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独歌絶唱

noteを始めた時、一人だった。
始めはただの役立つ情報源と、大きな洞穴だと思っていた。比重は大きくなかった。
今ほど分量が多くはなかったが、文章を綴った。
言うまでもなく稚拙だった。言ってみただけで、誰一人として返答はなかった。

はっきり言う。noteなどいつ退会してもよかった。
何を言っても響かず届かず、何も面白くなかったので、軸足を現実に移した。ワクワクすることが沢山あって、それに夢中になった。
それを書こうとは思わなかった。

夢中になれる事をやめ、改めて自分を整理し始めた。己の語る言葉であれば問題はないと、作り上げた世界観を少しずつあげた。
何の返答もなかったが、想定はしていた。
画面の向こうには、誰かがいるとは思っていた。

返答のない声に興味はなかった。人の扱い方が雑になった。
そのまままた現実に軸足を戻した。
ここで雑になった扱い方は現実でも変わらなかった。

そのうちにどうやって生活をしていたのか分からなくなった。
少しばかり思考を整理して、言葉にした。
見てくれる人がいた。
その人々はこの場所に夢を抱き、実際に行動をしていた。彼らの軌跡をたどりながら、言葉を書き並べて、作っていった。
悪いがまだ一人だった。

彼等には紹介し合う仲間がいた。賞賛し合う仲間がいた。
少しばかり羨ましさはあったが、一人でやろうと思った。

時が流れた。
noteには沢山の人が増えた。誰もがお互いにお互いを賞賛し合い、讃えあった。
建物が建ち、そこに住むようになった。そこからPCを立ち上げ、生活を綴った。合間合間で生活をしていた。賞賛がつくようになった。
誰も部屋には入ってこなかった。
一人なのは変わりがなかった。

生活が煩わしく、キーボードの具合が気に喰わないため、外で直接話すようにした。行き交う人々と、時々に言葉を交わし、良好な近所づきあいをした。
毎日話すような人がいた。
公園の池沿いの、小さなベンチで煙草を吹かしている時、その人は現れた。その人は近くの団地に暮らしている人で、閉鎖的な世界から、時々この広い公園にやってきた。
理由もなく僕の隣に腰掛けては、他愛もない話をして、最後に一枚写真を撮って帰っていった。
煙草を吹かしながら、よくその人の話を聞いた。僕はその話を興味深く聞いていたが、端から言葉は溢れて行った。話すその人の表情の方が、僕には気になった。
暖かい時間が流れ、牙を剥く事を少しばかり忘れた。
それでも帰る部屋は、一人であった。

時は流れた。
noteには人々が讃えあうステージが生まれ、沢山の人がそこに思い思いの作品を並べ、賞賛し合うようになった。
僕もそこに言葉を寄稿し、沢山の人々に見てもらう機会を得た。一つひとつのレースは魅力的で、見てもらうことは悪くはなかった。
公園で話す機会は少し減ったが、その人も見ていると思えばこそ、書くことに陰りはなかった。
まだ、一人であった。

そして、数年という長い時間が流れた。
この街で僕がしてきた事は、始めた時と何も変わらず取るに足らない。
街に声が溢れ、人々が挨拶を交わしたり、賞賛を交わし合うようになった。かつて言葉を交わした人々は、外で楽しそうにしている。
役割は終えた。
やり終えていない事の、答えは出ない。
競い合って顔を売ろうという気持ちは過ぎ去った。
僕は僕の煩わしい者どもや行動を、消し飛ばして行きたいと思う。それは現実でも、ここでもそうだ。
賛同などいらないし共感もいらない。最初から一人で良かった。誰の声もいらない。

回帰する。一人でいい。淡々と、道を歩む。迷いなく、濁りなく。
求めるべきは無に焼かれた鋼鉄に注ぐ絶歌だ。
難しい事は考えていない。
重要な事は、書くことではなく、書くに至る熱情だ。
何度も筆をとったが、今、その熱情はどこを探してもない。
賞賛し合う街の中に、走るべき道は見つからない。
書く事、変えていく現実、競うべきものに対して、しばらく一人で考えていこうと思う。今必要なことは、これまでのように駄文を書くことではない。

これまでも、これからも一人だ。
これをもって暫し筆を置く。

いずれまた、そのうち。

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薄情屋遊冶郎
サポートはお任せ致します。とりあえず時々吠えているので、石でも積んでくれたら良い。