医療ビッグ データの利活用:日本医学会総会2023東京 博覧会 コミュニティ クリニック 01
2023年04月22日、私は東京国際フォーラムを訪れ、一般客として、日本医学会総会 2023 東京 博覧会(以下2023博覧会)に参加した([1])。
2012年の情報通信白書によると、ビッグ データとは「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」と定義されている。ビッグデータの特徴として、データの規模、種類の多様さ、利用方法、および、リアルタイム性などの量的・質的な側面が挙げられる。
その中でも、医療ビッグデータは医療機関の情報を集めたもので、様々な医療提供に活用される。例えば新しい治療法や新薬の開発、患者にパーソナライズした医療の提供など、さらなる医療技術向上のために重要な役割を担っている。
なお、医療データの利活用には一次利用と二次利用がある。一次利用は医療機関が診療・治療などの本来の用途のために利用するものである。一方、二次利用は研究機関、行政、および、企業などが治療法などの開発や調査・統計の作成、政策立案などの本来とは異なる目的に利用するものである。
2018年に「次世代医療基盤法」が施行されたことで、医療ビッグデータの活用が積極的に行われるようになった。
医療ビッグデータには医療機関のレセプトや電子カルテ、健康診断の結果などが含まれ、これらのデータを分析することで、これまで以上に最適な医療提供が可能になる。
人工知能(Artificial Intelligence:AI)技術が発展したことも活用が促進される理由の1つである。医療ビッグデータは通常、情報を利用しやすい形に加工する必要がある。医師が作成したカルテには表記ゆれや書き間違いなどがあるため、分析前に表記の統一作業が行われる。こうした加工作業はこれまで人力で行われていた。しかし、近年はデータ サイエンス技術が発展したため、AIと連携することで医療ビッグデータの分析が効率的に行われるようになった。
AIなどの最新技術と組み合わせながら医療ビッグ データを活用することで、患者に適切な医療を提供する環境の構築が期待されています。データヘルス改革なども国策として推進されており、保健医療情報通信技術(Information and Communication Technology:ICT)サービスの普及やデータプラットフォームの整備が進められている。
医療ビッグ データは、電子カルテ、レセプト、診断群分類包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)、特定健診、臨床、調剤、ゲノム情報、画像診断や健康診断、特定健診、ならびに、検査結果などの膨大なデータで構成される。
医療ビッグデータ活用のメリットとして、病気の早期発見、客観的な診療、および、医療コストの削減が可能になる。
医療ビッグデータの活用事例として、パーソナル ヘルス レコード(Personal Health Record:PHR)ヘルス、予防医療、および、新薬開発が含まれる。
一方、医療ビッグデータの課題として、セキュリティ対策・プライバシー保護、データの標準化のための労力、および、人的リソースが必要となる。
医療ビッグ データの利活用によって、病気の早期発見や患者1人1人に個別化された適切な医療の実現が進む。医療機関にとっても事務負担の軽減や、客観的な診療の実現など多くのメリットがある。国策としても医療ビッグ データの活用が推進されており、今後もますます活用が進んでいくと予測される([2])。
「日本医学会総会2023東京 博覧会 コミュニティ クリニック」で、凸版印刷株式会社(以下凸版印刷)は医療情報分析・提供サービス「DATuM IDEA(デイタム イデア)®」を紹介した(図01.01,[3])。
DATuM IDEAは、次世代医療基盤法認定事業者との連携により収集された医療現場由来のリアル ワールド データを提供するものである。
顧客のニーズに応じて利用できるよう、Webツール サービス、解析・レポート サービス、および、データセット提供サービスの3つのサービスを提供する。また、各種医療機関や製薬企業、医療機器企業をはじめとした国民の健康に資する事業において、活⽤が期待されている。
凸版印刷と株式会社ヘルスケア コンサルティング(以下HCC)は2022年06月に業務提携を締結し、電子カルテ データに関する解析研究プロジェクトを共同で推進している。
2023年06月30日、凸版印刷とHCCはその成果として、電子カルテ データを用いて膵がん早期診断の一助となる予測因子を解析した論文を2023年05月末日に共同発表したことを発表した。次世代医療基盤法において、認定匿名加工医療情報作成事業者である、一般財団法人 日本医師会医療情報管理機構(J-MIMO)が保持する医療ビッグ データの臨床的意味を解析した初めての論文となった。
本論文は、膵がんにおいて、早期診断の予測因子として機能する可能性のある因子について機械学習モデル(ニューラル ネットワーク)を用いて探索的に抽出することを目的として実施したものである。
膵がんとその他の消化器がんを対象として、凸版印刷が提供する医療情報提供サービス「DATuM IDEA®」の電子カルテ データベースのデータを使用し、膵がんの診断に影響を与える比較的重要な変数を抽出したうえで、膵がんの危険因子であるかどうかを評価した。
結論として、急性扁桃炎、1型インスリン依存性糖尿病、女性生殖器がん、および、その他の呼吸器疾患などが関連要因として検出された。但し、これらの予測因子の臨床応用可能性は、今後の研究で検証される必要がある([4])。
私は医療ビッグ データだけでなく、DATuM IDEA®を用いる凸版印刷の最新鋭技術や取り組みを知ることができた。
これからも、凸版印刷などによる医療ビッグ データの利活用の普及に期待したい。
参考文献
[1] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2024年01月08日).
[2] リードプラス株式会社.“医療ビッグデータとは? 活用事例や将来の展望を解説!”.デジタル社会実現ラボ ホームページ.ブログ.医療・介護.2023年07月31日.https://www.digital-innovation.jp/blog/healthcare-big-data,(参照2024年01月16日).
[3] 凸版印刷株式会社.“DATuM IDEA(デイタム イデア) ホームページ”.https://datumidea.jp/,(参照2024年01月16日).
[4] TOPPANホールディングス株式会社.“凸版印刷とHCC、電子カルテデータを用いた膵がんに関する論文を発表”.TOPPANホールディングス ホームページ.ニュースルーム.2023年06月30日.https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2023/06/newsrelease230630_1.html,(参照2024年01月16日).