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ハイトーンとの付き合い方

多くの金管奏者にとって、高い音を吹くことは1つのあこがれです。
きれいなハイトーンはカッコいいですし、高い音が射程範囲であれば挑戦できる曲も増えます。

自分も以前はハイトーンへのあこがれが強く、高い音が得意な奏者は羨ましかったですし、自分がハイトーンを出せたときには満足感がありました。
しかしそこを通過した今、大事なのはハイトーンを出すこと自体ではなく、それによって得られる演奏効果なのだと、強く思います。
ただ高い音を出すだけでは、そこに音楽的な意味はないのです。

ハイトーンによって得られる演奏効果は大きく2つ考えられます。
1つはハイトーンそのものを聴かせるケース。
曲中で出てくるハイトーンを奏者が魅力的に吹くことにより、その音がダイレクトに聴き手に良い印象を与えます。どちらかというとハイトーンが得意な人向きのケースです。

もう1つはハイトーンを吹くことが楽曲の求める演奏効果につながるケース。
作曲者や編曲者がその楽器のその音域の音を求めていて、ハイトーンを吹くことでそれを表現することができます。

ハイトーンを出すにあたって、いずれかが目的になっていることは頭に置いておきたいところです。

ハイトーンは疲れるものである

ちょっと物理の話をします。間違ってたらすみません。

そもそも音の高さというのは空気の振動数で決まります。
一般的なチューニングのA(ラ)の音は、440Hzないしは442Hzに設定されることが多いです。1秒間に空気の振動が440回。
振動数が多ければ音は高くなり、オクターブ違うと倍になります。チューニングのAのオクターブ上のAの音は880Hz。オクターブ下は220Hzです。

楽器は空気を振動させるための発音体を持ちます。
弦楽器であれば弦、太鼓であれば膜、木管楽器であればリードなどです。
そして金管楽器における発音体は、「奏者の唇」です。
唇を弦のように張り、そこに息を流すことで唇を振動させます。

唇を「張る」ためには、その周りの筋肉を使う必要があります。
筋肉は使い続ければ、当然疲労が溜まります。金管奏者が休みなく楽器を吹き続けるのは、とても大変なことなのです。

そして高い音を出すためには、より「短く強く」唇を張る必要があります。
これにはより難しい筋肉の使い方が求められるので、金管奏者にとってのハイトーンは「キツくて疲れやすいもの」だったり、「出したくても出せないもの」だったりするわけです。

良い距離感で付き合っていく

自分はトロンボーン吹きですが、そこまでハイトーンが得意な方ではありません。
決め所でHigh-B♭を当てたりするのは楽しいですが、それより上のHigh-Cとかが譜面にあるとちょっと嫌だなと思いますし、それより下のGとかA♭とかが頻繁に出てくるような譜面もやっぱり避けたいと思ってしまいます。

コンディションを整えれば、音を当てることはできるかもしれません。
ただ、当てることが精一杯になってしまいます。
音色に気を遣ったり、音楽的な仕掛けをする余裕がないのです。

なので曲を選ぶときは、基本的には自分が音楽的に扱える範囲の音域で書かれている曲を好みます。
編曲譜面を書く時も、自分が吹いていて楽しいと思える譜面を書くことを心がけています。
もちろん簡単すぎる譜面だとつまらなくなってしまうので、できるだけ「自分の実力より少し上」くらいを狙うようにしています。

ハイトーンはとてもカッコいいですし、得意な人が吹けばとても魅力的な演奏になります。
しかしそれは数あるアンサンブルの楽しみの中の1つであり、魅力的な瞬間は他にも色々な方法で作れるということは、忘れないようにしたいと思っています。

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