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みんなでつくろう!地球展:地球研オープンハウス2024 訪問記 03

2024年11月03日、総合地球環境学研究所(地球研)は地球研オープンハウス2024(以下同イベント,[1])を開催した。私も一般客として参加した。

 

「みんなでつくろう!地球展」で、地球研は今後の展示制作に活かすために、参加者が展示パネルに直接または貼り付ける付箋に感想や考えを書くよう促した(図03.01)。

図03.01.「みんなでつくろう!地球展」。


地球研は自己紹介をした。また、地球環境問題は、単純な解決策があるものばかりではなく、複合的な原因や、一方を解決すると新たな問題がうまれてしまう“トレードオフ”の関係などの複雑な因果関係があり、また多くの人の価値観が関わる“やっかいな”問題であることも伝えた(図03.02)。

図03.02.向かって右から、「地球研とは」と「なぜ地球環境問題は解決できていないのか?」。



第1章「じぶんと地球環境問題のつながり」で、「世界の水不足」、「生物多様性の損失」、および、「地球温暖化」が言及された(図03.03,図03.04)。

「世界の水不足」では、地球規模の水循環変動ならびに世界の水問題の実態と将来展望([2])、ならびに、世界初の仮想水貿易(Virtual Water Trade)の包括的・定量的算出([3])が紹介された。

なお、仮想水は、食料を輸入している国(消費国)において、もしその輸入食料を生産するとしたら、どの程度の水が必要かを推定したもので、アンソニー・アラン ロンドン大学東洋アフリカ学科名誉教授(以下敬称略)が初めて紹介した概念である([4])。

「生物多様性の損失」では、サプライ チェーン プロジェクトとSpatial Footprintが紹介された。前者は都市、企業、および、家庭の行動がグローバル サプライ チェーン(製品やサービスの生産過程)を通して、どのように様々な環境問題を引き起こしているのかを明らかにする研究である。後者は地理情報システム(Geographic Information System:GIS)とグローバル サプライ チェーンのデータを利用して空間上で環境フットプリントを可視化するものである([5],[6],[7])。

「地球温暖化」では、サプライ チェーン プロジェクト(5)、Spatial Footprint(6)、および、iPhoneアプリ「CarbonScope」([8],[9])が紹介された。

図03.03.向かって右から、「じぶんと地球環境問題のつながり」と「世界の水不足」。
図03.04.向かって右から、「生物多様性の損失」と「地球温暖化」。



第2章「人と自然の関係をとらえなおすには?」で、「先人たちは気候変動にいかに対峙してきたか」、「防災に自然を利用する地域の知恵」、および、「身近な自然の価値に気づく「地域の環境ものさし」」が言及された(図03.05,図03.06)。

「先人たちは気候変動にいかに対峙してきたか」で、気候適応史プロジェクトが紹介された([10])。

「防災に自然を利用する地域の知恵」で、Eco-DRRプロジェクト([11])、「地域の歴史から学ぶ災害対応 日本各地につたわる伝統知・地域知」([12])、および、自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価(Japan’s Assessment of land use based on Disaster Risks and Ecosystem Services:J-ADRES)([13],[14])が紹介された。

なお、Eco-DRRはEcosystem-based Disaster Risk Reductionという言葉の頭文字を取った言葉で、土地の生き物や環境を保護して、自然の持つ力によって災害による被害を防止または軽減させる取り組み・考え方のことである。近年、気候変動によって自然災害の更なる激甚化・頻発化が懸念され、注目が高まりつつある。

Eco-DRRの取り組みは全て、「災害を未然に防ぐ」、「災害の被害を受けやすい場所を避ける」、および、「災害の影響を軽減する」という3つの考え方のどれかに当てはまる([15])。

「身近な自然の価値に気づく「地域の環境ものさし」」で、栄養循環プロジェクトが紹介された([16],[17])。

図03.05.向かって右から、「人と自然の関係をとらえなおすには?」と「先人たちは気候変動にいかに対峙してきたか」。
図03.06.向かって右から、「防災に自然を利用する地域の知恵」と「身近な自然の価値に気づく「地域の環境ものさし」」。



第3章「どのような生き方を目指していくのか?」で、「地域の自立から、貧困と水銀汚染を同時に解決する道筋を探る」、「あなたが食べたい未来の給食は?」、および、「“未来人”の視点を取り入れるフューチャー・デザイン」が言及された(図03.07,図03.08)。

「地域の自立から、貧困と水銀汚染を同時に解決する道筋を探る」で、SRIREPプロジェクトが紹介された([18],[19],[20],[21])。

「あなたが食べたい未来の給食は?」で、FEASTプロジェクト([22])と給食 2050年([23],[24])が紹介された。

「“未来人”の視点を取り入れるフューチャー・デザイン」で、フューチャー・デザイン プロジェクトが紹介された([25])。

フューチャー・デザインは、現世代が将来可能性を最も発揮できるような社会の仕組みをデザインすること、あるいは、そのための学術研究と実践のことである([26])。フューチャー・デザインの一例として、給食のフューチャー・デザインが紹介された(図03.08,図03.09)。

図03.07.向かって右から、「どのような生き方を目指していくのか?」と「地域の自立から、貧困と水銀汚染を同時に解決する道筋を探る」。
図03.08.向かって右から、「あなたが食べたい未来の給食は?」と「“未来人”の視点を取り入れるフューチャー・デザイン」。
図03.09.向かって右から、「手順1:パスト・デザイン」と「手順2:フューチャー・デザイン」。


「みんなでつくろう!地球展」で紹介された研究は人類と自然環境の繋がりを考えさせるもので、「人類もまた地球の一部」であることを痛感させた。



参考文献

[1] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“地球研オープンハウス2024”.総合地球環境学研究所 ホームページ.イベント.2024年度.2024年11月03日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/events/detail/230/,(参照2024年11月09+日).

[2] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“世界水プロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.過去の研究.2006年度終了.地球規模の水循環変動ならびに世界の水問題の実態と将来展望.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/65/,(参照2024年11月11日).

[3] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“世界水プロジェクト(2002~2006年度)の初期プロジェクトリーダー沖 大幹 教授が水のノーベル賞「ストックホルム水大賞」を受賞”.総合地球環境学研究所 ホームページ.ニュース.2024年度.2024年06月14日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/news/detail/497/,(参照2024年11月11日).

[4] 環境省.“virtual water ホームページ”.https://www.env.go.jp/water/virtual_water/index.html,(参照2024年11月11日).

[5] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“サプライ チェーン プロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.過去の研究.2023年度終了.グローバル サプライ チェーンを通じた都市、企業、家庭の環境影響評価に関する研究.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/4/,(参照2024年11月12日).

[6] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所,学校法人 立命館 立命館大学.“概要”.SPATIAL FOOTPRINT ホームページ.https://www.spatialfootprint.com/about/ja,(参照2024年11月12日).

[7] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“【開催報告】第86回地球研市民セミナー・サプライ チェーン プロジェクト 食べものの足跡をたどると、生きものたちへの影響が見えてきた。”.総合地球環境学研究所 ホームページ.ニュース.2024年度.2024年08月09日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/news/detail/512/,(参照2024年11月12日).

[8] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“瞬時にわかる!企業ごとのカーボン排出量 〜環境にやさしい消費行動をサポートするiPhoneアプリ『CarbonScope』を開発〜”.総合地球環境学研究所 ホームページ.ニュース.2023年度.2023年11月30日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/news/detail/417/,(参照2024年11月12日).

[9] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 実践プロジェクト.“CarbonScope ホームページ”.https://www.carbonscope.com/app/ja/,(参照2024年11月12日).

[10] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“気候適応史プロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.過去の研究.2018年度終了.高分解能古気候学と歴史・考古学の連携による気候変動に強い社会システムの探索.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/33/,(参照2024年11月12日).

[11] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“Eco-DRRプロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.過去の研究.2022年度終了.人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/1/,(参照2024年11月12日).

[12] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“地域の歴史から学ぶ災害対応 日本各地につたわる伝統知・地域知”.総合地球環境学研究所 ホームページ.刊行物.その他の成果出版物.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/publicity/detail/338/,(参照2024年11月12日).

[13] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価(J-ADRES)~「災害からの安全度」と「自然の恵みの豊かさ」から日本全国の土地利用を評価~”.総合地球環境学研究所 ホームページ.ニュース.2022年度.2022年05月02日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/news/detail/32/,(参照2024年11月13日).

[14] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所,国立大学法人 東京大学.“J-ADRES自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価 ホームページ”.https://j-adres.chikyu.ac.jp/#evaluation-0,(参照2024年11月13日).

[15] 環境省.“Eco-DRR(エコ ディーアールアール)”.ecojin ホームページ.ecojin's EYE.2023年09月13日.https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230913.html,(参照2024年11月13日).

[16] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“栄養循環プロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.過去の研究.2019年度終了.生物多様性が駆動する栄養循環と流域圏社会-生態システムの健全性.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/31/,(参照2024年11月14日).

[17] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“栄養循環プロジェクトが淡海の川づくりフォーラム準グランプリ「専門知が農の未来を変えるで賞」を受賞”.総合地球環境学研究所 ホームページ.ニュース.2017年度.2018年02月16日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/news/detail/357/,(参照2024年11月14日).

[18] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“SRIREPプロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.過去の研究.2023年度終了.高負荷環境汚染問題に対処する持続可能な地域イノベーションの共創.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/5/,(参照2024年11月14日).

[19] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“【開催報告】第85回地球研市民セミナー・SRIREPプロジェクト 「文化は経済を超えられるのか?」水銀汚染問題の解決に向けて、インドネシアでの実践研究からみえてきたこと”.総合地球環境学研究所 ホームページ.ニュース.2024年度.2024年06月06日.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/news/detail/492/,(参照2024年11月14日).

[20] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“ニニとマキ 未来の選択”.総合地球環境学研究所 ホームページ.刊行物.その他の成果出版物.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/publicity/detail/355/,(参照2024年11月14日).

[21] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“ワヨ、また笑ってね”.総合地球環境学研究所 ホームページ.刊行物.その他の成果出版物.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/publicity/detail/356/,(参照2024年11月14日).

[22] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“FEASTプロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.過去の研究.2020年度終了.持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築 ─食農体系の転換にむけて.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/29/,(参照2024年11月14日).

[23] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“給食2050年 ホームページ”.https://kyushoku2050.org/ja,(参照2024年11月14日).

[24] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“未来の給食2050”.総合地球環境学研究所(地球研) ホームページ.動画.2022年02月18日.https://www.youtube.com/watch?v=4T1xAnqpOBo&t=193s,(参照2024年11月14日).

[25] 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所.“フューチャー・デザイン プロジェクト”.総合地球環境学研究所 ホームページ.研究活動.研究一覧.戦略プログラム.https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/detail/11/,(参照2024年11月14日).

[26] 高知県公立大学法人 高知工科大学 フューチャー・デザイン研究所.“フューチャー・デザインとは単なる仮想将来人を使ったワークショップ技法ではありません”.高知工科大学 フューチャー・デザイン研究所 ホームページ.フューチャー・デザインとは.http://www.souken.kochi-tech.ac.jp/seido/practice/information/about.html,(参照2024年11月14日).

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