日本代表17年目の進化|竹内公輔
「NTC(ナショナルトレーニングセンター)には
もう二度と来ないと思ってたのに
また来ちゃいましたね。」
何度も代表合宿で通い詰めた場所だ。
「帰ってきた」という表現が
正しいかは分からないが、
表情には少しだけ笑みが溢れていた。
2004年、大学2年で初招集されてから17年。
36歳になった竹内公輔が、
トム・ホーバス新ヘッドコーチ率いる
日本代表候補選手に選出された。
11月22日に行われたオンライン会見では
「辞退」も考えたという
代表合宿参加への経緯を語った。
〔11月22日 竹内会見〕
「年齢的にも
ちょうど良いかはわからないですけど、
そろそろ"そういう時期"なのかなって
自分で決めていた。
勝手に自分で決めつけていただけなんですけど。
いろんな人にもう一度見たいと言ってもらった。
ファンの方々やスポンサーの方々から
応援してもらって
僕たちは給料をもらってるわけで、
もっと応援してくれる人のために
日の丸をつけたいと改めて思いました。」
今夏の東京オリンピックは直前の選考で落選。
年齢的にも1つの区切りとして考えていたが、
迷っていた背中を押したのは
自分を必要としてくれる周りの声だった。
あの、さいたまスーパーアリーナの光景
過去に何度か、竹内を取材をした事がある。
2019年9月。
W杯の2次ラウンドが行われた中国・東莞。
2021年3月。
天皇杯を準優勝で終えた翌週。
W杯は異国の僻地での戦い、
昨季の天皇杯はコロナ禍での入場制限中。
いずれも
ファンが満員の状態で戦うことができなかった。
だからなのか、
取材時には決まって"ある光景"を回想しながら
ファンの存在の大きさを語っていた。
「さいたまスーパーアリーナの
"あの光景"は本当にすごかった」
"あの光景"とは...
2019年のW杯直前、
さいたまスーパーアリーナで行われた
強化試合である。
その年の6月に、
日本人初のNBAドラフト一巡目指名を受けた
八村塁が出場する事もあって、
会場は連日
20,000人近いファンで埋め尽くされた。
10代から日の丸を背負い、
全くスタンドが埋まらない
日陰の時代も見てきた竹内にとって、
満員で埋め尽くされた"あの光景"は
日本バスケの発展、
そして支えてくれる存在の有り難みを
改めて実感した瞬間だったのかもしれない。
クラブに浸透するメンタリティ
〔11月22日 竹内会見〕
「今回、合宿に参加するにあたって
いろんな人からメッセージをもらって、
改めて自分は応援されてるんだなと思って
この合宿に参加して本当に良かったと思います」
竹内の会見後、
どうしても話を聞きたい人物が浮かんだ。
宇都宮ブレックスの安齋竜三ヘッドコーチだ。
クラブ創設時から選手としてプレーし、
親企業を持たないプロスポーツクラブの
地道な成長過程を経験してきた男でもある。
9月に特集の取材でインタビューした際には、
ファンやスポンサーの支えあってこそ
プロスポーツクラブが成り立つことや、
その概念を浸透させるように
現在チーム作りをしている話も聞いていた。
竹内が「辞退」まで考えたという代表活動。
「ファンやスポンサーのために」という想いが
最後に後押ししたならば、
安齋ヘッドコーチが
クラブとして大切にしているマインドが
少なからず
影響しているのではないかと思った。
〔11月25日 安齋ヘッドコーチ取材〕
「うちの選手は早い段階でプロチームになって、
ビラ配りとかをしてきた時期があるので、
特に昔からいる選手は。
僕らはそういうふうに活動をした結果が
こうなっていて。
結局お客さんが来てくれないと
僕らは生活できないっていうのは、
ある程度の選手は
みんなそういう思いを持っていて
取り組んでいると思いますけどね。」
ブレックスもかつては
集客に苦しんだ経験がある。
それでも徹底的に地域に根ざした、
地域に愛されるようなクラブを目指しながら
試行錯誤を経て、
今のブレックスアリーナの光景がある。
そのクラブの歴史や、大事にしてきた哲学は選手たちに染み付いてると言う。
さらに、日本代表という注目が集まる場で
ベテラン竹内がこのような発言をすることに
意味があると続ける。
「なかなか選手ってそういう言葉を
出す機会はないと思うんですけど、
今のBリーグにおいては
すごく良いきっかけというか、
プロって名乗ってるけどプロって何なのって。」
「ただバスケットやればいいってわけじゃない。
いろんな選手が
もっと意識していかないといけないし、
リーグもまだ6年目で、
まだまだここから何十年も続けていくには、
そういう選手を増えていかないと
いいチームで作っていけないと思う。」
「そういう思いをコウが話してくれたのは
すごくいいことだなぁと思います。」
自分を変えていけるから、進化がある
〔11月22日 竹内会見〕
「いろんなヘッドコーチから
バスケットを教わるのは
自分にとってプラスになると思います。
自チームでの活躍がトム ヘッドコーチに
呼びたいと思ってもらえたので、
非常に光栄です」
こう語るように、
竹内は新しい指揮官の下で
新しいバスケットを習得することに
意欲を燃やしている。
そう、
過去の実績だけでは代表には呼ばれない。
日々のリーグ戦での活躍が目に留まり、
代表招集の声がかかったことを
忘れてはいけない。
ここ数年は膝の怪我の影響や、
Bリーグの外国籍選手
オン・ザ・コート・ルールの変更で、
短いプレータイムの中で
仕事をする機会が増えている。
それでも変化に順応しながら
チームに欠かせない働きを見せる仕事ぶりを
安齋ヘッドコーチはこう絶賛する。
〔11月25日 安齋ヘッドコーチ取材〕
「コウのスゴイところは、
どういう使い方をされても
自分を変えていける所。
普通、あれぐらいのレベルの選手だったら
プレータイムが少なくなったり、
本当はこんな良いプレーをしてるのに
結局外国籍選手を使うのかってなると、
自分のプレーによりベクトルを向ける選手も
多いと思いますけど、コウは1回もないですね。」
「プレータイムが変わっていく中でも、
常に自分たちが
求めていることをやってくれるし、
今シーズンはジョシュとアイザックが2人いて
特に外のシュートも
打つパターンが多くなってきてますけど、
シュート練習や取り組み方も変わってきたりして
そういう部分がすごいなと思います。」
17年間、
日の丸を背負ってきたほどの選手でさえ、
今もなお貢献できる形を適材適所で見極め、
チームが求める働きを見せている。
竹内に3月に取材した時には、
少ない時間でベストパフォーマンスを
発揮するために
準備の質を上げたことを教えてくれた。
〔3月17日 竹内取材〕
田臥さんもそうなんですけど、
短い時間の中で100パーセント以上のものを
発揮するためにゲームまでの準備。
そういうところは
今まで以上に時間かけるようになりました。
ブレックスのホームゲームは15時が多いので、
10時とか9時とか
大体5時間前に起きるんですけど、
家でストレッチして、風呂入って体温めて、
逆算してブランチをこの時間にとってとか。
体育館に今までは2時間前に入ってましたけど
3時間前に入って、
入念にアップして体を温めて。
年がとればとるほど
エンジンかかるのも遅くなってくるので、
今まで以上にそういう所に時間をかけたら
コンディションが上がったかもしれないです。
いつ代表活動が
"最後"になってもいいという覚悟で、
これまでも代表合宿に参加してきた。
その覚悟とは裏腹に
常に自分をアップデートさせ
進化を遂げてきた。
2023年のワールドカップ、
予選ラウンドは日本の沖縄で開催される。
その時、竹内は38歳だ。
11月27日から始まるW杯予選、
日本は開催国枠を手にしている身ではあるが、
新体制のもと、全試合がアピールの場にある。
竹内のリーグ戦でのパフォーマンスや
日々進化し続けている様子を見ていると、
2年後の大舞台に立っている姿も
想像できてしまうのだ。
--------------------------------------------
▼竹内公輔選手
3月取材時のNocutインタビューはこちらから💁♂️
筆者Twitter