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【読書メモ】成人発達理論による能力の成長

タイトル:成人発達理論による能力の成長 - ダイナミックスキル理論の実践的活用法
著者:加藤 洋平
出版社:日本能率協会マネジメントセンター


マネジメントの仕事の1つにメンバーの成長支援があるけど、成長を支援するとはどういうことだろうと思って手に取ったのが本書です。著者曰く「成長のプロセスとメカニズム(知性発達科学)を解説し、自己の成長と他者の成長を促す方法を紹介している実践書」とのことです。以下、ポイントをメモしていきます。

序章 自他成長を促す「知性発達科学」

知性発達科学とは

知性発達科学は、「私たちが持っている様々な知性や能力が、どのようなメカニズムで成長し、どのようなプロセスをたどりながら成長していくのかを解明する学問」のことです。

2種類の成長

1つは、人間としての器(人間性や度量)の成長です。もう1つは、私たちが発揮する具体的な能力(スキル)の成長です。(中略)ロバート・キーガンの発達モデルは、まさに人間としての器の成長プロセスやメカニズムを説明してくれる優れた理論です。(中略)理論は、「人間としての器の成長」に的を絞ったものである(中略)。器としての成長を考えていくのと同時に、「能力」の成長についても真摯に考える必要があるのです。

「器」と「能力」それぞれの成長を考えることが大事という話ですね。その内、本書では「能力」の成長を扱っています。

第1章 「ダイナミックスキル理論」とは

ダイナミックスキル理論について

カート・フィッシャーが提唱した「ダイナミックスキル理論」(中略)は、私たちの能力がどのようなプロセスとメカニズムで成長していくのかを説明してくれるものです。(中略)ダイナミックスキル理論の根幹には、「私たちの能力は、多様な要因によって影響を受けながら、ダイナミックに成長していくものである」という考え方があります。

ただ、これまで能力は静的なものとして捉えられていたとのこと

デカルト的な認識論は、人間の知性を生物学的・文化的な要素、すなわち、私たちの知性を環境・文化・身体と切り離してしまったのです。本来であれば、私たちの知性は環境・文化・身体と相互作用をする、というダイナミックな特徴を持っているにもかかわらず、デカルト的な発想は、それらの相互作用を無視することを招いてしまったのです。

ダイナミックスキル理論は複雑性科学を取り込んだ

カート・フィッシャーの大きな貢献の1つは、発達科学と複雑性科学を繋いだことです。

成長プロセスを表すメタファーについて

フィッシャーは、「能力の成長プロセスは、『網の目』のようなものである」と指摘しています。「発達の網の目」というのは、様々な能力がお互いに関係し合いながら成長していく、ということを掴むことに有益なメタファーです。

引用元:「成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法」

スキルとは

フィッシャーが述べている「スキル」とは、私たちの知識や経験の総体のことを指します。(中略)単なる小手先のテクニックのようなものを表すのではなく、自分のこれまでの知識と経験の集積体のようなものなのです。(中略)フィッシャーのダイナミックスキル理論は、私たちが持つ様々なスキルの成長プロセスやメカニズムを明らかにするのと同時に、スキルのレベルを正しく評価するための枠組みも提供してくれます。

能力の特性①:「環境依存性」について

私たちの能力は、置かれている環境などの特定の状況の中で磨かれ、その状況の中で発揮されるものなのです。(中略)リーダーシップ能力というのは、「環境依存性」が高いということです。(中略)能力の環境依存性に基づいて考えると、私たちがある特定の能力を開発する際に最初に重要なことは、自分が置かれている状況の種類や特性を考えることです。

能力の特性②:「課題依存性」について

私たちの能力は、特定の課題に紐づいて発揮されるだけではなく、具体的な課題を通じて成長していく(中略)。ある特定の能力を伸ばしたい場合、その能力と密接に関係した具体的な課題に取り組んでいくことが必ず求められる。

能力の特性③:「変動性」について

変動性とは、能力の種類やレベルのばらつきのことです。(中略)重要なのは、変動性をもたらすのは、私たちを取り巻く環境や取り組む課題だけでなく、私たち自身である、ということです。(中略)多様な状況の中で具体的な課題を通じて、失敗と成功という紆余曲折を経ることによって初めて、私たちの能力が熟達していくのです。

サブ能力について

1つの能力を構成する小さな様々な能力のことを「サブ能力」と呼びます。(中略)個別具体的な実践を通じて、サブ能力を少しずつ高めていくと、ある時、全体としてのリーダーシップ能力が高まるということが起こりうる。(中略)サブ能力を高めていくことによって、能力の網の目構造の結び目がどんどん強固になり、ネットワーク全体が強固になっていくのです。

「最適レベル」と「機能レベル」と「発達範囲」

最適レベルとは、他者や環境からのサポートによって発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベルのことです。
機能レベルとは、他者や環境からの支援なしに発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベルのことです。
最適レベルと機能レベルの間にはギャップがあり(中略)、このギャップのことを「発達範囲」と呼んでいます。

カート・フィッシャーの研究成果が示す(中略)ように、発達範囲は、年齢を重ねるごとに両者の溝が拡大していくのです。(中略)高度な能力を獲得していくためには、他者からの支援が常に不可欠なのです。

第2章 大人の能力の成長プロセス

成長サイクルについて

私たちのありとあらゆる種類の能力は、ある1つの法則性に基づいて成長していく(中略)。その1つの法則性というのが、「点・線・面・立体」の成長サイクルです。(中略)この様子はまさに、部分と全体が同じ形であるという「フラクタル構造」を示しています。

引用元:「成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法」

ダイナミックネットワーク理論とは

ダイナミックネットワーク理論とは、様々な能力がネットワーク上に結びつくことによって、ある力が発揮され、能力の成長が実現することを示すものです。

質的な成長と量的な成長について

能力の質的な成長とは、能力の構造の複雑性が増大していくことです。
能力の量的な成長とは、一つ一つの能力が結びついて構築されるネットワークが、徐々に拡大していくことです。

「成長法則」としての5つの法則について

5つの法則を理解すると、これまで曖昧だった能力の成長メカニズムがよりクリアになるだけではなく、能力を開発する際に、自分が次にどの法則を活用すればよいのかが明らかになります。
5つの法則はそれぞれ①統合化、②複合化、③焦点化、④代用化、⑤差異化と呼ばれます。

「統合化」は、「質的」な成長、すなわち「垂直的な成長」を説明します。

「統合化」は、今自分が持っている複数の能力が結びつき、現在の能力レベルから新たなレベルへの成長を説明する法則

「複合化」は、「量的」な成長、すなわち「水平的な成長」を説明します。

「複合化」は、今自分が持っている複数の能力が現在のレベルの中で組み合わさって、より高度な能力を獲得することを説明する法則

「焦点化」とは

「焦点化」は、ある課題をこなすために必要となる能力を、即座に選び抜くことを可能にする法則

「代用化」とは

「代用化」は、ある能力を一般化させて他の課題に対して活用する、あるいは他の状況内で活用する際に発揮される法則

「差異化」とは、能力全体のレベルが高まるほど、それを構成するサブ能力も高まることを説明するとのことです。

「差異化」は、ある能力がより細かな能力に細分化される際に発揮される法則

第3章 自他の能力レベルを知る

能力のレベルについて

能力のレベルとは、能力の質的差異のこと、つまり、その人が長大な時間と努力を注ぎ込んだ末に獲得される能力の「高さ」や「深さ」のことです。

質的な差異を無視した数字というのは、とても暴力的です。なぜならそれは、私たち個人や組織が持っている個性としての高さや深さを平坦なものにしてしまうからです。(中略)私たちは、単純に量を重視する発想から脱却し、質的なものを見逃すことなく、質的に異なるものを正しく評価する時期にあるのではないでしょうか。

私たちの能力は、5つの能力階層を経て成長していくとのことです。

「反射階層」は、能力の最も基本的な階層構造であり、無意識的な反応を生み出す特徴を持っています。
「感覚運動階層」は、言葉を用いることなく、身体的な動作を生み出す特徴があり、意識的に物理的な環境へ働きかけることを可能にします。
「表象階層」は、頭の中で、事物のイメージを作ることを可能にする特徴を持っています。
「抽象階層」は、形のない抽象的な概念を操作することを可能にする特徴を持っています。
「原理階層」は、抽象的な様々な概念をさらに高度な概念や理論にまとめ上げて発揮することを可能にしてくれます。

5つの能力階層と「点・線・面・立体」の成長サイクルとの関係について

一つ一つの階層の中に、「点・線・面・立体」の成長サイクルが現れる、ということです。(中略)それぞれ順番に、「単一要素段階(点を作る段階)」「要素配置段階(線を作る段階)」「システム構成段階(面を作る段階)」「メタシステム構成段階(立体を作る段階)」と名付けています。

ある能力が「立体」構造になった瞬間に、それは再び新たな「点」になるということです。
つまり、各階層では、「立体」構造と「点」が重複していることになるため、各階層には「点・線・面」という3つの構造があることになります。
原理階層に到達することは非常に難しいので(中略)、この階層においては「点」の構造を提唱することに留めています。
ここからフィッシャーは(中略)、「3 x 4 + 1 = 13」のレベルを提唱したのです。


引用元:「成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法」

次元を上げて思考することの大切さについて

複雑なものに対処する際に、私たちは、常にその複雑性よりも一段階上の能力レベルがなければならない、ということです。「いかなる問題も、それが生み出された時と同じレベルで発想をしていては解決できない」というアインシュタインが残した名言は、まさにそのことを指摘しています。

「抽象化」というのは、「一般化」という意味に近いものであり、抽象化によって作り上げられた持論には、他の局面にもそれを適用できるという力があります。それがまさに、抽象化による「再現性」です。(中略)再現性があることによって、他の様々な局面にもその持論を適用することができるだけではなく、それが「教育可能になる」という特徴を持っている、ということです。

なぜ私たちの能力は思っているほどに高まらないのか?

知識の圧倒的な欠落と言語化の鍛錬不足が原因であることが考えられます。(中略)もう1つの大きな要因は、体験や書物から得られた知識が、自分の中で血肉化されておらず、知識と実践が分離していることが考えられます。(中略)実践に関しては特に、「言語化」という実践が多くの人の中で圧倒的に欠落しているように思います。(中略)要するに、「点」としての知識を真に自分の中で血肉化させるというのは、その知識に自分の言葉を当て、自分の言葉で再解釈された知識を自分の中に取り入れることです。


第4章 既存の能力開発の問題点とその改善法

既存の能力開発の問題点①:変動性の無視

私たちの能力が状況や課題、そして私たち自身の状態によってダイナミックに変化する、という発想が希薄ということです。

既存の能力開発の問題点②:生態学的妥当性の無視

「生態学的妥当性」とは(中略)、「トレーニングのためのトレーニングになってないか?」「実践を想定したトレーニングになっているのか?」を示す度合いのことです。

既存の能力開発の問題点③:多様な能力領域・多様な成長プロセスの無視

各人には多様な能力領域があり、それぞれに独自のレベルが存在し、それらは多様なプロセスを経て成長していく、という考え方が浸透していない

「ニューウェルの三角形」というモデルを使うことで、成長を促すトレーニングを考える。

「ニューウェルの三角形」とは、私たちが何らかの能力を高めようとする場合、「人・環境・課題」の3要素とそれらの相互作用を常に考えなければならない、ということを指摘する考え方です。

変動性の3つのノイズについて

ホワイトノイズとは、最も変動性が激しいノイズです。逆に言えば、最も安定性が低いノイズです。
ピンクノイズは、変動的過ぎず、また安定的過ぎないという、変動性と安定性のバランスが取れたノイズです。
ブラウンノイズは、最も安定性が高いノイズです。逆に言えば、最も変動性が低いノイズです。

これら3種類のノイズの中で、能力が卓越した人がパフォーマンス中に発揮する波形は、変動性と安定性が最適なバランスにある「ピンクノイズ」です。

最近接発達領域は、能力開発における重要な考え方

最近接発達領域とは、他者からの支援があった場合に、1人では成し遂げられないことが成し遂げられることに変わる領域のことです。(中略)最近接発達領域の重要な点は、私たちには常に1人では成し遂げられないことがあり、他者と協働し、他者からの支援を得ることによって初めて成し遂げられることに変わるものがある、ということです。(中略)私たちの成長においてカギを握るのは、「他者を通じた成長」という発想です。

スキャフォールディングと呼ばれる概念

スキャフォールディングとは、成長プロセスを歩む足取りを確固としたものにするための支援のことを意味します。
1つは「直接的スキャフォールディング」と呼ばれるものです。(中略)支援者が手取り足取り何かを教えることや、一緒になって作業を進めていくことを意味します。
もう1つは「間接的スキャフォールディング」と呼ばれます。(中略)先生が直接的に生徒の身体を調整することはなく、あくまでも手本を示すことや、動きのコツなどを生徒に言葉で伝えたりすることです。

第5章 「マインドフルネス」「リフレクション」「システム思考」との統合

フロー状態について

「フロー状態」とは、別名「ゾーンに入った状態」と言われるように、ある実践に没入している状態です。(中略)現在の自分の能力レベルから考えると難し過ぎず、簡単過ぎずという課題に一定時間取り組むと、自然と大なり小なりのフロー状態に入っていきます。

能力の成長に必要となる3つの要素(まとめのようなもの)

私たちが、他者の能力レベルと課題レベルを考慮しながら、適切な課題を提供することは、他者が最近接発達領域の中でその課題に取り組むことを可能にするのみならず、他者がフロー状態に入って課題に取り組むことを可能にすることにも繋がり得ます。さらに、ピンクノイズが変動性と安定性の最適な均衡から生まれるのと同時に、フローの状態も課題と能力の最適な均衡から生み出されると言えます。
これらを総合すると、私たちの能力の成長には、①適切な支援の存在、②能力レベルと課題レベルの均衡、③変動性と安定性の均衡、という3つの要素が非常に重要であることがわかります。

コルブの経験学習モデル

「具体的経験→内省的観察→抽象的概念化→能動的実践」という4つの要素を1つのサイクルとして学習を行うと、知識や技術がより深いものになっていくというものです。

リフレクションについて

成長につながるリフレクションとは、経験を自分の言葉で抽象的概念化することであり、(中略)経験を抽象化することによって、再現性のある持論が形成されていき、それを新たな経験と照らし合わせながら持論を磨いていく作業を継続することによって、経験が真の意味で「深化」していくのです。

感想

「成長とは何か」ということが少しは理解できた気がします。「点・線・面・立体」の成長サイクル(フラクタル構造)を始めとして、複雑性理論を思考の中心に据えている私には非常にしっくりくる話ばかりでした。また、能力が高まらないのは「知識の圧倒的な欠落と言語化の鍛錬不足が原因」という言葉は、正にその通りだと思いました。組織能力を高めるために取り組んでいきたいポイントです。

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