうと思ったが、そこは地上だった。

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しかし何かこう違和感があると思ったら、人がいない。生き物の気配が全くしない。
住宅、電柱、植物…見えるのは普通の景色なのだが、この世に自分ひとりになってしまったような…

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「僕が始まったとき 世界は終わっていた」

そんな言葉が浮かんだ。「ザ・バースデイかミッシェル後期のチバユウスケが叫びそうだな」などと思いながらも「意味深げでかっこいい」と思い、その場でギターを鳴らし歌ってみた。

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孤独でありながらも、ある意味自分は選ばれた存在であるように思え、気分が高揚した。
高揚した気分に反して、言葉はボトボトと地面に落ちた。

落ちた言葉を見て見ぬ振りし歩き進むと、猫が前を横切った。そして目が合った。

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「そうだよな、猫はいるよな」と猫だけはいることに妙に納得しつつ、私は猫に近づいた。
以前の私は雑念が多く、好意的な表情をして「チュチュチュ」と口を鳴らしても、勘の鋭い猫はたちどころに逃げてしまうのだった。
しかし、地下に潜り続けた現在の私は雑念が少なく、言わば「無」のような状態に近い為、猫も逃げずにいてくれるだろうと思われた。
けれどやはり猫は逃げた。いつもと寸分違わぬ警戒心であった。

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もう猫の姿も捉えられず、その場で呆然とした。

「チリチリン」ベルのような音が聞こえ、振り向くやいなや自転車に乗ったおっさんが私の傍を通りすぎた。買い物帰りのおばさん、軽トラック、鳥の鳴き声、電車の音…いっきに感知された。

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「あぁ、ひとりぼっちではなかったんだ。」
私は安心よりも「やっぱりな」という残念な気持ちが強かった。

そして私は昔からの友人と連絡を取り、会う約束をし、酒を飲み交わし、友人宅に泊まり、真顔でエロ話をし、次の日二日酔いになり、行きたかった展覧会には行かず、晴天の真昼のなか電車を二度乗り換え帰宅した。

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まだまだ気持ちが悪く、ソファ兼ベッドに着替えもせず倒れ、そのまま夜になった。

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バキバキに固まった身体を無理矢理起こし、帰りに買ったアクエリアス(黄色)を飲んだ。
そして昨夜の友人の発した言葉を思い出した。
「ライブしてぇな。」
その言葉を聞いた私は「ハッ」としたが、何故か聞こえない振りをし、詰まらない冗談を言って自分だけ笑っていた。

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