住宅産業論ノート|ハウスメーカーと戦後日本の家づくり文化 はじめに&目次
noteのマガジン「住宅産業論ノート」とその他のマガジンにも書き散らしていた文章たちのうち、住宅産業や家づくりに関するものを再編して目次化してみました。そうしてみると、「あれとあれはまとめるべきだよなぁ」とか「新しくこういうネタでも書かないとバランス悪いよなぁ」とか気づくキッカケになったりも。以下、そんなカンジにスケッチしてみた架空書籍の目次とその前書きです。
目次の改訂:2019年7月25日
はじめに
『住宅産業論ノート』は、よくもわるくもハウスメーカーによって牽引されてきた戦後日本の家づくり文化についての解像度を上げ、「これからのすまい」を探る試みのメモランダムです。
家づくりを考えるとき、好むと好まざるとにかかわらずハウスメーカーを無視することはできません。ただ、世間一般に持たれるハウスメーカーのイメージは驚くほど歪んでいるように思える場面に多々出くわします。
たとえば、先日、とある集まりで某工務店社長さまのスピーチを聴く機会がありました。以前からその工務店が目指す住宅像や業務展開には共感していたものの、スピーチで語られる社長のハウスメーカー像があまりに偏ったもので驚きました。家づくりを生業としていても、ハウスメーカーへの認識は戯画化されたものに止まっている。しかも、そこでなされる批判の大半はほぼブーメランでもあるという。
日本の家づくりをダメにした諸悪の根源はハウスメーカーで、あんなこともこんなことも全部ハウスメーカーが金儲けのためになした悪行だという説は限りなく陰謀史観に近い。
この、工務店を「伝統的な大工」の系統に位置づけ、それに対してハウスメーカーを大企業の金儲け主義という「悪者」に仕立て上げる論法は、紋切り型というかbot化した完成度を誇っていて、住宅についての語り手と聞き手のある意味で真摯な共犯関係をなしているようにも思えます。
それはデザイン史の冒頭を飾るアーツ・アンド・クラフツ運動がつくり出した批判ロジックの戯画とも言えそう。いわば「近代批判」の一形態として「ハウスメーカー批判」が形作られているといっても過言ではないのでは中廊下と。
敗戦後から高度成長期にかけての日本。圧倒的な住宅難のなか、国もハウスメーカーも工務店もユーザーも、みんな良かれと思って「これからのすまい」の夢を追いました。その結果がこの現状だし、かといって誰もがこの現状を望んだわけではないでしょう。
そんな現状を乗り越えるためにも、陰謀論ではなく功罪ちゃんと見極め批判(&自己批判)しないとダメだよな、と。元ハウスメーカー勤務の私がこう言うと「ハウスメーカーを救済&讃美している」と受け取られてしまうほど、紋切り型の引力は大きいものです。
戦後日本の家づくりにおいて、ハウスメーカーはもちろん、建築家、工務店、大工・職人、ユーザー、メディアそれぞれが、それぞれの時代や社会の背景という枠組みのなかで何を語り、何をなしたのか。そして、そんな語られ方・かかわり方の蓄積は、どんな文化を生み出したのでしょうか。
そのことについてのディテールをひとつひとつ見つめ、少しずつ考えることで「これからのすまい」を探る足場をつくりたいと考えています。細かなディテールに目をやれば、自ずと肯定・否定、成功・失敗の二元論は意味をなさなくなるはず。
本書はそんなあーでもないこーでもないを書きつづるノートを寄せ集めたものです。ハウスメーカーが好きな人もそうでない人も、住宅にかかわる専門家の方も素人の方も、いろんな人に読まれ、そして批評されることを期待しています。
戦後日本の家づくり文化をさぐる思索は、戦時中と敗戦後からはじまります。一緒にその風景を覗いてみましょう。
目次
イントロダクション
PART 1 戦争が準備した戦後日本の庶民住宅
1.はじまりの国民住宅
2.ミサワホームはプレモスの子孫?
3.社会変革は規格化住宅で|前川・西山・大和ハウス
4.住宅金融公庫|戦後の住まいをつくった鋳型
5.ドラマ「お家がほしいの」と家族のカタチ
6.ふたつの住宅産業論|西山夘三と内田元亨
7.新潟地震とバス団地
PART 2 ハウスメーカーの登場
1.左官職人とミゼットハウス(準備中)
2.夏休み、実家に帰るメカニズム
3.積水ハウスとバーバパパの夢
4.三井Uハウス|飯塚五郎蔵と集成材住宅
5.大量生産の神話、大量販売の理想|直販とディーラー(準備中)
6.まちをめざしたプレハブ住宅|積水ハウス・テラステン
PART 3 ミサワホームから学ぶこと
1.坪25万円! Limited 25の「衝撃」
2.フリーサイズと西山夘三の苛立ち
3.ホームコア|「量の時代」に家を売ること
4.商品化住宅の誤算と遺産|ミサワホームO型
5.(バック・トゥ・ザ・)フューチャーホーム2001
6.山本専務と三澤社長
PART 4 成熟するハウスメーカー
1.屋根なんて飾りです|ハイムM1の栄光と挫折
2.工業化住宅の住みこなし|林・富田邸/ハイムM1
3.伝統日本の鉄骨愛国|大和ハウスとパナホーム(準備中)
4.木造・注文・メーカーの桎梏|東日本ハウスの半世紀
5.日曜大工デモクラシー|ツーバイフォーのロマン
6.小堀住研とハウス55プロジェクト(準備中)
7.始原としての「バウハウス」(準備中)
PART 5 いま、住宅産業論を超えて
1.住宅産業からまち育てへ|延藤安弘の挑戦
2.モクチンメソッド|危機を好機に転換する
3.住宅営業についてのメモ|木造・注文・住宅・産業
あとがき
Column
(1)軍隊経験と建築家|菊竹清訓と清家清
(2)家相|民主主義のリテラシー
(3)GOMAS|カレーうどんのような住宅
(4)大工・職人文化のたどりついた先
(5)秋岡芳夫と「住み捨てる習慣の国」
(おわり)
サポートは資料収集費用として、今後より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。スキ、コメント、フォローがいただけることも日々の励みになっております。ありがとうございます。