『極悪』の次は『デンジャラス』である
世間様から随分遅れながらNetfrixで昨年話題になった作品群をこの時期としては異例な雪浅い北陸のとある地域でまったり鑑賞している。そして20世紀プロレスファンにとってはまずやはり『極悪女王』と『悪のオーナー:Mrマクマホン』からである。『悪のオーナー~』については昨年の同じ時期に充分『Ⅹ』の物語で語り尽くした部分のおさらい的な部分と来週行われるWWEの時間差バトルロイヤル『ロイヤルランボー』の優勝者が大方の期待通り平和なあの人になった際に改めて41年目のレッスルマニアに向けて語ってみたい。今回は『極悪~』後の女子プロ史的なものを語りたい。
さて全5話の『極悪~』だがマニア層の感想も含め賛否を事前に確認していたが、個人的には2話までは80年代を描いた青春ドラマとして秀逸と感じた。3話以降のダンプ松本変身後については史実改変が多い為マニアには賛否別れたのも納得である。ネタバレは防ぐが結末については『悪のオーナー~』のクリークによるMSGでの騒動ともシンクロしていた事も含めて非常に納得できるエンディングだったと思う。
正直『極悪~』は話題になって気になってたもののこの時期まで観なかったのは自分の好きなジャンル系にはこれまでガッカリさせられる事が多かった事も理由にあげられる。実際『極悪~』で一番気になったのがジャパングランプリ~武道館メインに至る辺りの微妙な史実改変であった。しかしこのドラマの巧みさは敢えて史実における武道館でのジャガー横田vsライオネス飛鳥のWWWA世界選手権を映像として描かない事で何をかいわんやとしたところである。更にはその日の武道館で行われたベストバウトたるデビル雅美vs長与千種のオールパシフィック選手権は存在すら無視した事に尽きる。
更に驚いたのはジャッキー佐藤vs神取忍の喧嘩マッチを雑誌記事という扱いながら重要な要素として取り込んでいる点である。もちろんこのドラマがクラッシュvs極悪同盟の全てを描き切ったとは思わないが、不足分はブル中野さんのYoutubeチャンネルや女子プロレスラーのインタビュー系等で充分補填できる。そしてその続きとして kindle unlimited でも読める『プロレス少女伝説』もお是非勧めしたい。
リアルタイムとしての1984年。実は私はビューティペアについては歌手としての記憶しかないが、クラッシュギャルズについてはドラマでも描かれていたジャパンGP辺りから確かにゴールデンタイム(30分枠)で試合を観れた事であの髪切りマッチの理不尽な興奮をよく覚えている。今現在だからわかる事だがアントニオ猪木とテリー・ファンクに長州やUWFまで好き放題に演じた長与千種とブッチャーとシンにハンセンまで混ぜたダンプ松本の抗争がそもそも面白くない訳が無かったのであるが、当時ダンプ松本が決め言葉にしていた『マジだぜ!』の真意を『極悪~』は良く伝えたと思う。だからこそ『もぉええでしょう?』並みにこのセリフは使って欲しかったが。。。
ダンプ松本の『マジ』と長与千種のソレに対するジャガー、飛鳥の思想的なものが『極悪~』のメインテーマの一つだったと思うが、その観点からダンプ松本の『マジ』なヒール像に挑んだのがブル中野さんとも言える。そういう意味では『極悪~』の続編的なものとして『金網女王』或いは『金網の青春』が相応しいと思えるが、クライマックスとなる金網最上段からの大げさではない決死のギロチンドロップを誰が再現できるのか?も含めやや難しいだろう。ブル様は昨年WWE殿堂入りしたのでそういう意味でも『極悪』に次ぐ女王ドラマは是非もう一人相応しい後輩レスラーをお薦めしたい。
ズバリ!次は『デンジャラスクイーン』北斗晶を描いて欲しい気がする。
ヒールレスラーダンプ松本を金網ギロチンで超えた?のがブル中野ならば、女子プロレス最高のカリスマ長与千種を瞬間的にも超えたのが北斗晶と私は思っている。残念ながら私は金網ギロチンの現場には立ち会えなかったが北斗晶が長与千種を超えた瞬間には立ち会う事ができた。それはもちろん1993年月4月の女子プロオールスター戦での神取忍戦である。ちなみにあくまで個人的にな話だがこの試合は300近いプロレス興行を生観戦した私の中でのガチなベストバウトでもある。
『極悪~』後半でかなり長与千種は露悪的に描かれている。本人監修なのでもしかしたら意図的に自らそうしているのかもしれない。この時期の長与についての真偽はわからないが前述の女子プロオールスター戦で長与は横浜アリーナに集まった観衆に向かってやってくれたのだ。この時点で長与は引退し主演舞台の宣伝的な扱いとしてかつてベストバウトを受賞したデビル雅美との10分エキシビジョンを行った。この日は団体対抗戦で前座から噛み合わない攻防になかなか観客も湧かない状況が続いたが、そこで明らかに現代の女子プロにも通じる技攻防へのアンチテーゼとしてオールドファッションながら所謂心のプロレスを長与とデビルが始めてついには10分超えのこの世代のレスラー達が委縮するような試合という意地悪を仕掛けてきたのだ。
この時代は週プロ全盛期である。この濃密な試合を魅せられた時点で私は嗚呼間違いなくターザン氏による意地悪な批判記事もっち言えば表紙でチクリと女子プロオールスター戦が批評されるだろうなぁと思った。事実この時点で試合内容としてい最も期待されていた?関西vs堀田は完全に食われた。
やや脱線するがこの日は12時を過ぎる興行となりメイン前に終電のアナウンスがされ実際私は翌日がレッスルマニア9観戦の為初めての海外旅行だったので鎌田から先輩と大枚をはたきタクシーで帰ったのを覚えているが、
そこまで遅れたのはWWEでの殿堂式典より随分前に行われたレジェンド女子レスラーを紹介するセレモニーであった。現役オールスターによる団体対抗戦という大舞台でこんな事をするのが全女であり松永兄弟であった。。。
もしこの日の北斗vs神取戦が爆発せず長与千種を筆頭とするオールドタイマー達の勢いに飲まれていたらどうなっていたのだろうか?と今も思う一方でもしかしたら長与千種が北斗晶がデンジャラスクイーンに変身するトリガーになったのでは無いかとも思う。1999年1・4の橋本vs小川戦に煙草を吸ってドームを入場してきた大仁田への猪木さんの危機感が影響したのでは無いか?という仮説については今や関係者も語っている。あの時の小川の名言『新日本プロレスファンの皆さん!目を覚ましてください!』もそう考えると何に対して言ったのか味わい深い。あの日の長与は大仁田であった。そして北斗vs神取も一歩間違えば橋本vs小川になっていた可能性はジャッキーvs神取戦を知るだけに全く無かった話でも無いと思うと更に味わい深い。
そしてこの日の長与vsデビルと北斗vs神取はある意味では『極悪~』では違う意味で描かれたが試合≒思想の戦いでもあったと言える。そしてそれは結局晩年にタッグでお茶を濁したがシングルでは実現できなかった長与vs神取の形を変えた戦いであったとも言える。しかし結果的にこの状況で良いところを総取りしてしまった北斗晶はデンジャラスクイーンを襲名してゆく。物語としては難しいと思うのだが。。。『極悪女王』の後は『過激女王』こそがこの続編に相応しいと今回全5話のドラマを観て思ったのである。。。
ところがこの長与千種と神取忍と北斗晶の三つ巴による物語は現実のプロレス。。。しかもよりワールドワイドな 2019年のレッスルマニア35でリメイクされる事となる。この前年UFCから舞台をWWEに変えた女子MMAのスーパースターたるロンダ・ラウジーは言うまでも無く神取忍的存在である。当初はこのロンダとWWE史上名実ともに最高の女子スーパースターたるシャーロッテ・フレアー(あのリック・フレアーの実娘)による夢の初対決が想定されていたと思われる。シャーロッテはもちろん長与千種に負けず劣らぬカリスマでこの試合は実現できなかった長与vs神取的意味合いを持つものであったが誰も予期しない乱数が全てを変えてしまったのである。
シャーロッテとの夢対決に向けた過程としてサバイバーシリーズでロンダの相手役に選ばれたベッキー・リンチが乱闘中の鼻骨骨折で欠場となった事でレッスルマニア前にロンダvsシャーロッテが実現してしまった。余談だが私はこの時桑田佳祐氏の『月』が鳴り響きなんとも切ない想いになったのを記憶している。更にこの負傷でまるで女性版ストーンコールド、否ここまでの文脈で言えばデンジャラスクイーン北斗晶の如くベッキーは見る見る変貌して遂にはレッスルマニア史上唯一の女子によるメインイベントとしてシャーロッテvsロンダ戦に割り込み3WAYマッチを行い2名による王座統一戦のベルト2本まで奪い取ってしまったのである。これはやや強引な見方かもしれないがこの日のベッキーリンチの容姿は誰がどうみても北斗晶だった。
なんとなくおっさんがとりとめもなく古き良き女子プロの思い出を語ってしまったが最後にちょっと今の女子プロについて語って締めたい。といってもスターダムやマリーゴールドの話ではない。元WWEサーシャ・バンクスことメルセデス・モネについてである。これはあくまで私にはそう見えるという事実確認無い話ではあるがモネのWWEへの怒りは結局ベッキーへの嫉妬或いは近親憎悪と私は思っている。私は1・5でのモネの試合を配信で観たがそこについて語る気は全くない。ただモネの露骨な感情表現を観るにつけ2018年のWWE両国興行の前座でも入場時から全く手を抜かなかったベッキー・リンチの姿を思い出す。今思えば例のサバイバーS直前のベッキーだったのだが当時私はもうここから上がる可能性も無いのにとやや気の毒にくらいの持ちでベッキーをリングサイドから観ていた。あくまで私の主観でしかないが結局毎日腐らず諦めずに上を目指している者にしか奇跡は起こらないのである。私がベッキーをWWEの四皇『赤髪』と認める所以でもある。
逆に言えばそんなスターが突然現れるのも女子プロレスの魅力でもある。