4-4.海洋汚染対策、海の生物由来の素材で作る 海洋生分解性材料、持続可能な漁業のための漁獲規制、日本における持続可能な漁業への挑戦、持続的な海洋利用 栄養塩と生産力、海のカーボン ニュートラル、および、[コラム]教えて! 田島先生ビーチ・オーシャン クリーン アップ大作戦!:特別展「海 ―生命のみなもと―」見聞録 その18
2023年08月12日、私は国立科学博物館を訪れ、一般客として、特別展「海 ―生命のみなもと―」(以下同展)に参加した([1])。
同展「4-4.海洋汚染対策、海の生物由来の素材で作る 海洋生分解性材料、持続可能な漁業のための漁獲規制、日本における持続可能な漁業への挑戦、持続的な海洋利用 栄養塩と生産力、海のカーボン ニュートラル、および、[コラム]教えて! 田島先生ビーチ・オーシャン クリーン アップ大作戦!」で、ハイパースペクトルカメラによるマイクロプラスチックの自動分析、内海の栄養状態の変化、および、ブルー カーボンが言及された。また、海の生物由来の素材でつくられる海洋生分解性材料、漁獲可能量(Total allowable catch:TAC)制度の魚介類商品、Wind Hunter号の模型、DASH海岸のジオラマ模型、ならびに、「海ゴミバードくん」と「海ゴミモンスターくん」が展示された([2]のp.174-187)。
株式会社 アペックス(以下アペックス)は、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)が取り組む海洋プラスチック汚染に関わる研究開発に、アペックスが持つコーヒー抽出器のノウハウを提供している。JAMSTECは、文科省の委託を受けて、ハイパースペクトルカメラによるマイクロプラスチックの自動分析手法の構築を進めており、海洋マイクロプラスチックのデータを効率よく取得するための技術開発を進めている。
海底広域研究船「かいめい」による海洋プラスチック汚染調査が2022年末から2023年初にかけて行われた。今回の調査航海では、アペックスの技術が活かされたマイクロプラスチック自動分析装置の試験運転が実施された(図18.01,[3],[4])。
また、株式会社 島津製作所([5])や株式会社 堀場製作所([6])も、マイクロプラスチック分析に関わっている。
セルロースは生物がつくる物質(バイオマス)のうち地球上で最も量が多いとされている。植物の細胞壁に含まれ、私達の身の回りの紙やコットンなどはこのセルロースでできている。セルロースは陸上から流れ着いた木片などとして、海でも見つけることができる。こうした木片において、生物が開けた穴が多く開いていることから、セルロースは海洋生物の栄養となる。また、セルロースはホヤ類がつくることも知られている。
このセルロースを使って、透明なコップをつくることができるようになった。見た目はプラスチックそっくりだが、成分は紙コップと同じである。さらに、冷たく暗い深海の底でもバクテリアなどの微生物によって分解されることが分かった(図18.02,図18.03,2のp.176,[7])。
キチンは、セルロースの次に多く存在するバイオマスとされている。海にはカニなどの甲殻類の外骨格にキチンが含まれている。さらに、深海にすむハオリムシは、キチンからできた丈夫な管状の住まいを作る。
このキチンを使って、ハオリムシの棲管(せいかん)そっくりのストローを作れるようになった。このストローは棲管のように丈夫でありながら、セルロースよりもさらに早い速度で微生物によって生分解される(図18.04,図18.05,2のp.177,7)。
ポリヒドロキシアルカン酸(Polyhydroxy alkanate:PHA)は微生物が体内に生産するバイオプラスチックの一種であり、生物が貧栄養時に備える炭素やエネルギーの貯蔵物質である。生分解性や生体適合性などの特性を持つことから、PHAは石油由来のプラスチックの代替材料として注目を集めている([8])。
このPHAを用いて、海で分解する非常に丈夫な糸を作ることができる(図18.06,2のp.177,[9])。
そして、PHAなどの様々な生分解性プラスチック(ポリ乳酸を除く)が、水深や環境の異なる日本近海の5地点の深海底(757 m~5,552 m)のいずれでも、微生物により分解されることを、世界で初めて明らかになった([10])。
日本の水産資源管理においては、「漁業法」等による公的規制と併せ、漁業者の間で、休漁、漁獲物の体長制限、操業期間・区域の制限等の自主的な資源管理が行われてきた。
平成03(1991)年度からは、資源管理型漁業推進総合対策事業の下、キンメダイ等の広域回遊資源について国や地方公共団体、 漁業者組織が一体となった管理の取組が行われるようになった。
さらに、平成14(2002)年度から、減少傾向にある魚種について、幅広い範囲の関係漁業者、都道府県、国等が協力して、漁獲努力量の削減(減船や休漁、網目規制等)を計画的、総合的に行い、その回復を図ろうとして、国や都道府県が策定する「資源回復計画」が開始された。これは、漁業者の自主的な取組を国や県の公的な管理枠組みの中に整合的に取り込んだものである。
平成23(2011)年度からは、国および都道府県が、水産資源に関する管理方針とこれを踏まえた具体的な管理方策をまとめた「資源管理指針」を策定し、これに沿って、関係する漁業者・団体が、管理目標とそれを達成するための公的・自主的管理措置を含む「資源管理計画」を作成・実践するという資源管理体制が導入された。漁業者がこの制度の下で計画的に資源管理に取り組むことを促すため、「資源管理・漁業所得補償対策」を講じた。
また、日本では平成08(1996)年の「国連海洋法条約」の批准に際して「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」(以下「TAC法」)が制定され、平成09(1997)年01月から同法に基づく漁獲可能量(Total allowable catch:TAC)制度の運用が開始された。TAC制度は、魚種別に1年間の漁獲量をTACとしてあらかじめ定め、漁業の管理主体である国及び都道府県ごとに割り当て、それぞれの管理主体が、漁業者の報告を基に割当量の範囲内に漁獲量を収めるよう漁業を管理する制度である。
TAC制度の対象魚種である「特定海洋生物資源」(以下「TAC魚種」)として、採捕数量および消費量が多く、国民生活上又は漁業上重要な魚種、または日本周辺海域で外国漁船による漁獲が行われている魚種を中心にサンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ、サバ類およびズワイガニの6魚種が指定され、平成10(1998)年にスルメイカが、平成30(2018)年にはクロマグロが追加された(図18.07,[11])。
商船三井グループは「Wind Hunter」プロジェクトに取り組んでいる。
Wind Hunterは強風時に、帆で風を受けて船を推進する。その間に水中のタービンが回って発電し、水素を生産する。水素はメチルシクロヘキサン(Methylcyclohexane:MCH)として、タンクに貯蔵され、風が弱いときにはその水素を使って燃料電池で発電する。そして、電動プロペラを回して推進する。すでに長崎県の大村湾でヨットを用いた実証実験が完了した。次の段階としては、複数の帆を備えた全長60~70m級の水素生産船を2024年以降に建造する予定である。Wind Hunter号は風の強いエリアを探索して最適な航路を導き出し、風を受けながら航行する。まさに動く水素生産プラントとして機能する(図18.08,[12],[13])。
2011年08月末のお台場海浜公園の海中は、例年と同様、水は濁り、貧酸素水塊の影響を受けて海底は白色のバクテリア マットに覆われ、貧酸素や硫化物の影響で斃死したと見られる生物(例.アサリ)の死体が多く見られた(図18.09,[14])。
また、2017年06月19日午前08時頃から、千葉県沖の東京湾で約15 kmにわたって、帯状の青潮が目撃された。なお、青潮の発生機序は、以下の通りである(図18.09,[15])。
1.赤潮に代表される大量の植物プランクトンは発生した後、沈降し海底に沈む。
2.バクテリアが沈降したプランクトンを分解しようとするために、大量の酸素が失われる。
3.硫化水素を含んだ貧酸素水塊(一般に溶存酸素濃度が約3 mg/L以下となる状態)が形成される。
4.この貧酸素水が強い風などによって湧昇して、硫化水素と海水の酸素が反応すると、エメラルド色に変色し、青潮と呼ばれる。
栄養塩類(窒素、リン等)は、海藻類の成長や、魚類や二枚貝の生産を支えるプランクトンの増殖に必要となるものである。
近年、瀬戸内海等においては、流入する栄養塩類の削減が進んできた中、栄養塩類の減少等がノリの色落ちや魚介類の減少の要因となっている可能性が示唆されている。
このようなことから、栄養塩類については、海底耕耘(こううん)や下水処理場の能動的運転管理等による供給を含む管理に向けた取組が行われており、これに資する科学的知見が求められている(図18.09,[16])。
沿岸・海洋生態系に取り込まれ、そのバイオマスやその下の土壌に蓄積される炭素のことを、ブルー カーボンと呼ぶ。2009年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」において定義され、吸収源対策の新しい選択肢として世界的に注目が集まるようになった。ブルー カーボンの主要な吸収源としては、藻場(海草・海藻)、干潟等の塩性湿地、および、マングローブ林があげられ、これらは「ブルー カーボン生態系」と呼ばれている。
ブルー カーボン生態系には、CO2吸収源としての機能以外にも様々な価値がある。たとえば、水質浄化機能や水産資源の活性化、ならびに、教育・レジャーの場の提供など、私達の生活に多くの恩恵をもたらす。ブルー カーボン生態系の保全活動を推進することが、地球温暖化の防止のみならず、生物多様性に富んだ豊かな海を醸成し、ひいては私達の豊かな生活に繋がる(図18.09,[17])。
DASH海岸もまた、ブルー カーボン生態系の保全・回復活動の1つである(図18.10,[18])。
2023年05月21日、「森里海つなぐプロジェクト」の一環として、東京ガスは日本テレビ グループと共同で、横浜市金沢区でアマモ場再生活動を実施した([19])。
神奈川野生動物救護連絡会は「海ゴミモンスター君」と「海ゴミバード君」を展示することで、海ゴミ問題を啓発した(図18.11,[20])。
本記事を書く過程で、私は海洋汚染の現状とその対策を学ぶことができた。そして、「人間が引き起こした海洋汚染を解決できるものは人間だけである」と深く考えるようになった。
私はまず「ゴミをきちんとごみ箱に捨てる」ことや「余計なものを買わない」ことを実践している。
一方、時間に余裕のある方はとりあえず、河原や海岸でごみを拾ってください!
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参考文献
[1] 特殊法人 日本放送協会(NHK),株式会社 NHKプロモーション,株式会社 読売新聞社.“特別展「海 ―生命のみなもと―」 ホームページ”.https://umiten2023.jp/policy.html,(参照2024年04月03日).
[2] 特別展「海 ―生命のみなもと―」公式図録,200 p.
[3] 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC).“JAMSTECの取り組み”.JAMSTECが挑む海洋プラスチック問題 トップページ.https://www.jamstec.go.jp/ocean-plastic/j/page03/,(参照2024年04月13日).
[4] 株式会社 アペックス.“サスティナビリティ レポート 2023”.アペックス ホームページ.環境への取り組み.https://www.apex-co.co.jp/resources/files/env_2023.pdf,(参照2024年04月13日).
[5] 株式会社 島津製作所.“マイクロプラスチック”.島津製作所 ホームページ.分野別ソリューション.環境.https://www.an.shimadzu.co.jp/industries/environment/microplastics/index.html,(参照2024年04月13日).
[6] 株式会社 堀場製作所.“マイクロプラスチック分析事例”.堀場製作所 ホームページ.技術情報.ラマン分光.ラマン分光の原理.ラマン分光技術情報.https://www.horiba.com/jpn/scientific/technologies/raman-imaging-and-spectroscopy/technical-paper-jp/microplastic-analysis-jp/,(参照2024年04月13日).
[7] 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC).“JAMSTEC探訪 「木」や「カニの殻」由来の代替素材で、海洋プラスチック問題に挑む!――「海洋生分解性素材」開発奮闘記”.JAMSTEC BASE トップページ.読む・知る.記事.がっつり深める.2024年02月22日.https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/explore-20240222/,(参照2024年04月13日).
[8] 国立研究開発法人 理化学研究所.“高分子量バイオプラスチックを生産する海洋性の光合成細菌-生分解性や生体適合性を持つプラスチックの実用化へ前進-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2016.2016年08月18日.https://www.riken.jp/press/2016/20160818_2/,(参照2024年04月13日).
[9] 国立大学法人 東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 バイオマス化学講座 高分子材料研究室.“自然環境中で分解する繊維~微生物産生ポリエステル繊維の作製と酵素分解性~”.高分子材料研究室 ホームページ.業績.2019年.https://www.fp.a.u-tokyo.ac.jp/lab/polymer/common/pdf/2019/20190310fiber.pdf,(参照2024年04月13日).
[10] 国立大学法人 東京大学 大学院農学生命科学研究科・農学部.“生分解性プラスチックは深海でも分解されることを実証 ――プラスチック海洋汚染問題の解決に光明――”.東京大学 大学院農学生命科学研究科・農学部 ホームページ.研究成果.2024年01月26日.https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20240126-1.html,(参照2024年04月13日).
[11] 水産庁.“(2)我が国の資源管理”.水産庁 ホームページ.水産白書.令和2年度 水産白書 全文.令和2年度 水産の動向.第1部 令和2年度 水産の動向.第3章 水産資源及び漁場環境をめぐる動き.https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r02_h/trend/1/t1_3_2.html,(参照2024年04月14日).
[12] 株式会社 商船三井.“BLUE ACTION 004 WIND HUNTER 風と水素で、未来をつくれ。”.商船三井 ホームページ.BLUE ACTION MOL.https://www.mol.co.jp/bam/004/,(参照2024年04月14日).
[13] 千代田化工建設株式会社.“SPERA水素システムについて”.千代田化工建設 ホームページ.事業紹介.SPERA水素TM 千代田の水素サプライチェーン事業.https://www.chiyodacorp.com/jp/service/spera-hydrogen/innovations/,(参照2024年04月14日).
[14] 学校法人 東邦大学 理学部 東京湾生態系研究センター.“2011年8月のお台場海浜公園(東京港水中生物研究会)”.東邦大学 理学部 東京湾生態系研究センター ホームページ.東京港生物調査.http://marine1.bio.sci.toho-u.ac.jp/tokyobay/daiba/daiba1108-1.html,(参照2024年04月14日).
[15] 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST).“資料 2017年6月に東京湾奥で発生した大規模な青潮の概要と衛星データ取得状況”.J-STAGE トップページ.日本リモートセンシング学会誌.37巻(2017)4号.書誌.https://www.jstage.jst.go.jp/article/rssj/37/4/37_373/_article/-char/ja,(参照2024年04月14日).
[16] 水産庁.“栄養塩類対策に関する研究”.水産庁 ホームページ.分野別情報.https://www.jfa.maff.go.jp/j/sigen/230614_23.html,(参照2024年04月14日).
[17] 環境省.“ブルー カーボンに関する取組み”.環境省 ホームページ.政策.政策分野一覧.地球環境・国際環境協力.地球温暖化対策.https://www.env.go.jp/earth/ondanka/blue-carbon-jp.html,(参照2024年04月14日).
[18] 日本テレビ放送網株式会社.“DASH海岸”.ザ!鉄腕!DASH!! ホームページ.https://www.ntv.co.jp/dash/contents/coast/,(参照2024年04月14日).
[19] 東京ガス株式会社.“CO2を吸収する「ブルーカーボン」に注目◆アマモ場再生活動を日本テレビグループさまと共同実施”.東京ガス ホームページ.東京ガス グループ トピックス.2023年06月08日.https://www.tokyo-gas.co.jp/letter/2023/20230608.html,(参照2024年04月14日).
[20] 神奈川野生動物救護連絡会.“特別展 「海―生命のみなもと―」 国立科学博物館”.神奈川野生動物救護連絡会 ホームページ.活動記録.2023年12月30日.https://wl-qgoren.main.jp/record.html,(参照2024年04月14日).